「電波少年」シリーズでは人気バラエティー番組を演出・出演。欽ちゃんのドキュメンタリー映画では監督も務めるなど、今なお幅広い活躍をしている、伝説の「Tプロデューサー(T部長)」こと土屋敏男さんが、幾多のTVドラマから映画を紐解くおすすめのお話などや予測不可能な未知なお話等、テレビと映画がこれからどうなっていくのか?を中心にさらに熱く、紹介していきます。今回もスタジオジブリの新作『君たちはどう生きるか』公開して何かと話題が尽きないこの作品について独自の見解とその素晴らしさを語ってくれました。
カバー画像:『君たちはどう生きるか』©2023 Studio Ghibli

土屋 敏男
日本テレビ社長室R&Dラボ社外アドバイザー。ひまわりネットワーク(株)アドバイザー。WOWOW(株)新規事業アドバイザー。みんなのテレビの記憶(同)代表社員。Gontents(同)代表社員。1964TOKYO VR(社)代表理事。

「わからない」という感想

スタジオジブリの新作『君たちはどう生きるか』が公開されてこの文章を書いている時点でまだ1週間が経っていない。多くの感想がSNSやブログやYouTubeを通じて世の中に放たれ始めている。

「見終わった直後は唖然として正直わからなかったが1日経ち2日経ちしたところで突然腹落ちして『わかった』」というある友人の感想があり、それが自分の一番近いものとなっている。

しかしスタート直後の“熱烈宮﨑駿信者”のグループが終わり2週目に入ってくると多分「全然わからなかった」果ては「宮﨑駿もやっぱり年で衰えた」などという感想がこれから増えてくるのではないかと予想する。

でも僕は「わかる」「わからない」という映画のある種の呪縛からこの『君たちはどう生きるか』は解き放たれた作品だと考え始めている。

言い換えれば“「映画」は商品である”という宿命に対する挑戦なのだと。そしてこれは現在の世界中が囚われ続けている「数字至上主義」に対する警鐘なのだと。

我々エンタメ業界にいるすべての人に、いや世界中の数字という豊かさを求めているすべての人に“君たちはどう生きるのか”と問うている映画なのだと思うのだ。

すべてのコンテンツは「商品」であるという宿命

画像: 『君たちはどう生きるか』  ©2023 Studio Ghibli

『君たちはどう生きるか』

©2023 Studio Ghibli

手元に「金曜ロードショーとジブリ展」の図録がある。これによるとスタジオジブリの最初の作品は1984年『風の谷のナウシカ』で翌年1985年に日本テレビの金曜ロードショーで初放送とある。

この時に担当になったOという一見ヌーボーとしている男がスタジオジブリがここまで作品を作り続けられた大きなエンジンだと思っているのだが、そのことはまた別の機会に。

スタジオジブリはテレビ局の映画枠という関係を作れたことで以降『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『火垂るの墓』『魔女の宅急便』『おもひでぽろぽろ』『紅の豚』『海がきこえる』『平成狸合戦ぽんぽこ』『耳をすませば』そして1997年『もののけ姫』と続いていき、さらに『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』と、現在に至るまで日本の興行収入・観客動員数を塗り替え続けてきた。

こうして一連のジブリの作品を並べて大きな特徴に気がつく。続編がないのだ。さらに言えば「ラピュタ」と「トトロ」は描かれている世界もいわゆるターゲットも違う。

それはその後の『火垂るの墓』「魔女」さらに続いて「もののけ」そして今に至るまで「常に路線を変えている」ことに気がつく。

僕は番組というコンテンツを送り出す会社にいたのでこのことが非常に難しいことであることを知っている。テレビ局も映画会社も“当てたい!”だから一度当たったら間違いなく続編を作りたくなるのだ。

最悪のケースは他局で当たった番組と似たようなものを作ってしまう。そしてそれがプラットホームの命を縮めてしまうことを気がついている人は意外に少ない。

しかしジブリは設立以来決然とその圧力に抗ってきた。そしてそのことが間違いなくジブリという強い制作集団を生き永らえさせてきた。

当たったからといって「トトロ2」を作ったり「千と千尋の神隠しエピソード0」を決して作らず、スタジオを閉鎖しなくてはならいかもしれないという覚悟で『もののけ姫』を作ったりしてきたのだ。

その中で鈴木敏夫プロデューサーはジブリ作品を「商品」として扱わざるを得ない立場もとってきた。それはスタッフを食わせ続けなくてはならないという使命もあっただろうが一番は“ジブリが作り続ける”運動体であることを維持しなくてはならなかったのだ。

だから鈴木プロデューサーはあの手この手で「ヒットする」ために手を打ち続けた。そしてそれは盟友宮﨑駿監督もわかっていた。高畑勲監督のある種“100%作り手”の立ち位置より少しだけ「商品」であることを意識し続けた人だと勝手に思っている。

だから作品を作るときに「わかってもらう」ということを意識し続けたのではないか?

当たるためには観た人が「わかる」ことが重要な要素で「わからない」作品は当たらないからだ。

しかしこのジブリ最新作『君たちはどう生きるか』はジブリのみで100%出資すること、公開日を事前に決めないこと、で「当てる」つまり「わかる」という呪縛から自らを解放した。

今「わからない」という観客がいるかもしれないが、同時に非常に強度があり楽々と時代を超えていく作品になった。さらに言えば「今の世界の人間の非常に深いところを揺さぶる」作品になった。

映画やその他「人が人の心を動かすために作るもの」の世界中のコンテンツ産業の人たちは“観客動員数や再生数や視聴率を追い求めること”を迷いなくし続けている。

でもそのことは本当に豊かな世界を作ることに役立っているのか?という問いをこの『君たちはどう生きるか』は投げかけている。

僕は明日3度目の劇場に行く。そしてまた新たな発見と感動に間違いなく出会うのだ。

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