"「あなたのためにこの映画を書くのでぜひやってほしい」と伝えました"
ー料理人の物語を描くにあたり、調理シーンや料理をおいしそうに撮ることは非常に重要だったと思いますが、撮影で工夫した点などがあればお教えください。
「私は庶民の生活や仕事場を描いた風俗画を観るのが好きなのですが、まずは撮影監督に18世紀の絵を見せてイメージを共有しました。撮影時には2つのエピソードがあります。ひとつは劇中に登場する「デリシュ」という料理に似せた形のランプをつくったことです。それを料理の裏に隠したり、ろうそくの近くに置いたりすることで光を補強しました。つまり私たちは“”デリシュ・ランプ”を作ったというわけです(笑)
もうひとつは、セットについてです。登場する家の3辺には窓がなく、ひとつの辺にのみ窓が2つあります。そこに女優さんに立ってもらうと、光が一方向からのみ当たって、フェルメールの絵画のようになります。セットづくりの時点で光の通し方を考え、コントロールすることで当時の雰囲気を出しています」
ー俳優たちの演技も素晴らしかったです。自らの創作料理を提供したマンスロンの料理人としてのスタンスはアーテイスト気質で現代的に感じました。先進的な思想の息子バンジャマンやルイーズなど魅力的な登場人物です。脚本も監督自身が書かれていますが、キャラクターを考えてからキャストを決めたのでしょうか? キャスティングの決め手などがあればお教えください。
「主人公のマンスロンについては、シナリオを描いている時点でグレゴリー・ガドゥボワが頭にありました。彼は主に舞台で活躍する俳優で、大スターというわけではありませんでしたが、映画は数本観ていました。しかし当時はまだ知り合ってもいなかったので、彼に連絡を取り、「あなたのためにこの映画を書くのでぜひやってほしい」と伝えました。シナリオを送ってと言われたものの、なんとなく信じていないなという雰囲気はありましたが(笑)、送ったら一晩のうちにすぐに読んで「やります」と連絡をくれました。彼が引き受けてくれなければ、この映画は苦難の道を歩んでいたと思います。彼の良さは、男性らしさや料理人らしい力強さ、荒々しさと庶民的な逞しさを持つ一方で、心の脆さも持ち合わせていることです。陰と陽がはっきりと関係づけられていることが重要でした。また、彼のデリケートでありながら、かつ男らしい大きな手も決め手でした。
ルイーズ役のイザベル・カレは以前に一度作品を撮っています。どちらかというと現代劇に多く出ている俳優ですが、彼女にドレスを着せて美しく魅せたい、複雑な役柄を演じてもらいたいということで出演を提案しました。彼女とガドゥボワの組み合わせはとても上手くいったと思います。公爵役のバンジャマン・ラベルネはコメディ・フランセーズ(フランスの国立劇団)の非常に素晴らしい俳優で、彼も以前私が撮った作品「Le goût des merveilles(15)」に出ています。彼とガドゥボワとのやり取りの面白さは、上に立つ人物が若くて、従う側が年を取っているという逆転の状況です。社会的に解放されていく様子が両者の掛け合いによって明確に見えてくるのが面白くて起用しています」
ー今後のプロジェクトついて
「2本映画を予定しており、すでに撮影が終わっている作品と来年撮影する映画がありますが、主人公にはグレゴリー・ガドゥボワを起用しています。そういう意味で、彼は非常に信頼している俳優なのです」
『デリシュ!』
9月2日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
1789年、革命直前のフランス。誇り高い宮廷料理人のマンスロンは、自慢の創作料理「デリシュ」にジャガイモを使ったことが貴族たちの反感を買い、主人である傲慢な公爵に解任され、息子と共に実家に戻ることに。もう料理はしないと決めたが、ある日彼の側で料理を学びたいという女性ルイーズが訪ねてくる。はじめは不審がっていたマンスロンだったが、彼女の真っ直ぐな想いに触れるうちに料理への情熱を取り戻し、ついにふたりは世界で初めて一般人のために開かれたレストランを営むことになる。店はたちまち評判となり、公爵にその存在を知られてしまう。
出演:グレゴリー・ガドゥボワ、イザベル・カレ、バンジャマン・ラベルネ、ギヨーム・ドゥ・トンケデック プロデューサー:クリストフ・ロシニョン & フィリップ・ボエファール
監督:エリック・ベナール
脚本:エリック・ベナール、ニコラ・ブークリエフ
撮影:ジャン=マリー・ドルージュ
音楽:クリストフ・ジュリアン
2020/フランス・ベルギー/フランス語/カラー/シネマスコープ/5.1ch/112分 原題:DÉLICIEUX 配給:彩プロ 公式サイト:https://delicieux.ayapro.ne.jp
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