実はスウェーデン出身の監督もまた子供時代から“イェンソン一味”を観て育った大ファン。監督の代名詞ともいえる映像美と緩急のある演出で、シックで洒落た、大人も堪能できるクライムコメディに仕上げている。
――本作の監督のオファーを受けた際、即断で引き受けたとお聞きしましたが、その際はどのようなお気持ちでしたか?
「家族に向けた素晴らしい機会だと思いました。自分が子供の頃、親や家族と映画館に行った事を今もすごく覚えています。誰かと一緒に何かを観に行って分かち合う体験、特に笑いやエンタメを分かち合う体験はとてもユニークだと思うんです。最近は少し変わってきて、家で映画を観ることが増えて一緒に映画館に行くという“儀式”というか、そういう機会は少なくなってきたかなと思うけれど、一緒に何かを体験する事は人間の原始的なものなので、本作だったらそれが実現できると思いました」
――スマートさとポンコツな部分を兼ね備えた、とてもチャーミングな登場人物でしたが、キャラクター作りはどのようにされていますか?
「完璧なキャラクター造形だと、観客は好ましく思わないんじゃないかと思うんです。短所があるから、そのキャラクターを気に入ってくれる。本作でも、キャンディー好きのハリィというキャラクターが、七か月もかけて計画した作戦の途中でキャンディーに夢中になって食べてしまうシーンがあるのですが、それってとても人間的なリアクションだと思います。同じような事ではなくても、観客は自分もそうだなと投影して観ることができると思うんです。自分のドジな事をキャラクターが代わりに映像の中でやってくれる、ある意味それがコメディですよね。だから、『Mr.ビーン』がここまで人気があるんだと思います。僕たちがしてしまいそうなドジな事やバカな事をビーンが代わりにやってくれる。やっぱり笑うという事に関しては、自分自身の短所を笑うよりも、他人を笑う方が楽でもありますからね。だからキャラクターを作る時は、短所があること、パーフェクトでは無いことは非常に重要な要素だし、そうであることで観客がキャラクターの中に自分を見ることができると考えています。また、観客が自分を映画の中で認識できるかということも、映画にとってとても重要な要素なんです。
さらに、この映画のキャラクターたちは、知的というわけではないけれど、それぞれにスキルを持っています。本作のキャラクターはアーミーナイフのパーツみたいなものだと思うし、皆がお互いを必要としています。それって、個人主義を大事にする今の時代にとって、すごく重要な、あるいは素敵なメッセージなんじゃないかなと思います。計画を成立させるために、全員の力を合わせないといけないんだ、と」
――映画製作をする際に、他作品など何か参考にしているものがあれば教えてください。
「映画が大好きなので観に行ったりはしますが、自分の映画を製作している時は、他の作品に影響されないように何も観ないようにしています。創作のインスピレーションは、例えば絵画とか、アートから得ることが多いです」
――本作や過去の作品も含めて、全くジャンルの違う作品ですが、何か共通点はございますか?
「映画を作る際、ジャンルについてはあまり考えない方が良いと思っています。例えば『ぼくのエリ 200歳の少女』を作った時、周りからはヴァンパイアものだね、ホラーだねと言われたけれど、あの作品は僕にとってはラブストーリーで、大人にならんとしている少年の恋愛映画として作ったんです。公開後にホラー映画のオファーが沢山来たんですが、僕は‟ホラーは知らないし、特に興味も無いし…”と思いました。だからジャンルをよく知らないことが、逆に何か違うものをもたらしたという意味で、良い巡り合わせだったのかなと思っています」
――過去に撮られた経験で本作に活かせた部分を教えてください。
「僕の映画作りで何か特徴的な部分があるとしたら、それは僕自身がそれを掘り下げるべきではないと思っています。自分自身が映画作家として、そういうところに興味を持つべきでないと思っているんです。映画作りでこれは自分っぽいなと意識をすることは、映画にとって良くないと思うので。大事にしていることは直感や、童心に戻って子供の目で見て、その感覚で映画を作ること。あとは、観客とうまく通じ合えるような、そういう作品をつくること。知性で考えて作るよりは、本能を大事に作っています。自分が何か脚本などを読んだ時も、自分のリアクションに耳を傾けることを大事にしています。何かを読んだ時に笑ったり泣いたり、身体が反応することは大抵良いことだったりするので、そういうことを大事にしています」
――最後に日本の皆さんへメッセージをお願いいたします。
「豊かな文化を生み出してきた日本で『ギャング・カルテット 世紀の怪盗アンサンブル』が公開される事をとても嬉しく思っています。日本は何度か訪れたこともあるとても好きな場所です。僕らがこの作品を観て笑うのと同じくらい、日本の方々にも笑ったり、何か共感して貰えたら嬉しいです。皆さんがどんなリアクションをするのか、今からとても楽しみにしています!」
ギャング・カルテット 世紀の怪盗アンサンブル
9月2日より kino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開
監督:トーマス・アルフレッドソン
脚本:トーマス・アルフレッドソン、ヘンリック・ドーシン、リカード・ウルヴスハマール
出演:ヘンリック・ドーシン、ヘダ・スターンステット、アンダース・ヨハンソン、ダーヴィド・スンディン
配給:キノフィルムズ
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