名優の人生をキャリア中心に振り返ってみましょう。今回は、『ナイル殺人事件』や『ベルファスト』と話題作が続き、俳優としても監督としても活躍するケネス・ブラナーをクローズアップします。(文・大森さわこ/デジタル編集・スクリーン編集部)

アイルランドを代表する名俳優にして名監督

北アイルランド出身の名監督、および俳優として活躍を続けるケネス・ブラナー。新作『ベルファスト』は海外で高い評価を得ていて、ゴールデン・グローブ賞脚本賞も受賞。オスカー・レースの本命の1本となっている。

今回の映画はブラナー自身の分身でもある9歳の少年、バディの目を通して1960年代後半の北アイルランド・ベルファストでの生活を振り返った作品。彼のルーツが分かる興味深い内容になっている。

ブラナー自身は1960年12月10日にベルファトのワーキング・クラスの家に生まれ、ここで描かれているように幼年期はベルファストで過ごした。その後、一家はイングランドに引っ越し、10代後半にブラナーは名門の演劇学校、RADA(王立演劇アカデミー)に入学。首席で卒業後はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの舞台を経て、自身の劇団、ルネサンス・シアター・カンパニーを設立。シェイクスピア作品の若き後継者となり、1990年には「リア王」、「夏の夜の夢」の来日公演も行う(この時、ブラナーに取材したが、野心的な夢を持ちつつ、とても気さくな人だった)。

映画では初監督作のシェイクスピア原作の『ヘンリー五世』(1989)で鮮烈な演出を見せ、演技者としても評価される。アカデミー賞の監督賞・主演男優賞候補となり、その後はミステリー『愛と死の間で』(1991)や新解釈の『フランケンシュタイン』(1994)といったハリウッドの娯楽作も手掛けた。

こうしたエンタメ路線としては『マイティ・ソー』(2011)、『エージェント:ライアン』(2014)、『シンデレラ』(2015)、『オリエント急行殺人事件』(2017)等のヒット作もあり、ポアロ物の新作『ナイル殺人事件』(2022)も今年日本で公開される。若い頃は〝ローレンス・オリヴィエの後継者〞と呼ばれていたので、シェイクスピア作品の現代的な解釈も目立ち、豪華キャストによる『から騒ぎ』(1993)や大作『ハムレット』(1996)なども手掛ける。近年ではシェイクスピアを主人公にした『シェイクスピアの庭』(2018)も撮る。彼の個人的な趣味が出た監督作には『ピーターズ・フレンズ』(1992)、『世にも憂鬱なハムレットたち』(1995)等がある。

俳優としては『マリリン7日間の恋』(2011)で晩年のオリヴィエ役を好演してアカデミー助演男優賞にノミネート。また、製作も担当したBBCテレビドラマ「刑事ヴァランダー」(2008〜16)では人間的な悩みを抱えた刑事役で新境地を見せている。その他の出演作に『セレブリティ』(1998)、『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)、『ダンケルク』(2017)、『TENET テネット』(2020)等がある。

演技者としては等身大の親しみやすい人物を演じることができるが、監督作も(たとえ原作がシェイクスピアであっても)分かりやすくて、大衆的な楽しさが作品を撮る。そんな中でも家族や故郷への深い思いがつまった『ベルファスト』は多くの人に愛される代表作の1本となりそうだ。

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