「第33回高松宮殿下記念世界文化賞」の受賞式が2022年10月19日に開催。前日には今回の受賞者たちと国際顧問らが出席して記念記者会見も行われた。(取材・文/米崎明宏、撮影/久保田司)

「日本は第二の故郷ともいえます」(ヴィム・ヴェンダース)

今回の受賞者は絵画部門がジュリオ・パオリーニ、彫刻部門がアイ・ウェイウェイ、建築部門が妹島和世、西沢立衛/SANAA、音楽部門がクリスチャン・ツィメルマン、演劇・映像部門がヴィム・ヴェンダース。会見ではそれぞれに受賞の喜びと感謝の言葉を述べ、その後、個別に懇談会が行われた。

画像: 第33回高松宮殿下記念世界文化賞受賞者(後列)と国際顧問(前列)の記念写真

第33回高松宮殿下記念世界文化賞受賞者(後列)と国際顧問(前列)の記念写真

旧西ドイツ出身で『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』などの秀作で知られるヴィム・ヴェンダース監督は、「監督をしていると世界中が家になりますが、日本は第二の故郷ともいえます。その日本でこのような栄誉ある賞を受賞できて大変感動しています」と会見で喜びを表したが、さらに懇談会ではこれまでの自身の道のりや今後の予定についても語ってくれた。

もともとヴェンダースがその名を知られるようになったのは、ニュージャーマン・シネマという潮流の中で、ロードムービーの秀作をつぎつぎ生み出したことに始まる。

「私はいつもドイツ映画界に感謝の気持ちを持っています。私の人生に深みを持たせてくれました。その恩返しということではないですが、いま自分の財団を持ち、私がプロデューサーになって若い才能に対して映画を作る機会を与えています。また初期にロードムービーという手法を見つけたのはある意味幸運でした。実は最初の3作を撮った時はあまりうまくいっている気がしませんでしたが、何かの真似をしたり、アイデア中心になってしまうのはだめだと思いました。これではいけないと思っている時、考えてみるとロードムービーでは時系列的に撮影をできるので、これは贅沢なことだと気づいたんです。旅をしながら映画を撮ると、私も俳優もスタッフも同じ贅沢を味わうことが可能だと気づいて、自分の得意なものはこれだと思いました。ロード(道)は我々の人生を象徴するメタファーのようなもの。つまり人生が一つの道、我々の心の在り方を示すものです。私はドライブも旅行も好きですし、好奇心旺盛なので、どこに連れていかれるかわからないということも好き。映画は絵が動くという美術ですから、場所が動くということは意味が大きいです」
 と自身の原点について語ってくれた。

画像1: 「日本は第二の故郷ともいえます」(ヴィム・ヴェンダース)

さらに今後の仕事についても明かしてくれた。
「新作は東京で撮影した公衆トイレに関する作品ですが、最初オファーがあった時、意味が分からなかったけれど、考えてみるとトイレというのは建築の一つの傑作で、美でもあると思いはじめました。私たちはトイレについて誤解していると思います。そこで多くの時間を費やす、という意味で社会のコアであるにもかかわらずあまり大事にしていない。だからこれはドキュメンタリーでなく、ちゃんとストーリーがあるもににしたかったのです。今回は浅草界隈とか押上などスカイツリー近辺などで新たな発見がありました。また(本作に主演する)役所広司さんという名優をもっと早く知っていれば、これまでに何度も一緒に仕事をしただろうにと惜しい気持ちでいっぱいです」

これまでに日本での撮影も3度行ってきたヴェンダースは小津安二郎監督の大ファンとしても有名。
「小津監督との出会いは、実はドイツ時代でなく最初に『東京物語』を観たのは、すでに4,5本映画を撮った後で、ニューヨークででした。なので師匠というのはちょっと違うかもしれません。でも4回連続で観ました。それは私にとってまさにパラダイスでした。つまりこれ以上のものはないと思えたんです。その気持ちは今も変わりません。何度観ても、美、精神性、尊厳といったものを感じ取れます」

画像2: 「日本は第二の故郷ともいえます」(ヴィム・ヴェンダース)

 日本繋がりでは、今回建築部門で同時に受賞したSANAA(妹島和世、西沢立衛)の手がけた作品をドキュメンタリーにしている(短編『もしも建築が話せたら…』)。
「私は建築が好きで、ロケの場所によってインスピレーションを受けることも多い。今私がインスピレーションを受けているのは渋谷ですが。その場所に行ってカメラをどこに置くとか、どんな絵を撮れるとかイメージがわいてきます。今回一緒に受賞できたSANAAの建築物も撮影しましたが、ローザンヌにあって世界にも類を見ないものでした。一層の建物なのに、中に入ると丘のように上がり下がりがあって、エレベーターもないのに上に上がっていく。これを説明するために建築した方にセグウェイに乗って案内してもらうという発想も、その場で出てきました。観客に現場で創造者と同じものを感じてもらうのは重要なことです」
 とドキュメンタリーの重要性も強調した。そして最後に、
「皆さんもご存じのように、監督としての私の作品は“ドキュメンタリーのようなフィクション”、あるいは“フィクションのようなドキュメンタリー”というものが多いことからもわかるように、社会的な現実はいつもそこにあるべきと考えます。リアルであるべきことは重要だと考えますし、そういう意味で今日の人生というものはどういうものであるかを見せたいと思っています。映画を観ることで皆さんの人生を向上させることができればと期待しています。今の世界で、気温変動など環境問題、人間の欲望、といったものを必ず映画の中に捉えていくような社会性は必要です」
 と映画に秘めた思いも語ってくれた。

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