(撮影/久保田司 取材・文/清水久美子)
4月、来日したアンセルはSCREENの取材に応じてくれた。朝一番のインタビューに現れたアンセルは、最初から流暢な日本語で「よろしくお願いします」と挨拶し、飲み物は何がいいか聞かれると「水をください。ありがとうございます」と、丁寧な受け答えをして、とても自然に日本語を話せることに驚いた。そんなアンセルに、日本語習得の話を含め、「TOKYO VICE」の撮影について話を聞いた。
日本語が上手で感激したことを伝えると、「ありがとうございます。でも、日本語はまだまだですね」と、照れ笑いしながら謙遜するアンセル。彼が演じるジェイクは劇中、猛勉強して、新聞社の実施する日本語の試験を受ける。日本語で作文を書き、面接も日本語。ちょっと意地悪な質問にもウィットに富んだ日本語で返答し、見事に採用される。アンセルは手元を映されているので、漢字もたくさん混ざっている日本語の文章を実際に書くシーンもあるが、どのように役作りしたのだろうか。「ジェイクは日本で一から自分というものを作り直して、新しい生活を始めようとします。日本の文化が大好きな彼は、日本語で試験を受けるために努力します。そのようなジェイクを演じるために、私は毎日4時間、日本語と歴史を教えてくださる本間先生の指導を受けました。本間先生にはとても感謝しています」と語り、今でも日本語の勉強を続けているのか聞くと、「はい、ずっと続けています」と笑顔で教えてくれた。
「TOKYO VICE」は、『ヒート』や『マイアミ・バイス』などで有名な巨匠マイケル・マンが監督を務めている。アンセルは、「マン監督は、視聴者に作品に没入してほしいと考えて撮る監督です。そして、俳優にもその世界に浸り切ることを求める方なんです。私の役は警察担当の新聞記者ということで、本物の新聞記者が警察の記事を書く際の執筆の仕方も覚えました。それはマン監督が助けてくれたからできたのですが、それをすることによって、私自身が新聞記者として浸ることができたし、ぜひ視聴者のみなさんにも浸ってほしいと思っています」と、マン監督の演出について語ってくれた。もともと没入型の俳優だというアンセルは、「私は毎回、そのキャラクターに100%のめり込むようにしています。そういうタイプだから、たぶん私は日本を好きなんだと思うんです。日本の人は、自分のやっていることに100%全力を注ぎますよね。私は俳優として、いつも細かいことまで一生懸命に気を配ってやっているので、日本の人に近いですよね」と、お茶目な表情で話した。
日本での撮影で、たくさんのことを学んだというアンセル。「養神館で合気道を習ったのですが、私には日本語の勉強よりもちょっと難しかったです(笑)。でも、とても良い経験になったし、人として成長することができたと思います」と、心身ともに鍛えた話もしてくれた。
非常に優等生なイメージだが、日本人キャストとはかなり仲良くなり、素の状態で楽しく過ごせたという。「伊藤英明さんとは本当に馬が合いました。新年には英明さんの故郷に招いていただいたんです。毎日温泉に入って、文字通り裸の付き合いをしました(笑)。ご家族と一緒に食事をして、お母様の手料理をご馳走になりました。初詣にも行きましたし、私と英明さんの息子さんはおみくじで大吉を引きました。とてもたくさん良い思い出ができました。英明さんに感謝しています」と、嬉しそうに語るアンセル。ほかにも、「笠松将さんはイケメンですよね! 一度、笠松将さんの演技を見たら、きっとファンになると思います」と絶賛。彼とも仲良くなったようだ。
また、「渡辺謙さんと仕事ができて、とても光栄です。菊地凛子さんも素晴らしい俳優ですね。日本の俳優さんたちと一緒に働くのがすごく楽しかったです。『TOKYO VICE』のキャストは、本当にクールなアンサンブルだったと思います」と言うアンセルは、心から日本での撮影を楽しんだようだ。「いつも東京で撮影したいと思っていたので、それが叶って本当に嬉しいです。『TOKYO VICE』をたくさんの方に見ていただきたいです」と語るアンセル。インタビュー中、8割がた日本語で質問に答えてくれた彼は、写真撮影前のメイク直しでは「確認しています」と、スタッフがよく言うフレーズまで覚えて使っており、周囲を和ませた。
TOKYO VICE
WOWOWにて毎週日曜午後10時より独占放送中
WOWOWオンデマンドにて配信中
アンセル・エルゴードのインタビュー&「TOKYO VICE」の特集は、5月20日発売の『SCREEN 7月号』に掲載。その他、注目の海外ドラマも特集。