間もなく公開される『DUNE/デューン 砂の惑星』のような超大作に限らず、SF映画の長い歴史には、様々なタイプの名作、秀作、異色作がたくさん! そこでSF映画を愛する評論家の方々に『私の愛するSF映画』ベスト3を尋ねてみました。
カバー画像:『時計仕掛けのオレンジ』(1971)

“SF映画の祖母”、そしてウェルズ、ディックの原作もの/北島明弘

マイ・ベスト3

  • 『アエリータ』(1924)
  • 『宇宙戦争』(1953)
  • 『トータル・リコール』(1990)
画像: 『アエリータ』(1924)

『アエリータ』(1924)

アレクセイ・トルストイの小説を基に、ソ連で1924年に作られた『アエリ―タ』。技師のローシはロケットで火星へ。地球の様子を望遠鏡で観察してローシに恋していたという火星の王女アエリ―タは、奴隷の反乱を支援するが、それも権力掌握の手段に過ぎなかった。

宇宙旅行、火星のデコール、奇抜な衣装がユニークで、アメリカのSFイラスト、連続活劇に多大な影響を与えた。連続活劇は現在に至るSF映画ブームの火付け役『スター・ウォーズ』(1977)のベースの一つだから、『アエリ―タ』はSF映画の祖母といえる。

画像: 『宇宙戦争』(1953)

『宇宙戦争』(1953)

SF小説の父H・G・ウェルズの小説を基に、近代SF映画の父ジョージ・パルが1953年に製作したのが『宇宙戦争』。死の星と化した火星が小型宇宙船で地球を侵略してきた。宇宙船の造形(日系人アルバート・ノザキが担当)、殺人光線の特殊視覚・音響効果、おむすび頭で大きな目の火星人、逃げ惑う地球人と見せ場も多い。この頃本格的になってきたカラー画面が効果を高めていた。

画像: 『トータル・リコール』(1990)

『トータル・リコール』(1990)

アメリカSF小説家の中でも、映画化されることの多いフィリップ・K・ディック。『記憶売ります』にもとづく『トータル・リコール』(1990)は、ディックが繰り返し取り上げてきた記憶、アイデンティティをテーマに、捻ったストーリー構成で見る者をあっと言わせる。火星旅行の疑似体験がきっかけで、宇宙規模の陰謀が発覚。主演したアーノルド・シュワルツェネッガーのアクション、火星のドーム都市の特殊効果もすごい。

屈折『スター・ウォーズ』世代?の選ぶベスト3とは/相馬学

マイ・ベスト3

  • 『エイリアン』(1979)
  • 『時計じかけのオレンジ』(1971)
  • 『裸のランチ』(1991)

50代の筆者がSF映画に熱中するようになったのは、同世代の多くのファンと同様に1978年、『スター・ウォーズ』の日本公開がもたらした熱狂から。となるとこれをベストの一本に上げるのが筋だし、実際に大好きだが、そんな陽性のアドベンチャーの一方で、繰り返して観るSF映画はダークなものが多い。そんなワケで、ルーク・スカイウォーカーのように真っすぐには成長できなかった、屈折SW世代のベスト3ということで話を進めたい。

画像: 『エイリアン』(1979)

『エイリアン』(1979)

SWの翌年に日本公開された『エイリアン』は、クリーチャー描写はもちろん企業の残酷さを垣間見せるという社会性も子ども心に恐ろしく、SFホラーの可能性の広さを提示してくれた。

画像: 『時計じかけのオレンジ』(1971)

『時計じかけのオレンジ』(1971)

問答無用の『時計じかけのオレンジ』も怖い映画だが、痛烈なブラックユーモアや鮮烈なビジュアル、さらにファッション性を併せ持ち、これと類似する作品はなかなか思いつかない。原作小説も読み直す度にエキサイトする。

画像: 『裸のランチ』(1991)

『裸のランチ』(1991)

逆に、『裸のランチ』は、シュールで難解な原作を読み返したいとはなかなか思わないが、作者バロウズをモデルにした主人公の内面をグロテスクなクリーチャーとともに猥雑に映像化したクローネンバーグの才気に、いつも唸らされる。

クローネンバーグは、しばしばオブセッションを抱える自作のキャラクターを“美しい”と語っているが、SWでSFに憑かれて以来、より面白いものを追いかけ続けた結果、筆者もまた彼らを美しいと思えるほどに屈折してしまったのかもしれない!?

