100年以上にわたり読み継がれてきたカルロ・コッローディの「ピノッキオの冒険」。この世界中で親しまれた児童文学をイタリアの鬼才マッテオ・ガローネ監督がパブリックイメージを大きく覆して映画化した『ほんとうのピノッキオ』が11/5(金)より公開。公開に先駆けてガローネ監督が、本作の見どころや日本の印象などをたっぷりと語ってくださいました!
画像1: 『ほんとうのピノッキオ』マッテオ・ガローネ監督インタビュー

‟原作の魂に忠実でありたい”

――あなたの最初の「ピノッキオ」についての記憶はどういったものですか?

6歳の時に、初めてのお絵かきで、グラフィック・ノベル(漫画小説)というか、「ピノッキオ」の“ストーリーボード”(絵コンテ)を描いたんだ。あれは今でも、どこかに残っていると思うよ。それから1972年、私が13歳の時、テレビでルイジ・コメンチーニが監督したイタリア語版の「ピノッキオの冒険」のミニシリーズを見た。そんな若い頃から、このピノッキオのストーリーは、ずっと心のどこかに引っかかっていたんだよ。

――子供の頃のそのピノッキオへの思いを、いつ映画にしようと思ったのですか?

2015年に『五日物語 -3つの王国と3人の女-』を監督して、童話ものをもっと続けて撮りたくなったんだよ。だから5年前に久しぶりに、「ピノッキオ」の本を読んだんだ。自分がよく知っている物語だと思い込んでいた。ところが読んでみると、驚いたことに私がまったく知らないストーリーで、覚えていないエピソードもかなりあった。たぶん以前は分かってなかったんだろうね。そうやって、この挑戦しがいのあるプロジェクトをスタートしたんだ。「ピノッキオ」を作るのなら、観客が驚くような方法を見つける必要がある。詰まるところ、観客はこの物語を知っていると思い込んでいるからね。私にとって最良の方法は、オリジナルの小説に立ち返ることだった。

画像: ――子供の頃のそのピノッキオへの思いを、いつ映画にしようと思ったのですか?

――今の時代、「ピノッキオ」はどんな共感を呼ぶでしょうか?

「ピノッキオ」は貧困と社会のあり方をテーマにしている物語で、我々のことについて、過去のこと、未来のことを描いている。また人間とは何か、人生の葛藤、生きること、幸せになること、そして愛を求める苦悩が描かれている。もちろん父子の心温まる愛の物語だ。すごく豊かで、示唆に富んでいる。そして人間の特性の側面を象徴したようなさまざまな動物が登場している。

――映像化には、どのようにしてアプローチされたのですか?

かなりのリサーチを行った。まず「ピノッキオ」の最初のイラストレーターの絵を見てみた。作者のカルロ・コッローディと一緒に仕事をしていたエンリコ・マッツァンティの絵だ。監督になる前、私は画家だったんだが、これほどまでに豊かで、視覚的に魅力的なストーリーは、そうそうない。そして現在の映画の世界は、視覚効果を使って仕事をするという絶好の機会にも恵まれている。つまり、オリジナルに近い「ピノッキオ」を作るにはすごくいいチャンスだった、それもイタリアで撮れたことに興奮しているよ。これはイタリアの話であると同時に、普遍的な物語でもあり、他の文学の名作と同様に世界中の人に愛されている。だからこの映画を作るにあたって、原作の魂に忠実でありたいと考えたんだ。

