前進し続けたエリノアの激動の半生
『ミス・マルクス』
社会主義や労働運動に大きな影響を残した経済学者にして革命家のカール・マルクス。彼には6人の子どもがいたが、その末娘のエリノア・マルクスの数奇な人生にスポットを当てたのが『ミス・マルクス』である。
19世紀の英国・ロンドンに生まれたエレノアは10代の時から父親の秘書を務め、父の著作やフローベールの「ボヴァリー夫人」の英訳も手掛ける知的な女性だった。そして、生前は労働者や女性の権利を得るために闘い続けた。一方、私生活では妻のいる戯曲家の恋人、エドワードの女性関係にも苦しめられた。女性の自立が、むずかしかった時代に社会運動を続けたエリノアの葛藤が、この映画では生々しく語られる。主演は『エンジェル』や『未来を花束にして』で知られる英国の演技派女優、ロモーラ・ガライ。理想を追いながら、私生活では痛みも背負ったヒロインを好演している。
監督はイタリアの女性監督、スザンナ・ニッキャレッリで、ヴェネチア映画祭ではイタリア・シネクラブ連盟賞等、2部門で受賞。監督は『テルマ&ルイーズ』を好きな映画の1本にあげているが、今回のエリノアもこの映画のヒロイン同様、“前進し続ける”女性として描かれ、19世紀の先駆的な女性像となっている。
CHECK1
“知られざる英雄”エリノア
父カールも労働者のために活動していたが、娘エリノアも恵まれない労働者や充分な権利のない女性たちのために力を尽くそうとした。劇中ではエリノアが労働者の話に耳を傾ける場面が登場し、彼女の真摯な態度が伝わる。一方、当時としては進歩的な知性派の女性で、父親の本の英訳なども手掛け、社会貢献も果たしている。その存在が父親の栄光の陰に隠れがちな人物の生涯にあえてスポットライトを当てたという点で興味深い内容になっている。
CHECK2
クラシックの名曲&パンクロック
ヴェネチア映画祭ではベストサウンドトラックSTARS賞も受賞していて、音楽が印象に残る作品。リストの「ラ・カンパネッラ」やショパンの「幻想即興曲」といったクラシックの名曲が現代的なアレンジで登場。それだけでなく、コンテンポラリー・パンクロック・バンド、ダウンタウン・ボーイズの曲も印象的に使われる。特に後半でヒロインが激しく踊る場面が印象的。ブルース・スプリングスティーンの大ヒット曲も大胆なアレンジで流れる。
CHECK3
男たちに翻弄された生涯
劇中でイプセンの戯曲「人形の家」をエリノアが演じてみせる場面があり、「これまでは父に、その後はあなた(夫)に不当に扱われてきた」という内容のセリフが使われるが、これは彼女の内面も表現している。エリノアの恋人で、戯曲家のエドワード・エイヴリングには浪費癖があり、女癖も悪く、彼のそんな側面に終始苦しめられる。また、父の盟友、エンゲルスが彼の息子の父親は自分ではなく、カール(父)だったことを明かし、彼女は衝撃を受ける。
好評リリース中
『ミス・マルクス』
DVD:4, 290円(税込)
映像特典:予告編
発売元:ミモザフィルムズ
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
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