――1931年のベルリンが舞台です。現代の若者から見ると、当時のベルリンにはどんなイメージをお持ちですか?
アンビバレントな時代だよね。そして、享楽的で狂乱の時代。大きなビッグパーティーが起こっている感じ。しかし、一方では政治的にも社会的にも不安定な時代と見られています。
――ファビアンを演じてみて、当時の街並みやメイクや衣装など再現されていましたが、トム自身が興味を引いたものはありますか?
非常にかわいいなと思ったのが、映画の中に出てくるタバコ屋の小屋。この主人公は、たくさんタバコを吸うヘビースモーカーです。当時はタバコが健康に悪いことを知られていなかったと思うんですが。ファビアンがタバコを買ったシーンで、お店がタバコの形をしていて煙が出ているんです。そして、その小屋の小窓から男の人がタバコを売ってくれるという。
――恋人コルネリアと友人ラブーテは、ファビアンに大きく影響をする人だと思います。彼ら二人はファビアンにとってどんな存在だと思いますか?
ファビアンという人物は、愛を探している人間です。心も大きなところも持っていますが、彼の心の中にたくさんの人を取り込むことはできません。だから、どの人に対して心を開くのかをよく考えている人です。コルネリアという女性が相手だったら、彼は幸せになれたと思います。そして、親友のラブーテは、ファビアンが持っていない別の側面を持っている人。二人は陰と陽のような関係です。ほかの言い方で言えば、共生のできる相手。コルネリアは愛、ラブーテは強い友情。劇中では、この二つの端的な世界を表現することができたと思います。
――特にコルネリアとはロマンティックな関係だったと思います。ファビアンは、本当は、コルネリアとどんな未来を夢見ていたのでしょう?
恐らくファビアンの両親のような人生をコルネリアと共に築きたかったんだと思います。彼はベルリンに来た時は、地方での両親との生活と離れてきたのですが、ベルリンを離れる決意をして、もう一度、郷里に戻ります。そこで両親二人の在り方を見て、コルネリアとこういう生活をしたいと考えたと思います。
――ファビアンは優しいところもあり、正義感もある人です。ファビアンがもっとも大事にしているモラルって何だと思いましたか?
ファビアンは「良識」ということを言っていました。世界は良識的ではなければならないという考えに囚われていたのでしょう。もし、ファビアンの人生に意味があるとするならば、自分がその世界に足を踏み入れた時よりも少しでもいい世界を作ろうと考えていた。少なくとも、最初よりも世界が悪くなっていないように…というファビアンにとっては、それが課題ですね。
――ファビアンはベルリンで30代を過ぎても人生に迷っていました。トム自身は人生に迷った時代はありますか?
とてもよくあるよ(笑)。正直に言えば、いちばん最近だと、この映画を撮っていた3年前かな(笑)。
――自分がベルリンを去る時ってどんな時だと思います?
仕事の関係とか、あるいは家族の一員がベルリン以外で住みたいと言えば、確かに考えますね。