「電波少年」シリーズでは人気バラエティー番組を演出・出演。欽ちゃんのドキュメンタリー映画では監督も務めるなど、今なお幅広い活躍をしている、伝説の「Tプロデューサー(T部長)」こと土屋敏男さんが、幾多のTVドラマから映画を紐解くおすすめのお話などや予測不可能な未知なお話等、テレビと映画がこれからどうなっていくのか?を中心にさらに熱く、紹介していきます。今回はドキュメンタリー映画が選挙の結果を変えた?『香川1区』(2021)に迫ります。

土屋 敏男
(日本テレビ放送網株式会社 社長室R&Dラボ シニアクリエイター)

静岡県静岡市生まれ。一橋大学社会学部卒。「元気が出るテレビ」「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」「とんねるずの生ダラ!」などバラエティ番組を演出。「電波少年」シリーズではTプロデューサー・T部長として出演。現在WOWOW毎週月曜日20時~「電波少年W」企画・演出・出演。

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映画が現実を動かす時代が来た!

去年の秋の衆議院選挙で僕は四国のある選挙区の結果が気になっていた。「香川1区」。

結果は菅内閣で初代デジタル大臣という露出も多かった現職自由民主党議員平井卓也氏を立憲民主党の小川淳也氏が2万票の差をつけて開票開始とともに当選確実が出る圧勝となった。

なぜ気になっていたのかと言えば一昨年に公開された『なぜ君は総理大臣になれないのか』を見ていたからだ。選挙に必要と言われる「地盤・看板・カバン」(※)がない「公平・誠実・実直」を政治信条とする小川氏の17年間の奮闘を描いた大島新監督の作品だった。そして前回が17年と言う長きにわたって追いかけたものに対してこの秋の選挙期間の数ヶ月を追った『なぜ君』の続編と言える『香川1区』が選挙後2ヶ月あまりで公開された。

※地盤:選挙区と後援会 看板:知名度 カバン:資金力

この作品は選挙PRのために作った映画では決してない!

画像: この作品は選挙PRのために作った映画では決してない!

『香川1 区』
監督:大島新  配給:ネツゲン 2021年制作
© ネツゲン

この『香川1区』の中で平井議員が投票日間近の街頭演説で「PR映画」と言いそれをロケしていた大島監督が「PR映画とは何ですか?」とその街頭演説車を追いかけるシーンがある。これは同じドキュメンタリー映画を撮った人間として断言できる。間違いなく大島監督は小川淳也氏のPRのために作った映画ではない! しかしこの1作目『なぜ君は総理大臣になれないのか』が今回の圧勝を招いた大きな要因になったことも間違いのないことだ。

大島監督の映画の1作目2作目を貫くテーマとはわかりやすく1作目のタイトルに現れている。〝なぜ君は総理大臣になれないのか?〞悩みながらも「日本を良くしたい!」とただただ思っている政治を志した人間は政治家に国会議員にそして総理大臣になれないのか? 政治家とは何だ? 政治とは何だ? 選挙とは何だ? 民意とは何だ? 民主主義とは何だ?

大島監督のこの疑問をこの映画で解き明かしたいという思いは小川議員の「日本を良くしたい! そのために政治家になる! そのために国会議員になる!」という思いと同じかそれ以上純粋なものだ。だからドキュメンタリー映画としては異例の3.5万人の観客が見たし第2作の『香川1区』はもっと多い観客数になるだろう。それは映画が作品としてドキュメンタリー映画として今日的であり鋭く日本人が潜在的に思っている「政治とは何か? 民主主義とは?」に迫っているからである。映画として極めて優れた作品だ。そして別の次元で、選挙の結果を変えた。

このことの是非は正直わからない。

選挙における「ドキュメンタリー映画が及ぼす未来」とは

公職選挙法にはこういった映画を作ること、発表することは抵触しないらしい。法律に違反しないから問題ないのか?ということではない。選挙は公平でなくてはならない、という点ではその題材になった小川氏が有利になったことは明らかだ。ではいけなかったのか?と言うと僕はそうも思わない。日本には憲法で保障された表現の自由がある。先ほどから触れているように監督は純粋に「政治家とは何か?」をテーマに作っている。小川氏を当選させるために作っているという意識はない。だから僕はこの作品は確実に現実を動かしたが間違ったことだと思わないし今後も公職選挙法に「候補者個人を追う映画は作ってはならない」という条項が足されるべきではないと思う。

一つだけ改めてつけ加えると大島監督は小川淳也氏を当選させようとは思っていないが大島監督が小川氏を撮影すればするほど好きになっていることも明らかな事実である。だからこの映画の観客は見た後に大多数が小川氏を好きになるだろう。

この映画の「香川1区」エリアの観客数は5,000人だそうだ。前回の選挙の小川氏の得票数は9万。平井氏は7万。その差2万。では5,000人の観客数がなくても勝てたではないか?違う。五千人の観客は少なくとも何人かにこの映画の感想を言っただろう。地元で候補者が間接的な知り合いである可能性を考えると最低4、5人には映画の感想を言っただろう。そしてその感想は小川氏に好意的なものであったことはほぼ間違いがない。だからこの映画によって投票行動は5,000人倍も変わった。そして小川氏は平井氏に圧勝した。こんな計算をしなくても「もしこの映画が作られなかったら」と仮定して想像したら簡単だ。

当たり前だが大島監督と小川議員の間でお金のやり取りは一銭もないし小川議員から「このシーンを使ってくれ。このシーンは使わないでくれ」というチェックも一つもないと確信できる。だからこの映画は2作品とも優れたドキュメンタリーになっている。

平井陣営の「映画に負けた」という分析は間違っていないがやるべきは映画に関しての公職選挙法改正ではなく次の選挙に向けて自分を題材にドキュメンタリー映画を撮ってくれる監督を探すべきだ。そして何の条件もつけずに【どこを撮ってもどこを使ってもいい、事前チェックはしない】と撮影に入るべきだ。そして次回選挙の前に両方の映画をぶつけたらいい。それが本当の映画を含めた現代の民主主義なのだ。

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