作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。コロナにウクライナ、地震に二酸化炭素問題…。ゆっくり映画を見る時間が削られて…

金子裕子
映画ライター。36年ぶりに“マーヴェリック”に再会して惚れ直し。やっぱり、トム・クルーズはス・テ・キ!

渡辺麻紀
映画ライター。TVシリーズの「ハリー・パーマー 国際諜報局」が斬新で気に入っています!

土屋好生 オススメ作品
魂のまなざし

フィンランドの国民的画家とアマチュア画家の恋が友情へ変容するくだりにしばし絶句

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要

フィンランド独立前の1915年から内戦を経て1923年まで、最も輝いていた時代を駆け抜けたヘレン。その間、後に生涯の友となるロイターと大恋愛の末破局となるも、友人らの支えで独自の境地を切り開いた。

北欧フィンランドの画家ヘレン・シャルフベックとアマチュア画家の青年エイナル・ロイターの恋愛物語。何とも前時代的な筋立てではあるが、スキャンダルめいた男女2人の恋愛譚、しかも女性が国民的画家となると見過ごすわけにはいかない。

純粋な魂の軌跡を克明にたどる作り手は2人の関係を真正面から見つめ直し、恋愛悲劇を再構築していく。この恋愛が例え破局を迎え自立への道を模索することになろうとも。この恋の駆け引きは、終始膨大な量の文通によって画家の内面をあぶり出す心理サスペンス劇となり、2人の恋愛の本質に迫るような勢いで見ごたえ十分。

画像: フィンランドの国民的画家とアマチュア画家の恋が友情へ変容するくだりにしばし絶句

しかし何といっても見どころは2人の純粋な恋愛が奇妙な友情へと変質していくくだり。快刀乱麻とはほど遠い複雑怪奇な男と女の関係を目の当たりにして、しばし絶句。それにしても彼女の自画像にも描かれた様々な顔の表情一つで、自分の内面を表現し俳優としての実力を見せつけるヘレン役のラウラ・ビルンの素晴らしさ。いかにも北欧の女優らしい深い精神性を備えたたたずまいに乾杯!

オンリー・ハーツ配給/公開中
© Finland Cinematic

金子裕子オススメ作品
ベイビー・ブローカー

豪華な出演陣を尊重した是枝監督の真摯な演出で「人間の善性」というテーマが光る

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要

サンヒョとドンスは、ベイビー・ブローカー。ある日、若い母親が〈赤ちゃんポスト〉に預けた赤ん坊を連れ去ってきたが、翌日、母親が現れて大慌て。「大切に育ててくれる家族を見つけようとした」と言い訳するが……。

2019年の日・仏合作映画『真実』でカトリーヌ・ドヌーヴを主演に据えた是枝裕和監督が、今回は『パラサイト 半地下の家族』(2019)で世界の脚光を浴びたソン・ガンホと手を組んだ“韓国映画”。正直、前者は少々違和感があったが、今作は日・韓の優れた才能の融合により、ほろ苦くも得も言われぬ幸福感を心に刻んでくれる人間ドラマとなった。

画像: 豪華な出演陣を尊重した是枝監督の真摯な演出で「人間の善性」というテーマが光る

盗んできた赤ん坊を高額で売ろうと奔走するベイビー・ブローカーを演じるのは本作でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞したソン・ガンホと端正なルックスに陰りを漂わせるカン・ドンウォン(素敵!)。“ 優しい小悪党”ぶりが絶妙のバランス。

またワケありで子供を捨てた母親役のイ・ジウンの底なしに暗いまなざしと時おり見せる“純情”が心に刺さる。そこに演技派女優の誉れ高いペ・ドゥナが女性刑事役で絡むとなれば文句なし。濃厚なアンサンブルはお約束だ。是枝監督のキャストを尊重した真摯な演出により「人間の善性を描きたかった」というメッセージが素直に伝わってくるのも心地よい。

ギャガ配給/公開中
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渡辺麻紀オススメ作品
エルヴィス

キラキラな世界観にじわじわ広がる心の中の不安や哀しみが暗い影を落として効果的

評価点:演出4/演技4/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要

“白人なのに黒人のように歌い踊る”新人シンガー、エルヴィス・プレスリー。その稀有な才能に一早く目を付けたプロモーターのパーカーはマネージャーとなって彼を売り込む。成功の階段を上り始める二人だったのだが……。

「エルヴィスは生きている!」なんて言われるほどその死因が定かではないエルヴィス・プレスリー。本作では、そんな彼のデビューから亡くなるまでを159分をかけて追いかける。かなり長尺だが、それでも退屈しないのは、エルヴィスの節目となるショーやTVやステージを見事に再現しているから。キラキラしてパワフルで目にも耳にも刺激的で、彼のエンタテイナーとしての魅力がしっかり伝わって来るからだ。

その一方、彼の心の中にじわじわと拡がって行く不安や不信感や哀しみも描き、キラキラな世界観に暗い影を落として効果的だ。

稀代のエンタテイナーの光と影を演じたのは新鋭オースティン・バトラー。出ずっぱりの彼が159分を支えて、まさに“スター誕生”の瞬間を目撃しているかのよう。エルヴィスでありつつ、オースティンでもあるという奇跡的なバランスを保っている。

画像: キラキラな世界観にじわじわ広がる心の中の不安や哀しみが暗い影を落として効果的

さて、そのエルヴィスの死因。旧弊な社会概念と強靭な反骨精神で闘っていた彼が、なぜか身内には無力だった。彼の強さと弱さと優しさが、その死因に込められている。

ワーナー・ブラザース映画配給/公開中
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