――この作品はとてもユニークですが、ピノッキオ役に本物の少年を起用し、CGの使用を制限した理由を教えてください。

映画の中で特殊効果だと分からないようにするのが好きなんだ。ロベルト・ベニーニとも話したんだが、映画を見る時は、カメラも俳優も何もかも忘れてしまうことが必要なんだよ。観客をパラレルな次元というか、魔法の世界に入り込ませて、キャラクターと一緒にいて、すべてを忘れさせなきゃいけない。だから特殊効果チームと一緒に仕事をする時は、主に特殊メイク・チームとやりたいと思っている。セットには本物のクリエイターが必要だ。もちろん時には撮影現場での特殊効果とCG映像を組み合わせたりもするからね。我々は擬人化した生き物を作ろうと頑張ったんだ。というのも原作を読めば分かるけど、ネコもキツネもカタツムリにも“人間性”が備わっているんだよ。やろうと思えば、今では極めて精巧なキツネを作ることだってできることは分かっている。でも私からしてみると、本物のキツネが人間みたいに話すなんていうのはおかしいし、ちょっと合わない気がするわけだ。だから少し動物的で少し人間的な擬人的な生き物を作ることにした。そうすることで、動物たちが人間のように話すのが、より自然に見えるようになった。若きマエストロ(巨匠)のピエトロ・スコラ・ディ・マンブロが動物たちのコンセプトを考え出し、マーク・クーリエが見事な特殊メイクに仕上げてくれた。そして我々はリアルでありながら、超自然的な雰囲気を作り上げたんだよ。

画像: ――この作品はとてもユニークですが、ピノッキオ役に本物の少年を起用し、CGの使用を制限した理由を教えてください。

――本作を作るに当たって、一番苦労したのはどこでしたか?

「ピノッキオ」を作ると決めた時点で、自ら進んで難題山積に飛び込んだようなものだったよ。思い起こせば、いろいろやっかいな思いをしたことがあったね。最も際だったリスクのひとつは、撮影の長い間、毎日、ピノッキオに扮するために4時間の特殊メイクをしなければならないことに対して、フェデリコ・エラピがどうなるのか分からなかったことだ。マーク・クーリエは1週間か2週間なら分かるが、3か月も毎日やるなんて誰もやったことがないと言ったよ。それが大きなリスクだったね。だってフェデリコは映画に出っぱなしなんだからね。大きな賭けだっただけど、でも我々はギャンブラーなんだよ。

(特殊造形は)、まず顔の型をとってから彫刻をしていく。登場する動物たちは擬人化、つまり半分人間で半分動物の姿にしたし、ピノッキオは木の操り人形だけどそれを造形して行くんだ。彫刻を施した特殊造形を顔に装着したら、彩色を施して行く。まさに職人仕事で、ピノッキオのメイクには毎朝4時間かかった。それに造形物は一回しか使えない、使い捨てだから、毎日新しいものを使用する必要がある。毎日彩色を繰り返したんだ。

――フェデリコ・エラピのどこを見て、彼ならできそうだと感じたのですか?

フェデリコを起用したのは、ピノッキオとは正反対の子どもを使いたかったからだ。ピノッキオは努力や義務や責任から逃避するキャラクターだよね。フェデリコ自身は我々が考えていたピノッキオ像とはかけ離れたキャラクターだと解釈をしていたんだが、それでいて彼は8歳の子どもだから、純粋で素朴なんだよ。だから、そういったことが組み合わさって、他では見られないキャラクター像ができあがったんだ。子どもたちと一緒に仕事をするのは好きだね。ウソじゃなくてね。多くの同業者たちは子どもを怖がっているけど、私は彼らが時々、予測不能のことをやるから一緒に仕事をするのが好きなんだ。何が起きるか分からないんだよ。私は仕事をしている時、予測不能なことが起きるのを心待ちにしているんだ。

画像: ――フェデリコ・エラピのどこを見て、彼ならできそうだと感じたのですか?

――2002年に『ピノッキオ』の監督も務めたロベルト・ベニーニを今回ジェペット役としてこの物語に招き入れた理由は?

