時空を超えて母と友情を育む少女
大好きな祖母を亡くした8歳の少女ネリーは、その家を処分することになった両親とともに祖母の家を訪ねる。沢山の思い出に胸を締め付けられたネリーの母親は、ある朝どこかに行ってしまった。ネリーは、その日、かつて母親が遊んだ森を探索するうちに、自分と同じ年の少女と出会う。その少女は母と同じ名前のマリオンといい、ネリーはやがてその少女が幼い時の自分の母であることを知る。そして、ふたりはお互いにとってかけがえのない友達になっていく。
今回公開された本編映像は、一緒にいられる時間が長くはないことを知るふたりがその時間を慈しむように過ごす様子を捉えたもの。ふたりは洋服やセリフを自分たちで考え、ちょっと大人びた“取り調べごっこ”をするが、警官役のネリーが着けているネクタイは、マリオンの母、つまりまだ若い“おばあちゃん”が巻いてくれたものだ。取り調べを受ける側の侯爵夫人を演じるマリオンは思わず笑い出し、ネリーの演技を「上手だね」と褒める。さらにマリオンは「女優になりたい」という夢をネリーに告白する。マリオンが自分の母親であるという“真実”を知った上で会話を交わしているネリーの心中を想像せずにはいられない、強い印象を与えるシーンとなっている。
劇中では、時空を超えたネリーが自分と同じ年の母マリオンと出会うだけではなく、マリオンがネリーとともに“現在”の祖母の家を訪れるシーンも登場することになるが、このようにふたりがそれぞれ時空を行き来することについてシアマ監督は、「タイムラグのある時空から双方がそれぞれの家を訪問し、そこでの“出会い”があった方が面白いと思いました。そこに様々な要素を盛り込み、この“出会い”の体験がふたり、さらには他の人にとってもそれぞれ実りのあるものになるようにしたいと考えました」と狙いを明かす。ネリーとマリオンがそれぞれの家を行き来することで、ふたりのみならずふたりを取り巻く登場人物にどんな変化が生まれるのか、ぜひ注目してほしい。
映画賞を席巻し、世界中の人々に「生涯の一本」としてその胸に刻み付けた『燃ゆる女の肖像』。セリーヌ・シアマ監督が、真骨頂である女の深淵を描きつつ、全く新しい扉を開く最新作を完成させた。第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門での上映を皮切りに、各国の映画祭で上映され惜しみない絶賛評を受け続けている。ネリーとマリオンには、これが映画初出演となるジョセフィーヌ&ガブリエルの双子のサンス姉妹。『燃ゆる女の肖像』でセザール賞撮影賞を受賞したクレア・マトンの映像と、シアマ監督が仕掛けたいくつもの“奇跡”によって、胸が震えるほどの深い余韻を約束する唯一無二の傑作がここに誕生した。
『秘密の森の、その向こう』
9月23日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
©2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
配給:ギャガ