一部ネタバレもありますのでご注意ください。
ソーのコミックの中で人気のある物語を中心に構成
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のすごいところは、同じ世界観の中に全くテイストの違う作品を持ってくることです。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』がホラーテイストであり、サプライズいっぱいの予想がつかない作品だったのに対し、本作『ソー:ラブ&サンダー』は楽しく、そして極めてわかりやすいストレートな活劇になっています。本作を観て感じることは、これは100%ソーの魅力を楽しむ映画だということ。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』はドクター・ストレンジの映画であると同時にワンダ/スカーレット・ウィッチが主役とも言える作品でした。またソーの前作『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)も話の半分はハルクのコミックの有名エピソードを反映させています。さらにソー映画はやはりロキがもう一人の主役として支持されてきました。
しかし今回の『ソー:ラブ&サンダー』は、ソー以外のMCUヒーローやキャラが目立つことはない。またこの映画に反映されているエピソードもソーのコミックの中で人気のあるお話を中心に構成されています。従って今まで以上に“ソーの映画”なんです。そして今回はクリス・ヘムズワース演じるソーのサービス・シーンも多い。素っ裸にされたり(笑。ただこの時にソーがロキを忘れまいと背中に彼のタトゥーをしているのが泣かせる)、コミックでも有名なコスチュームを身にまといます。
さらに今回のソーは久しぶりに金髪ロン毛でマッチョ。これぞソー!とも言えるかっこ良さが復活しているんです。というのも『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)では途中から短髪だったし、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)ではまさかの太っちょ。実に5年ぶりに“金髪ロン毛・マッチョ”なソーの姿が復活します。
MCU作品は監督の個性を大事にしている
先ほどわかりやすいストーリーと書きましたが、だからといって単純なお話ではなく、テンポ良く話がすすみ、アクションやソーと仲間たちのかけあいの面白さを堪能できます。本作の鍵となるのは3人のキャラクター。まずヴィランとなる“神殺し”ゴアです。今までのMCUのヴィランの中では華奢ですが、やはりクリスチャン・ベールが演じているだけになんともいえない妖しいオーラがある。
二人目はゼウス。そうあのギリシア神話のゼウスです。そもそもマーベルの世界には神様が沢山出てくるんです。もともとソー自体が北欧神話ですよね。同じようにギリシアの神々もコミックの中で描かれています。そう言えばドラマ『ムーンナイト』にはエジプト神話の神々が出てきましたよね。コミックではアスガルドの神々とオリンポスの神々が戦う話がありソーはヘラクレス(!)と戦います。コミックでも2頭の空飛ぶヤギに導かれ乗り込むのです。こういう神話的要素がソーの物語の魅力でもある。これをきちんと映像化したことが素晴らしい。
特にゼウスとソーが対面する全能の町(オムニポテンス・シティ)の豪華さは観ていてうっとりします。このゼウスを演じるのがラッセル・クロウ。偉大な神というより、性格に問題ありなこの万能神をチャーミングに演じています。
あ、そう言えばゴア役のクリスチャン・ベールはご存じバットマン、ラッセル・クロウはスーパーマンの父を演じていました。DC映画のスターをこういう形でMCUで取り込むとはマーベル恐るべし。そしてなんといっても注目はナタリー・ポートマン演じるジェーンが変身する“マイティ・ソー”です。本作では“マイティ・ソー”とは彼女のことなのです。この“マイティ・ソー”がとにかくかっこいい。一つ間違うとジェーンがソーのコスプレをしている、になってしまうわけですが、もともとこういうキャラがいたんじゃないかぐらいにはまっているんです。マイティ・ソーとソーの2ショットは本当にワクワクします。“ラブ&サンダー”という副題の意味も最後に明らかになります。これからのMCUをひっかきまわしてくれるのかな?
先ほどテイストの違う作品が続く、と書きましたが言い方を変えれば、MCUは監督の個性を大事にしているということです。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』はサム・ライミ節、そして今回はタイカ・ワイティティらしさ全開の快作です。
最後にトリビアを。劇中、ゴアが持つあの剣はコミックだとヴェノムたちシンビオートと関係があるんです。そういえばゴアが闇から作り出すモンスター、ちょっとヴェノムっぽいですよね? 今後ヴェノムともつながるんでしょうか? エンド・クレジットが終わって、出るテロップにソーのファンは歓喜するでしょう。
タイカ・ワイティティ監督、『ソー:ラブ&サンダー』を語る
── 本作をエモーショナルなものにしようと思った理由は何ですか?
前作はパーティーみたいでしたが、今作はオペラみたいです。この映画も『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)と同じくらいにクレイジーにしたかったんですが、もっと成熟させたくもありました。ソーの成長をもっと目的のあるものにしたかったんです。単なるヒーローではなくて、映画の最後には自分の使命を見つけるんです。
── 本作もロック音楽が満載ですが監督にとってロックは特別なものでしょうか?
ロック音楽、とくに60年代、70年代の音楽を聞いて育ちました。母がレッド・ツェッペリン、ジミ・ヘンドリックス、ビートルズ、ローリング・ストーンズが好きで、僕が若い時ずっと聴いていた音楽なんです。特にデヴィッド・ボウイの曲は、僕の人生のいろんな時期に結びついてますね。
── 影響を受けた日本の作品があれば教えていただけますか?
映画で言うと、大きな戦闘シーンは黒澤明監督から影響を受けています。金色の血があちこち飛び散るのは『用心棒』(1961)とか『乱』(1985)のようなサムライ映画から影響を受けました。僕のお気に入りの一人は小津安二郎監督で『東京物語』(1953)はお気に入り映画の一つです。
ソー:ラブ&サンダー
公開中
監督: タイカ・ワイティティ
出演: クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン
配給: ウォルト・ディズニー・ジャパン
©Marvel Studios 2022