ロベルト・ベニーニはまさにジェペットだ。想像しうる限りで、ジェペットという人物に最も近い俳優だと思う。彼も農民の世界、貧しい世界の出身なんだ。ご存知のようにピノッキオのようなテキストでは貧しさがとても重要な要素だ。ロベルトは、コッローディがピノッキオを執筆した場所から数キロのところで育った。ロベルト以上に、ジェペットの人間性、ジェペットの優しさや陽気さを伝えることのできる俳優はいない。これ以上の選択はないと思う。確かに彼自身もピノッキオ役を演じているが、全く別の種類の作品であり、この作品と重複するものではない。

――登場するクリーチャーたちが斬新なビジュアルで魅力的です。それぞれのクリーチャーについて、どのように造形、演出しましたか?お気に入りのキャラはいますか?

お気に入りは、判事。それからマグロも気に入っているんだ。なぜかというと一番難しかったから。魚の擬人化というのは簡単ではないので、苦労した。アニメーションだったら魚が最も簡単かもしれないが、実写にするとなると、人間の言葉を喋る魚の姿はそれらしく作ることは容易ではない。(判事の)猿の方がその点は簡単なんだ。猿は人間と似た顔の作りをしているから。それからカタツムリも気に入っているね。

画像: ――登場するクリーチャーたちが斬新なビジュアルで魅力的です。それぞれのクリーチャーについて、どのように造形、演出しましたか?お気に入りのキャラはいますか?

――来日なさったことがありますか?

残念ながら(来日したことは)ないんだ。随分前から行きたいと思っているんだけどね。今の所は映画を通じてしか知らないけど、絶対に好きになると思うよ。

――好きな日本の映画もしくは映画監督はいらっしゃいますか?

映画の勉強を始めた当初、ローマの自宅の近くに日本文化会館があって、日本映画の上映会に行っていたんだ。その中でも特に印象的だったのが、溝口監督の作品を集めた上映会だった。映画を勉強し始めた当初のお気に入りの監督の一人なんだ。もちろん黒澤監督も好きだし、小津監督も好き。現代の作家だと、三池崇史監督かな。『殺し屋1』が好き。それから文学作品も。川端は私のお気に入りの作家の一人なんだ。

――川端作品を映画化してみては?

問題は、川端の作品が日本文化に根ざしたものであり、私にとってそこに深く入り込んでいくことは難しいだろうということなんだ。同じように、外国人が、自分の国であるイタリアで誕生したピノッキオの世界を深いところから語るのは難しいのではないかと思う。

――日本に限らず、影響を受けた監督や好きな映画を教えて下さい。

たくさんいるので挙げ始めたらすごく長いリストになってしまうよ(笑)。

過去の監督だと、ジャン・ヴィゴ(Jean Vigo)というフランスの監督が大好き。若くして亡くなったので2本しか製作していないんだ。代表作はアタラント号( L'Atalante、1934年)。彼の作品にはマジック・リアリズムがあった。リアリズムが幻想的なもの、マジカルなものに変貌していくんだ。表現の自由さ、勇気という点からとても多くの影響を受けた監督だよ。イタリアの監督でいうと、ネオレアリズムの素晴らしい監督たち、ロッセリーニ、デ・シーカ、ヴィスコンティ、そしてフェリーニ。イタリアは特に50年代は世界に誇る映画製作をしていた国だから、そこで育った私たちはラッキーなんだ。偉大な財産を引き継いでいるからね。

マッテオ・ガローネ

1968年10月15日生まれ、イタリア・ローマ出身。映画監督、映画プロデューサー、脚本家。『ゴモラ』で第61回カンヌ国際映画祭グランプリ、『リアリティー』で第65回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞。『五日物語 -3つの王国と3人の女-』『ドッグマン』など監督を務める。

画像2: 『ほんとうのピノッキオ』マッテオ・ガローネ監督インタビュー
画像3: 『ほんとうのピノッキオ』マッテオ・ガローネ監督インタビュー

ほんとうのピノッキオ

11/5(金)公開

監 マッテオ・ガローネ

出 ロベルト・ベニーニ、マリーヌ・ヴァクト、フェデリコ・エラピ

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