ジム・ジャームッシュらとともに、米インディーズの雄として一世を風靡した『イン・ザ・スープ』のアレクサンダー・ロックウェル監督。25年ぶりの日本公開作品『スウィート・シング』(10/29公開)を引っ提げて、インタビューに応じてくれました。出演した実の娘(ラナ)と息子(ニコ)の話になると、途端に目じりを下げて親バカ全開コメントを炸裂させるほのぼの取材の模様をお届けします。

大人の世界に触れる頃の‟あの年代”を捉えたい

――本作『スウィート・シング』を作ったきっかけを教えてください。

元々、前作の『リトル・フィート(原題)』(子どもたちが出演した1作目に当たる作品)の話に戻りますが、当時はL.Aに住んでいて、お金に困っている生活状態でした。ハリウッドであくせくしている中で、お金にも苦しくなって、ハリウッドに嫌気がさしていた頃で、この地を去ろうかと思っていました。しかし、何もせず去るのも負け犬になってしまうので自分としては納得がいかなかったんです。せめて映画を1本撮ろうと子どもたちと撮ったのが『リトル・フィート』でした。これが、劇場や批評家からも好評を得て、幸いなことに良い風に転がりました。続いて、もう1本、脚本を書いたのがこの作品。いつか子どもたちと撮りたいと思っていました。脚本の中の子どもは、『大人の世界に触れる頃のあの年代を捉えたい』と描いています。子どもの頃のポエトリーで無垢な部分が、大人たちの非常に過酷な部分と衝突するところを描きたいという衝動から作品は生まれました。

――娘・ラナと息子・ニコに監督からアドバイスしたことはありますか?

自分の子どもですから、遠慮なくはっきりと物事が言えるんですよね。例えば、食卓を囲む時も『お願い、あそこのポテトをとってください』という言い方はしないで、『ポテトを寄こせ!』と言いますからね。なので、演出でも2人に遠慮する必要がないので、ニコにもラナにも『はい、今のはやり方変えてもう一度!』とはっきりと演出しました。それで、彼らが傷つくこともないですし。家族の団らんの延長線上みたいな感覚で映画を撮っていたので、非常にやりやすかったね。彼らも父親に遠慮しないので、何か分からないことがあれば問い詰めてきますし、悩んでいることがあれば聞いてきます。僕もそれを受けて、シーンを調整したりもしましたし、『いやいやそのままで大丈夫だよ』と、なだめることもありました。2人ともプロ意識があるので演出しやすかったです。彼らは幼少期から、夜な夜な私と一緒に映画を観て過ごしてきましたからね。幼い頃から映画に触れてきたので、感性が高いんですよ。子どもの頃から、僕も彼らの意見を聞いてきました。家の中で、何か編集している際には、ラナに『今の役者の演技どう思う?』と聞いては『説得力ない!』とダメ出しされたりもしましたし、遊んでいるニコを呼び止めては面白いかどうか聞いたりしていました。2人ともシネマに対しては忌憚のない意見を持っています。

画像: ビリーを演じるラナ・ロックウェル

ビリーを演じるラナ・ロックウェル

――ラナはとても美しいお嬢さんですね。監督から見て、もっともラナを美しく撮れたシーンはありますか?

本当は僕の手柄にしたいんですが、ラナを美しくなく撮るのは無理なんですよ(笑)! どう撮ったって美しい! だから、5割は監督としての力量と思いますが、彼女は凄くカメラに映える顔なんですよね。特に真正面からではなく、彼女がどこかを見つめている時に、その周辺の空間を侵すことなく、そっと斜めから寄せていくのがいい撮り方なんです。バスター・キートンやハンフリー・ボガートなどもそうだと思うんですが、ちょっとした表情の変化が、観客としてはもの凄い感情を受け取るものがあるんですよね。ラナもそんな顔だと思います。フランスのモーリス・ピアラという監督がいて、サンドリーヌ・ボネールという女優さんに対しての言葉がまさに言いえて妙で『サンドリーヌの顔は、ちょっと息を吹きかけるとしわが表れる、まるで牛乳の薄皮のようで、それと同じように、ちょっとしたことが鮮明にあざやかに表情に出る女優だ』と。ラナもそんな子だと思います。

――ニコの成長にも注目です。ニコの好きなシーンはありますか?

好きなシーンが3つあります。まず、父親に水をかけるシーンです。嬉々として楽しそうにやってくれたのはよかったね! あと、アイスクリームを食べるシーン。僕が『いくらでも食べていいから!』って号令をかけたら、本当に手を突っ込んで食べていたので、見ているこっちまで楽しくなりました(笑)。最後の一つは、やはり、ラナが髪の毛を父親に切られる場面で、ニコが「僕たち一緒だよ!」と自分の髪を切ってラナを抱きしめるシーンです。子ども同士が、お互いを思いやって共感しあうシーンは美しいと思います。見ていて「なんて立派な息子なんだ!」と父としても嬉しかったです。

画像: ニコ・ロックウェル(メイキングより)

ニコ・ロックウェル(メイキングより)

――お子さんたちをベタ褒めですね(笑)。普段、ラナとニコから見て、監督はどんなお父さんと言われますか?

監督としてかな? 父親としてかな?

――父親としてを聞きたいです。

映画監督としては、世界最高だと思ってくれているようだけど(笑)。多分、父親としてもいいお父さんだと思ってくれているに違いない(笑)! しかし、子どもというのは、親が近寄ってくると寄せ付けないもので。2人は、上(ラナ)が18歳で、下(ニコ)が14歳で、いい大人になりはじめているんですよ。僕が、『可愛くてしょうがないから、キスさせて!』って言うと、『パパ、勘弁して!』って言われてしまったり……。それでも、いい父親だと思ってくれているでしょう(笑)。今でも、2人の寝顔をじーっと見つめているのが好きなんですけど、見つかると『どっかいって!』と追い出されてます。今ではそんな毎日ですね(笑)。

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