トリビア1:ジェンマ・チャンは2度目のMCU
セルシ役のジェンマ・チャンは『キャプテン・マーベル』(2019)では、最終的にキャプテン・マーベルと戦うクリー帝国のすご腕スナイパー、ミン・エルヴァを演じている。MCUに違う役で2度登場するのはミシェル・ヨー(『ガーディアン・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)と『シャン・チー/テン・リングスの伝説』)に続き2人目。
トリビア2:作曲家ラミン・ジャヴァディが『アイアンマン』(2008)以来に参加!
本作の音楽を担当するのはラミン・ジャヴァディ。『ゲーム・オブ・スローンズ』の音楽でも有名だが、記念すべきMCU 1作目である『アイアンマン』の音楽も担当。彼がMCUを担当するのは『アイアンマン』以来であり『エターナルズ』が『アイアンマン』同様、これからのMCUを切り開くという意味での起用か?
トリビア3:あの “サノス” もエターナルズ?
コミックではサノスはエターナルズの血を引きとディヴィアンツの遺伝子 を持っているとの設定がある。この設定が今回の映画で活かされているかは不明。なおセレスティアルズについては『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』および、その続編の『リミックス』で語られている。『リミックス』に登場するピーター・クィルの父エゴ(演じていたのはカート・ラッセル)はセレスティアルズという設定だった。
トリビア4:ギリシア神話ゆかりのネーミング
『エターナルズ』のキャラの多くはギリシア神話の神々の名とだぶらせている。セナはアテナ、イカリスはイカルス、セルシはキルケ、マッカリはマーキュリー、ファストスはヘーパイストスというように。ただしギリシアの神々が実はエターナルズだったわけではなく、マーベル・コミックにはゼウス等ギリシアの神々も別に存在する。
トリビア5:設定変更で多様性を推進
実はベースとなるコミックではエイジャック、マッカリ、スプライトの3人は男性のエターナルズ。しかし映画版ではこれらのキャラクターはすべて女性に変更された。またマッカリを聴覚障がいのある設定したり(演じるローレン・リドロフも聴覚障がいのある女優)、ファストスを同性愛者として描いたり、セルシ役、ギルガメッシュ役にアジア系のジェンマ・チェンやマ・ドンソクをキャスティングするなどダイバーシティ&インクルージョン(多様性を認め、一体化をめざしていくこと)を意識したチーム編成に仕上がっている。
コラム1:『エターナルズ』映画化の衝撃と期待/文・杉山すぴ豊
エターナルズが映画化されると聞いた時、ちょっとビックリした覚えがあります。というのもアベンジャーズやスパイダーマンと比べて、決して知名度のあるヒーローではないからです。本来マーベル・コミックではヒーロー同士が共演する、いわゆるクロスオーバーという方法でキャラの知名度・人気度があがっていきます。例えばブラック・ウィドウもホークアイも元々はアイアンマンのヴィランとしてデビューしました。しかしエターナルズは他の人気コミックからデビューしたわけではなく、また初期シーズンは他のマーベル・キャラとあまり“共演”していません。
これは意図的に他のヒーロー物と一線を画そうとしたのでしょう。そうエターナルズはヒーロー物というよりストーリー重視の宇宙神話として企画されたんですね。それが証拠にエターナルズの初期のコミックにはWHEN GODS WALKTHE EARTH!(神々が地球を歩く時)と見出し的に描かれています。
しかし冒頭で“知名度がない”と書きましたが、これはアメコミを少しかじったことのある者の意見であって、そもそもアイアンマンやマイティ・ソー、アベンジャーズ、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー等が一般的に知られていたか?というとそうでもない。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)はキャラクターの知名度だけに甘えず、そのキャラを使って面白い映画を作ることでファンを増やしてきました。映画『エターナルズ』もその期待に十分応えてくれると思います。新生MCU映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』も素晴らしい出来栄えでしたからね。
さて今回の『エターナルズ』で楽しみなのは、アンジェリーナ・ジョリーとマ・ドンソクが共演する、というキャスティングのすごさもさることながら(笑)、彼らがこの先どのようにMCUに関わってくるか。予告等でも明らかになったようにエターナルズは“人類を守るヒーロー”ではなく“人類をディヴィアンツの脅威から守るヒーロー”。ディヴィアンツが絡む戦いではなかったからヒドラ党やウルトロン、サノスとの戦いに関与してきませんでした。
もし『エターナルズ』以降、彼らがMCUで活躍するのなら、ディヴィアンツ以外の敵とも戦うのか、それとも今後ディヴィアンツがMCU全体に関わる大きなヴィランになっていくのか、興味深い。そしてMCUが宇宙神話をとりこむことで、そのスケールがさらに広がっていくこともワクワクしますね。
コラム2:『エターナルズ』監督クロエ・ジャオの軌跡/文・平沢薫
『ノマドランド』(2020)で史上初のアジア系女性監督によるアカデミー賞監督賞受賞を実現して、世界中の注目を集めるクロエ・ジャオ。彼女は1982年、中国生まれだが、小さい頃からアメリカ映画や『幽☆遊☆白書』『スラム・ダンク』などの日本の漫画が大好きで、自分で漫画を描いていたほど。当時の中国は西欧文化の輸入に制約があったため、14歳で英国の寄宿制学校に入学し、渡米してLAの高校を卒業、マサチュセッツ州のマウント・ホリヨーク大学で政治学を専攻。卒業後、NYでバーテンダーなどをしながらNY大で映画を学んだという経歴を持つ。
ちなみにNY大の学生仲間だったのが、彼女の監督作すべての撮影を担当するジョシュア・ジェームズ・リチャーズ。彼は私生活のパートナーでもあり、『エターナルズ』にはカメラ・オペレーターとして参加している。
その監督としての道のりは、最初から順調。ネイティヴ・アメリカンの兄妹を描く初監督作『兄が教えてくれた歌』(2015)はサンダンス映画祭で注目を集め、ロデオのカウボーイの世界を描く第2作『ザ・ライダー』(2017)はインデペンデント・スピリット・アワードの作品賞、監督賞、撮影賞、編集賞ノミネートをはじめ数々の映画賞を受賞。そして、家を持たずにキャンピングカーで国中を旅しながら働く人々を描く第3作『ノマドランド』でアカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞を受賞。撮影賞、脚色症、編集賞にノミネートされるという快挙を遂げたのだ。
とはいえ、彼女の『エターナルズ』への大抜擢は意外でもあった。というのも、これまでの3作はみな、(『ノマドランド』のみ主人公はフランシス・マクドーマンドだが)出演者はプロの俳優ではなくその場所にいる人々で、特殊効果撮影はせず、自然光を使って撮影された作品ばかり。そんな作品を撮ってきた監督が、人気スター結集のMCUの大作アクションに適任なのだろうか。
だが、そんな疑問は、ジャオ監督自身が一蹴。「ハリウッド・リポーター」紙のインタビューで「私は、日本の漫画と深く強く結びついている。『エターナルズ』にはその一部を投入したい。そして、西と東の文化の融合をさらに先に推し進めたい」と語っている。
それに続けて、『エターナルズ』もこれまで同様に自分の思うように撮影し、『ノマドランド』と同じカメラを使い、同じように夕暮れのマジックアワーの光で撮ると宣言。彼女が目指すのは、これまでとは違う、彼女流のMCU映画なのだ。彼女がこの宣言を実行していることは、ポスターや予告編で実証済み。『エターナルズ』は、きっとMCUに新たな息吹を吹き込んでくれるに違いない。
Photo by Stefania D'Alessandro/Getty Images