2021年7月7日、85歳でこの世を去ったロバート・ダウニー。息子でありハリウッドを代表するスター俳優ダウニー・Jr.は父の死に際し、ハリウッドにくみせずあくまでインディペンデントにこだわった父親について「彼はアメリカ映画界における偉大なる真の異端児だった。」と語った。
それから約1年となる今夏、1969年製作の『パトニー・スウォープ』が日本初公開となる。本作品が全米映画ファンの間で新たに注目を浴びるきっかけとなったのは、2016年に ナショナル・フィルム・レジストリーに選出され、その後マーティン・スコセッシが設立したフィルム・ファンデーションとアカデミーフィルムアーカイブによって2019年にデジタル復元がなされたことである。この復元においては、アメリカの優れた映画を後世に残すことを目的として設立されたジョージ・ルーカス・ファミリー・ファンデーションの資金援助も得ている。
『パトニー・スウォープ』はジム・ジャームッシュやポール・トーマス・アンダーソンなど多くの映画作家に影響を与えた。特にアンダーソンは本作品を最も影響を受けた作品の一つに挙げ、『ブギーナイツ』でドン・チードルが演じるバック・スウォープというキャラクターを創造し本作へのオマージュとしている。また、ダウニーを役者として『ブギーナイツ』『マグノリア』で起用している。
第94回アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞3部門にノミネートされたアンダーソン最新作『リコリス・ピザ』は「ロバート・ダウニーに捧ぐ」という献辞で終わり、ファンとしての敬意を表した。
舞台は1960年代のニューヨーク。マディソン・アヴェニューの名門広告会社の創業者が突然亡くなり、会社の唯一の黒人役員(といっても楽曲担当)であるパトニー・スウォープが予想外の結果によって新社長に選出される。早速、スウォープは会社の名前をTruth &Soulに変更し、ほぼすべての白人役員を解雇、破壊的で奇抜だが悪趣味ともいえる広告キャンペーンは次々とヒット商品を生み出し、会社は新たな成功へと飛躍する中、何とスウォープは国家安全保障への脅威であるとして、アメリカ大統領ミミオの陰謀に巻き込まれることになる…
1969年の全米公開時『パトニー・スウォープ』は独自の過激なユーモアで世の中のあらゆる欺瞞を風刺する時代の先駆者そのものの映画だった。ポスターが刺激的すぎるとして、各地の映画館で掲載拒否運動が起こったというエピソードがあり、「最も悪意に満ちた悪徳の映画」(デイリー・ニューズ)と酷評される一方、ジェーン・フォンダがテレビで「『イージー・ライダー』も凄いけどもう一本見るべき映画が『パトニー・スォープ』」と語るなど、評価は真っ二つ。アメリカン・ニューシネマの到来に沸くアメリカ映画界も、時代の先を行き過ぎた本作の過激さを受け入れ切れずにいた。
それから50年の時を経て、BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動などが声高に叫ばれる現代にその先見性をどのように見るか、2022年の今、まさにタイムリーな作品である。
「パトニー・スウォープ」-デジタル・レストア・バージョン-
今夏 渋谷ホワイトシネクイントにて公開 ほか全国順次公開
配給:RIPPLE V