約40年にわたってハリウッドを中心に映画記者活動を続けている筆者が、その期間にインタビューしたスターは星の数。現在の大スターも駆け出しのころから知り合いというわけです。ということで、普段はなかなか知ることのできないビッグスターの昔と今の素顔を語ってもらう興味津々のコーナーです。今回は、最新作『ブレット・トレイン』が絶賛公開中のブラッド・ピットに注目です。(文・成田陽子/デジタル編集・スクリーン編集部)

成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。

最初はスター扱いを嫌がっていたが、徐々に変化してやがて余裕も見せるように

このところ、立て続けに『ザ・ロストシティ』と『ブレット・トレイン』に出演してファンを喜ばせていたブラッド・ピットが、突然「相貌失認」(他人の顔が分別できなくなる病気 prosopagnosia)を患っていると告白。おまけにもう30年以上も続けた俳優業は辞めたいとコメントしたりしているが、クエンティン・タランティーノ監督は「いやあ、飛びつきたい企画を見せれば大丈夫」とやけに自信満々で反応していた。

画像: 1988年、俳優デビューしたばかりの頃のブラッド

1988年、俳優デビューしたばかりの頃のブラッド

今年の12月18日で59歳。大学卒業を目前にして、現金300ドルのみをポケットに入れておんぼろダットサン(昔の日産)を駆って、ミズーリからロスアンジェルスに向かった頃のワイルドなゴールはほとんど全て叶えられたに違いない。昔の「恥ずかしくってやれるか!」という若気の反逆児から、タブロイドの一大標的となり「スター扱いなんて懲り懲り」を経て、最近の10年ぐらいは一皮むけて、飄々として枯れた味の俳優となってきた。

「子供を持つと全ての優先感が180度変わるからね。彼らの猛烈なエネルギー、信じられないような発想の創造性、社会の澱にさらされてない純粋な考え方を目の当たりにすると親になってラッキーだったとつくづく思う。自分が頼りにされていると思うと、親としての責任感をひしひしと感じて、それが又たまらなく愛おしい」

とアンジェリーナ・ジョリーとの間の6人の子供の存在がピットを圧倒していた時期のコメントである。離婚から親権問題などが展開してピットは子供のことについては頑なに口を閉じるようになり、表情もかなり険しくなってしまった。

レオとの友情はハリウッドの内側を知っている戦友のようなもの

画像: レオとの友情はハリウッドの内側を知っている戦友のようなもの

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)の時になると、再びお気楽な態度が戻り、ジョークが飛び交うようになったのはタランティーノの現場の映画作り「愛」充満の雰囲気とレオナルド・ディカプリオとの共演のせいかもしれない。

こんな事を話してくれた。

「レオのこと? あいつは過剰に褒められすぎだよね!(笑)いやいや彼との仕事は初めてだったけれど考えていたとおりのすごい才能を持った俳優だったね。お互いに同じ頃に俳優として認められ、人気が出た後の空白感、アップダウンの生活、役の選択とかプライバシーのない毎日の対処の仕方とかに日頃から同感、共感、同志意識を持っていた。僕らは映画の焦点を把握して、主人公としての演技のやり方、などを長いことやってきたから一緒に場面に出た時にベテランのプロとしての位置を知っているだけに、お互いに期待に応え、ある呼吸が合致してそれは楽しい撮影だった。おぬしやるな!っていう合いの手が出るような同じトーンが揃った競演になったと思うね。レオの仕事に対する意欲もさることながら、環境保護への莫大な貢献にもいつも感服している。僕のほうが歳が上だが、ハリウッドの内側を知った者同士の連帯感を持てたのは素晴らしかった。

僕はスタントマンと一緒に仕事をする度に彼らの熱情と訓練ぶりに圧倒され、必ず彼らと共に過ごす濃い時間を作るようにしている。彼らなくしては僕らの見せ場の魅力が半減するからね。絶対にトム(クルーズのこと)のようにはなれないから、スタントマンに充分な敬意を示さないと。昔は同じスターに同じスタントマンがつくという様式が普通だったけれど、今はチームになっていてそのボスが制作会社と契約するから同じ人間が回って来ることはまず無い。合理的になってちょっと寂しいよね。レオと僕との友情は(二人が演じた)俳優とスタントマンの域を超えていて、ほとんど戦友みたいな間柄でお互いに気持ちよく演じることが出来た」

お次は再びハリウッドを描いた、マーゴット・ロビーと再共演する、デイミアン・チャゼル監督の待望の『バビロン(原題)』が年末全米公開予定である。

画像: 筆者とブラッド

筆者とブラッド

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