クロエ、戦いっぱなし! ジャンル超越の83分!
『キック・アス』(2010)『サスペリア』(2018)『トムとジェリー』(2021)のクロエ・グレース・モレッツが、全編を通して戦いっぱなし。強い意思と戦闘能力を持つ女性を熱演する痛快エンターテインメントだ。
クロエが演じるのは、第二次世界大戦の空軍大尉モード・ギャレット。彼女は突然、飛び立とうとしている爆撃機に乗り込んで来て、上官からの密命である荷物をサモアに運ばなくてはならないと言う。乗組員たちは急な依頼に反発するが、彼女が持参した指令書を見て、しぶしぶ彼女を乗せて飛び立つ。しかし、その飛行の先には、想像もしなかった困難と驚愕の事実が待ち受けていた――。
物語の舞台は第二次世界大戦だが、戦争映画なだけではなく、ミステリー映画、空中アクション映画、ホラー映画、モンスター映画など、さまざまなジャンルがミックスされているところが、この映画の魅力。
まず、クロエ演じるヒロインの極秘指令とは何なのか、彼女が運ぶ荷物は何なのか、その謎解きミステリーでドラマが進み、後半、衝撃的な事実が明らかになる。それと並行して、飛行中には敵のゼロ戦が襲来し、激しい銃撃戦の空中アクションが展開。
さらに、クロエは飛行機に張り付く奇妙な存在を目撃して、嵐の中で怪しい影が見え隠れする雰囲気は、ホラー映画のテイスト。その影の姿が明らかになると、モンスター映画の雰囲気も。こうして、ドラマの展開に連れて、多様なジャンルの魅力が盛り込まれていく。
前半は演技で魅せる 後半は筋肉で魅せる
また、構成もユニーク。まず前半は、画面に映し出されるのはクロエだけ、という彼女の一人舞台。クロエ演じるヒロインが、狭い銃座から出られなくなり、画面には彼女だけが映し出される。機内とは無線で繋がっているが、同乗する兵士たちは声が聞こえるのみ。彼女は孤立しているので、すべてを自分で決断し、一人で行動しなくてはならない。クロエの演技力がたっぷり発揮されるのだ。
クロエ自身にとってもこのシーンはこれまでになかった体験。自分の姿勢も変えられず、相手なしに一人で演じたこのシーンを「5歳から仕事をしていて今は22歳で、60本以上の映画に出演してきたけど、これほど難しいことは、今までやったことがなかった」と語っている。
それとは対照的に、後半でクロエが銃座の外に出てからは、過激なアクションが連発。クロエがこの映画のために鍛えた身体能力を発揮する。彼女はトレーナーと共に身体改造を行い、撮影に入る前に懸垂を10回できるようになり、最終的には15回ほどできるようになったそう。高度2,500メートルで飛行中の機体の外で、機体の一部につかまってよじ登るシーンなど、スリリングなアクションの数々を支える、クロエの鍛えた筋肉にも注目だ。
この名前も覚えておきたい!
新鋭ロザンヌ・リャン監督
監督・脚本は、中国系ニュージーランド人ロザンヌ・リャン。本作は、シガニー・ウィーバーが戦う女性を演じる、ジェームズ・キャメロン監督の『エイリアン2』(1986)に刺激を受けていると語っている。本作でハリウッドに進出し、今は人気アニメ「アバター 伝説の少年アン」の実写化ドラマ「Avatar:The Last Airbender」の監督を務める注目株だ。
兵士たちの役で『ジュラシック・ワールド』(2015)のニック・ロビンソン、『アウトポスト』(2020)のテイラー・ジョン・スミスらが共演。男性ばかりの兵士たちと、彼らに負けていないクロエのやりとり、登場人物の関係性が変化していくドラマも見逃せない。