高橋伴明監督のためなら出演したいなと思えるぐらい、好きなんです
──『痛くない死に方』(21年)で10年ぶりに高橋伴明監督作品に出演されましたが、新たに伴明監督作品のお話をいただいた時のお気持ちはいかがでしたか。
「(高橋)伴明さんが監督される映画に出演するということは、撮影の約1年ぐらい前から聞いていて、ドキドキして待っていたのですが、脚本を読ませていただいたら、内容がかなり社会派で。しかも、実際に起こった事件のエッセンスがあると。でも、読んで安心しました。最後に光が見えたような気がしたので」
──高橋伴明さんは、大西さんにとって特別な監督だと思うのですが、映画のお話が来た時って、これはもう、脚本も読まずに出る!のような感じになってしまう?
「そうですね。伴明さんのためなら出演したいなと思えるぐらい、好きなんです」
──師匠的な感じですか?
「最初の監督でもありますし、大学の先生でもありますが、自分の祖父のような感じで接している自分はいますね。もちろん頭は上がらないですけど、そんなに緊張しないというか。さすがに、デビュー作から約10年弱ぶりに一つ前の作品『痛くない死に方』でご一緒させていただいた時は、ちょっと緊張したんですけど。でも今回は、本当に緊張しなかったです。すごく落ち着いて、前よりもコミュニケーションをとりながらできました」
──伴明監督に作ってもらったものが、今のご自身の礎になっている。
「はい。完全にそうですね」
──例えば?
「モニター見るな、とか。普通、どういう風に映っているか、どういう画角で映っているかを確認しますよね。それはすごく大事なことだなと思うんです。角度によっては、自分の想像とは違う表情が映っていたりするので。伴明さんが“モニター見るな”って言うのは、たぶん、ここで生まれているものに、それ以上も、それ以下もないってことだと思うんです。それは今も続けてることです」
──いろんな作品で、いろんな演出家の方と関わられていますが、他に“伴明監督ならでは”と思うことはありますか?
「粘らない。だいたい、ファーストテイク。それで“OK”ってなるから、こっちは不安でしかないんです。“成立してるのかな……”とか。ぎこちないことが連続していくほうが、もしかしたら伴明さんには美しく映ってるのかなとか、そういうことは思ったりしました」
──モニターを見ていないということですが、出来上がった作品を観て、どう思われましたか。
「ポンポンって撮影が進んでいくので、頑張って撮っているという感覚があまりないんです。でも、映画を観ると、ちゃんとつながっていて、心が動いているという不思議な体験なんです。“伴明さんの頭はどうなってるんだろう?”って、いつも思うんですけど(笑)」
──ご自身の中で特に気になったシーンを教えていただけますか。
「私がすごく好きなシーンは、自分のところだとアトリエのシーンで、(自作のアクセサリーを売りながら、夜は居酒屋で住み込みのパートとして働いている三知子を演じた)板谷(由夏)さんと(アトリエのオーナー役の)筒井(真理子)さんと3人で会話してるところです。私が演じる(居酒屋の)店長の人間らしさっていうか、ぎこちなさが、あのシーンで表現できたのかなと思って。(アトリエのシーンは)板谷さんと筒井さんが、芝居をしている感じが全くなくて。セリフを言っているのか、ご本人が言っているのかよくわからない音が飛び交っていて、少し戸惑ったんです。でも、それはすごく気持ちよくて、自然に心が動いたんですね。それがちゃんと映ってるような気がしたので……」
──「ちいちゃんと呼んで」というシーン。
「そうです。“なんでそんなこと言うんだろう、この人”っていう(笑)。それはすごく好きなシーンです。あと、ホームレスの方たちのやりとり。大きな社会の中に、いろんな小さな社会があって、居酒屋もそれ自体が小さな社会で、関係が作られているんですけど、ホームレスの方たちの中にも社会があるってことを、私、見落としていたと思って。人間関係を垣間見れたのがすごく良かったなと思いました」
“必要じゃないことなんてないんだ”っていう意識で、映画を作っていきたいです
──『夜明けまでバス停で』は、高橋伴明監督の「今、これを世の中に発信しなければ」という想いに、スタッフ、キャストが集結した作品とのことですが、本作に臨むにあたり、意識したことはありましたか?
「コロナ禍になって、飲食店の経営が危うくなって、私が演じる居酒屋チェーンの店長も状況が変わり、不安定になったという感じの描かれ方ですが、本当は初めから、コロナ禍になる前から、もともとぐらついていたっていうところがわかってもらえればいいなと思いながら演じました」
──納得していないまま居酒屋の店長を務めているという。
「そうです。それを見ないふりして、ずっとマネージャーの言うことを聞きながら働いていた。店長という肩書上、安定しているという風に見られがちですが、実はそうじゃなく、従業員、パートの人たちと同じように、彼女もまた不安定なところで仕事をしている。だから、同じフィールド上にみんながいるっていうことは意識してやらせていただきました」
──この安定を壊したくないと思いつつ、大西さんが演じる千晴は、最終的には一歩踏み出すじゃないですか。その辺りの気持ちで共感できたりというのは?
