映画界は晩夏から初秋へ移り行く中、どんな新作が待っているのでしょう? まず気になるのはジョーダン・ピール監督からの新たな恐怖への招待状ともいえる『NOPE/ノープ』。今年の秋は、本作をはじめ、洋画も邦画もニュータイプの恐怖を描く新作群がトレンドと言えそうです。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)

ネタバレに繋がる箇所もありますので、映画を未見の方はご注意の上、お読み下さい

“最悪の奇跡”とは一体何か?

平穏な田舎町を襲う突然の脅威!

画像: 平穏な田舎町を襲う突然の脅威!

“最悪の奇跡”によって起きた事故で父を失い、ロサンゼルス近郊の牧場を引き継いだОJとエメラルドの兄妹。その死因にある疑問を持った二人は真相を追求することになるが、そんな彼らの前に怪奇現象が続発するように。それらは真の“最悪の奇跡”の序章に過ぎなかった……。

ゲット・アウト』(2017)『アス』(2019)に続くジョーダン・ピール監督の最新作で、脚本はピール自身によるもの。撮影を『TENET テネット』(2020)などクリストファー・ノーラン監督作品でおなじみのホイテ・ヴァン・ホイテマが担当するのも話題。出演者は『ゲット・アウト』でピールと組んだダニエル・カルーヤ、シンガーとしても活躍するキキ・パーマー、『ミナリ』(2020)のスティーヴン・ユァン、『バスキア』(1996)のマイケル・ウィンコットなど。

ストーリー

画像: ストーリー

映画やテレビの撮影用の馬を調教するロサンゼルス郊外のヘイウッド家の牧場。半年前に牧場主が飛行機の落下物に衝突されて死亡する事故が起き、息子のOJ(カルーヤ)と娘エメラルド(パーマー)の兄妹は、牧場の経営が苦しく、テーマパークを作ろうとしている元子役のリッキー(ユァン)に売却する話も出ていたが躊躇していた。実はOJは父が死んだとき「巨大で速い何かを見た」と妹に打ち明けると、野心家のエメラルドは謎の飛行物体を動画に収めて、バズらせて注目されることを計画する。

監視装置をいくつか設置すると、そこには数々の異変が収められていた。何かに驚いて苦る馬たち、雲の隙間から放たれる閃光、何よりも砂埃と共に迫ってくる飛行物体と思しきものも……。謎に突き進む彼らを想像を絶する真の“最悪の奇跡”が待ち受けていた!

注目キーワード

キーワード1:Gジャン

雲に隠れている正体不明の飛行物体をОJは「Gジャン」と呼ぶ。そのデザインは1年半も試行錯誤を重ねて完成したそう。

キーワード2:スカイダンサー

渓谷に並んでくねくねと踊る色とりどりの謎の物体。監督曰く「Gジャンを探知する装置で、同時にGジャンを煙に巻くものでもある」ということ。

キーワード3:コッパーポット・コーブ

『アス』(2019)にも登場した架空のファストフード・チェーン。監督は「自分の作品は同じユニバースで起きている話と考えてもらえればうれしい」と言う。

登場人物

OJ(ダニエル・カルーヤ)

画像: OJ(ダニエル・カルーヤ)

「馬」をキャスティングする映画界御用達の牧場を経営する父が謎の突然死を遂げる。さらに実家に帰還した妹と軋轢が生じる。

エメラルド(キキ・パーマー)

画像: エメラルド(キキ・パーマー)

ОJの妹。牧場の共同経営者だが芸能界で売れることを望んでいる。飛行物体を動画撮影してバズらせようと画策する。

リッキー(スティーヴン・ユァン)

画像: リッキー(スティーヴン・ユァン)

かつて人気子役だったが衝撃の事件が起こりショービズ界を辞める。テーマパークを立ち上げ、新たな客寄せイベントを計画する。

【要チェック】
ジョーダン・ピール監督からの『NOPE/ノープ』鑑賞のヒント

── “怖い映画は見たくないという皆さんへの僕からの招待状という意味もある”

Photo by Getty Image

人種差別をテーマに新たな視点からこの問題を捉え、アカデミー賞脚本賞を受賞した『ゲット・アウト』(2017)、そして格差社会をテーマにバイオレンスを盛り込んでデフォルメ化した『アス』(2019)の2作で、あっという間に現代の最も重要な映画作家の一人になったジョーダン・ピール監督。そんな彼が続いて挑んだ新作『NOPE/ノープ』で描くものは何か?

まず彼がやろうとしたのは「サマー・イベント・フィルム」を作ることだった。つまり夏休み向けのメジャー級大作を。しかも「偉大な謎の飛行物体ムービーを作ってみたいと考えた。このジャンルでは遠い世界の先進的な文明の素晴らしさが描かれがちだが、実はそこにもっと単純でダークな真実が秘められていたとしたらどうだろう?」と語る。

さらには映画作りや映画業界への疑問を投げかけるという意図もあるという。「自分たちの仕事を評価しつつも批判する作品にしたいと思った」とピールが訴えるのは、映画業界などで観客の目にさらされることはないが実際に人々の記憶に残るシーンづくりに貢献している裏方や、使い捨てられ同然の俳優たちのことを示している。本作に登場するОJとエメラルドの兄妹はそれを反映している存在。

そしてまたピールは「この作品の核にあるのは兄妹の物語であり、繋がりのなかった二人が互いを理解しあって、ずっと互いを見てきたと認め合う状態へ変わる二人の力を紡いでいる。もちろんこれはスペクタクルについての映画だけれど、自分を見てほしい、ありのままに認めてほしいという思いについても描いている」と主人公兄妹の重要性をアピールする。

そうしたテーマ性だけでなく、本作は娯楽映画として楽しめるということも事実だ。「この脚本はコロナ禍の時に書いた。あの時に起きて今も続くあらゆる恐ろしい出来事を本作はいろんな意味で反映している。僕にとってこの作品は日常からの逃避みたいなものだし、観客も現実を忘れるきっかけになってくれればうれしい」と明かすピールは、「きっと怖い映画は見たくないという人も結構いるんじゃないかな。タイトル(「ノープ」=ムリ!)にはそういう皆さんへの招待の意味も込めている。“確かに怖い映画だよ。でもそんなあなたを知ったうえでこのジャンルに招待しているんだ、席を用意したのでどうぞ”という僕の気持ちを表している」と続ける。ピール監督の招待状をぜひ受け取ってほしいものだ。

NOPE/ノープ
2022年8月26日(金)公開

アメリカ/2022/2時間11分/東宝東和
監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、スティーヴン・ユァン、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ぺレア
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