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今自分がいる世界でなく別の世界を体験させてくれればこそ/平沢薫

マイ・ベスト3

  • 『ブレードランナー』(1982)
  • 『ストーカー』(1979)
  • 『π』(1998)

SF映画は、自分がいる今ここではない、別の世界を体験させてくれてこそ。その世界に特有の法則があり、映像に独自の美学があればさらにいい。

画像: 『ブレードランナー』(1982)

『ブレードランナー』(1982)

リドリー・スコット監督『ブレードランナー』の街は、ずっと歩き回っているだけで至福。屋台でヌードルを食べたいし、他の屋台ものぞきたい。タイレル社の高層階の窓から下界を見てみたい。何も壊さないように気をつけるので、セバスチャンの部屋で彼の自慢の作品をじっくり見せてもらいたい。

画像: 『ストーカー』(1979)

『ストーカー』(1979)

『ストーカー』は、アンドレイ・タルコフスキー監督の1979年作。奇妙な出来事が起きる謎の侵入禁止区域に、非合法にその区域の案内人をする男が、作家と学者を連れていく。

画面に映し出されるのはどこにでもある廃屋や草原なのに、それが異世界に見えるという不思議。そこに存在する迷路も罠も目には見えず、画面を見ながら、登場人物3人と一緒にさまよい続けるしかない。

画像: 『π(パイ)』(1998)

『π(パイ)』(1998)

『π(パイ)』は、現時点ではこの1作だけが名作なダーレン・アロノフスキー監督の1998年の処女作。"世界は数字で表現できる"という考えに取り憑かれた数学者が、それを証明しようと自分を追い詰めていく。

この異世界が存在するのは、近未来でも宇宙でもなく、主人公の脳内。コンピュータの回路基板から粘液が滴ったりもする、モノクロの粗い粒子の映像で描かれる世界がクール。

有名な著者の原作小説を映画化したものからチョイス/松坂克己

マイ・ベスト3

  • 『ブレードランナー』(1982)
  • 『遊星からの物体X』(1982)
  • 『プリデスティネーション』(2014)

ベストSF映画3本といわれてもあまりにも間口が広すぎるので、今回は企画のきっかけとなった『DUNE/デューン 砂の惑星』がフランク・ハーバートの原作の映画化ということもあり、原作ありのSFに絞ってみた。

そうなるとやはりまず挙げなければならないのはリドリー・スコット監督の『ブレードランナー』(1982)。原作はフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」(邦訳題名・以下同)。近未来世界の描き方を一新させたハードボイルド調の傑作で、主演のハリソン・フォードも◎だった。

画像: 『遊星からの物体X』(1982)

『遊星からの物体X』(1982)

次はジョン・W・キャンベル・ジュニアの「影が行く」を映画化した『遊星からの物体X』(1982)。1951年の『遊星よりの物体X』、2011年の『遊星からの物体X ファーストコンタクト』と3度映画化されているが、ジョン・カーペンター監督のこの82年版が一番怖くて出来もいい。物体Xの特殊メイクは名手ロブ・ボーティンが担当していた。

画像: 『プリデスティネーション』(2014)

『プリデスティネーション』(2014)

最後はロバート・A・ハインラインの短編「輪廻の蛇」を映画化したタイムパラドックス・サスペンス『プリデスティネーション』(2014)。監督のマイケル&ピーター・スピエリッグ兄弟はだいぶ脚色しているが、原作のエッセンス・狙いはきちんと押さえている。

ハインラインの小説としては「宇宙の戦士」が好きなのだが、ポール・ヴァーホーヴェンによる映画版『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)はあまりにも原作とは別物になっていた。

強烈な個性の持ち主のご贔屓監督3人はSFがお好き/渡辺麻紀

マイ・ベスト3

  • 『ブレードランナー』(1982)
  • 『ダーク・スター』(1974)
  • 『バットマン リターンズ』(1992)

SF映画は、それこそ映画の黎明期から作られてきたジャンルなので、まさに星の数ほどある。そのなかで3本は難しいため、今回は「ご贔屓監督のSF」というくくりで選ぶことにした。

リドリー・スコットは『ブレードランナー』、ジョン・カーペンターは『ダーク・スター』、そしてティム・バートンは『バットマン リターンズ』。3本ともに原作があるにもかかわらず(『ダーク・スター』の原作はレイ・ブラッドベリの短編『万華鏡』だが、インスパイアされただけという解釈もある)、監督の個性のほうが強烈に表現されていて、その原作を吹っ飛ばすようなオリジナリティ。彼らじゃないと生まれなかった作品になっている。

画像: 『ダーク・スター』(1974)

『ダーク・スター』(1974)

SFは世界を構築することが重要なので、それが出来ている作品がSF映画史に名前を刻むことになるのだが、この3本はそれがちゃんと出来ていると言っていい。換言すれば、それが出来る監督がSFを好むわけで、スコットもカーペンターも、ファンタジーに傾くとは言えバートンだって、本作以外にもSF系をたくさん撮っている。

画像: 『バットマン リターンズ』(1992)

『バットマン リターンズ』(1992)

スコットなら『エイリアン』、カーペンターは『遊星からの物体X』、そしてバートンは『シザーハンズ』と、これらもまた素晴らしい。その他のご贔屓監督ではデヴィッド・フィンチャーの『ファイトクラブ』(筆者的にはSF)、ロバート・ゼメキスの『コンタクト』等。

なお、後世に強烈なインパクトを与えた近年のSF映画でくくると『ブレラン』『マッドマックス』『未来世紀ブラジル』の80年代トリオになる。

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