「それはあります。裏でこそこそと悪いことをしている人に対して、もちろん怒りもあったけど、今まで壊してこなかった壁を壊そうとしている、穴を開けようとしている彼女の戸惑いみたいなのも一緒に表現できたらいいなと思いました」
──それがラストの、ちょっと晴れやかな表情につながるのかなと思ったのですが、ラストシーンを観て、どう思いました?
「ただただ安堵しているっていうことと、役目を果たしたっていう気持ちで演じていたかな。だからあの場面は、観ていて嬉しかったです」
──本作を観た方、そして楽しみにされている方へメッセージをお願いします。
「世界を広く考え過ぎてしまうと切りがないし、狭く考え過ぎてしまっても、とても窮屈だと思うんです。この作品では、日本という大きな社会が描かれていて、その中に飲食店の社会、ホームレスの人たちの社会も描かれている。それは、一つ一つ区切られているような気もするのですが、実はつながってるっていう。だから、“独りだ”って思わないでほしい。絶対どこかでつながるところがある、希望があるって感じてもらえたらいいなと思っています」
──最後に、女優として、今後もこういう風に作品と関わっていきたいと思うことを聞かせてください。
「“関わってくれた人全て平等に、同じように接したい”とすごく思っています。いろんな現場がありますけど、エキストラの方たちが、何かいないものとして撮影中に通り過ぎられてしまうこととかを目にすることがあって。そこにすごく違和感を覚えて。みんな、一つの作品を作るためにそこに集まっているのに」
──必要だから、そこにいる。
「そうです。“必要じゃないことなんてないんだ”っていう意識で、皆さんと挨拶したり、お話しをする。当たり前のことですけど、その気持ちをいつまでも忘れずに、映画を作っていきたいです」
撮影/久保田 司
スタイリスト/田中トモコ(HIKORA)
ヘアメイク/廣瀬瑠美
衣裳/ワンピース(IN-PROCESS Tokyo/SUSU PRESS/03-6821-7739)
右耳イヤリング、ブレスレット、左中指リング(e.m./e.m. 青山店/03-6712-6797)
右手リング、ピンキーリングにしたイヤーカフ、
左耳イヤーカフ (NOMG/info@nomg.jp)
(プロフィール)
大西礼芳 AYAKA ONISHI
1990年6月29日生まれ、三重県出身
〈近年の主な出演作〉
映画『花と雨』(2020年)
映画『痛くない死に方』(2021年)
映画『地獄の花園』(2021年)
映画 MIRRORLIAR FILMS Season4『バイバイ』(2022年)
ドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」(2021年)
ドラマ「古見さんは、コミュ症です。」(2021年)
ドラマ「競争の番人」(2022年)
舞台「守銭奴 ザ・マネー・クレイジー」(2022年11月23日より開幕)
〈STORY〉
北林三知子(板谷由夏)は昼間はアトリエで自作のアクセサリーを売りながら、夜は居酒屋で住み込みのパートとして働いていたが、突然のコロナ禍により仕事と家を同時に失ってしまう。新しい仕事もなく、ファミレスや漫画喫茶も閉まっている。途方に暮れる三知子の目の前には、街灯が照らし暗闇の中そこだけ少し明るくポツリと佇むバス停があった……。
一方、三知子が働いていた居酒屋の店長である寺島千晴(大西礼芳)は、コロナ禍で現実と従業員の板挟みになり、恋人でもあるマネージャー・大河原聡(三浦貴大)のパワハラ・セクハラにも頭を悩まされていた。
誰にも弱みを見せられず、ホームレスに転落した三知子は、公園で古参のホームレス・バクダン(柄本明)と出会い……。
これは、ある日誰にでも起こりうる、日本の社会の危惧すべき現状を描いた物語である──。
『夜明けまでバス停で』
新宿K’s cinema、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開中
監督:高橋伴明
脚本:梶原阿貴
出演:板谷由夏
大西礼芳 三浦貴大 松浦祐也 ルビーモレノ 片岡礼子 土居志央梨
あめくみちこ 幕 雄仁 鈴木秀人 長尾和宏 福地展成 小倉早貴
柄本 佑 下元史朗 筒井真理子 根岸季衣 柄本 明
主題歌:Tielle 「CRY」(ワーナーミュージック・ジャパン)
配給:渋谷プロダクション
公式HP https://yoakemademovie.com
© 2022「夜明けまでバス停で」製作委員会