成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。
20代のころは常に不安定な精神状態だったけど子供をもってから私は変わった
新作『エターナルズ』(2021)のプレミアにご自慢の子供達を引き連れて現れたアンジェリーナ・ジョリーのゴージャスなゴールドのドレスに唇から顎にかけて付けた14カラットゴールドの“あごカフ”、見事に永遠=「エターナル」の女神を彷彿とさせるファッションだった。おまけに16歳の娘、ザハラは、親のクローゼットからアンジェリーナが2014年のオスカー受賞式に着た銀のドレスを発掘して、晴れやかに身にまとって登場、これからの子供達のスタイルも楽しみになりそう。
アンジェリーナは『エターナルズ』の会見で「子供達が私の心身を支えてくれる。20代の頃の私は常に不安定な精神状態で、母親になるなんて考えてもみなかった。自分以上に人を愛すること、その人達に一生貢献すること、という愛情を注ぐ生き方は可能だと思っていたけれど、子供を持って初めて知ったのは、子供に対して、いつでも、大丈夫、何もかも上手く行くから、と安心させる母親の本能だった。
最初の子供のマドックスが大怪我をした時、今までの私だったらパニックになっただろうに、母親の私は信じられない程落ち着いて、ただただマドックスに『エブリシング・イズ・オーケー!』となだめる行為を必死で続けていた。以来、子供達の事件やら事故が起こっても私は地に足の付いた強い母親として必死に生きながらえて来たのです」
アンジェリーナに初めて会ったのは『ジーア/悲劇のスーパーモデル』(1998=日本はDVD公開)というドラッグに溺れたスーパーモデルを演じた時。会見にすっぴんのまま、髪もくしゃくしゃなのを適当にまとめたという「寝起きルック」で出現、広報担当者が慌てていたのを思い出す。野生の動物のようななまなましい存在だったがいざ話を始めると知的に、理論的に自分の考えをストレートに話す頭の良い23歳の新人だった。
監督処女作を語るときに痛いほど感じたアンジェリーナの底知れぬ「渇き」
その彼女が最も感情的に、涙ながらにインタビューに答えたのは処女監督作の『最愛の大地』(2011)の時だろう。既にブラッド・ピットと安定した暮らしをして約6年目、数人の養子を迎え、世界中の難民キャンプを訪れ、と考えられないような多忙の日を送っていてもまだ東ヨーロッパの戦地で発生した男女の恋愛悲劇の制作に関わり、脚本を書き、外国語でのドラマの監督までしてしまうというエネルギーと欲望に我々は驚き、一般的な家庭の幸せとか安定、適度な仕事などではアンジェリーナの底知れぬ「渇き」のようなものは永遠に満たされないのだろう、と痛いほどに感じたのである。
監督第2弾『不屈の男 アンブロークン』(2014)の時も第二次大戦中の日本軍の捕虜になった主人公(後に五輪陸上選手)の不屈の精神を描き、当時の資料を徹底的に漁って、西洋映画に登場するような理不尽に暴力的な日本兵の描写を避け、又しても遥か昔の異国でのドラマに挑戦、自分を登場人物になぞって、豪華絢爛なハリウッドライフに対する違和感をオフセットしているのだろう、贖罪に近いのだろうか、と勝手に解釈したりもした。
今まで20回以上インタビューをして来たが常に自分の意見を明確に話し、プライベートの話もノーコメントなどと言わずに巧みに説明し、その姿勢はほとんど崇高にさえ見えるほど。元夫のブラピが「うんにゃ、モゴモゴ」と照れながら話すのとは雲泥の差である。もちろん彼の魅力がそのボーイッシュなところにあるのは百も承知だが。
今のアンジェリーナは頻繁に子供達と近所のスーパーに現れたり、国会に出現して国際的な社会問題を訴えたり、たまさかのデイト(最初の夫君のジョニー・リー・ミラーと既に数回!)をしたりと普通の生活を健気に送っている様子。そして彼女の成熟した美しさを目の当たりにする度にハリウッドのグラマーは健在!と我々はホッとするのである。
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