狂気を体現した『ジョーカー』(2019)でアカデミー賞主演男優賞に輝いた名優ホアキン・フェニックス。気鋭の映画会社A24が製作を手掛けた『カモン カモン』では、そんなイメージを覆す優しい顔を見せています。ホアキンの新たな一面に、きっとあなたも魅了されるはず。(文・大森さわこ/デジタル編集・スクリーン編集部)

“狂気”のイメージを覆す優しき顔を見せるホアキン

ホアキン・フェニックスといえば、エキセントリックを絵に描いたような男優というイメージが強かった。初の大役だった『誘う女』(1995)では人妻の夫殺しに手をそめる高校生役、初のオスカー候補となった『グラディエーター』(2000)では王の座を手に入れるため、父親を殺害する息子役、そして、初のオスカー受賞作となった『ジョーカー』(2019)では道化のかっこうをした連続殺人鬼。ターニング・ポイントになった役はすべて狂気を秘め、殺意を胸に抱いていた。

実は『サイン』(2002)の宣伝で来日したホアキン自身を記者会見で目撃したが、素顔も不思議で、何か聞くと「それはさきほど通訳に話しましたから、通訳に聞いてください」という答えが返ってきて、記者泣かせだった。とらえどころがないイメージがあり、ホアキンのエキセントリックな印象を強めていた。

画像: “狂気”のイメージを覆す優しき顔を見せるホアキン

ところが、『カモン カモン』では、これまでのイメージを覆す優しい顔を見せている。演じているのはラジオのジャーナリスト、ジョニー役。アメリカ中を旅して取材する日々を送っているが、ある時、9歳の甥ジェシーの面倒を見ることになる。中年になるまで独身で、子育ての経験がない主人公にとっては驚きの連続だが、旅を通じてジェシーとの確かな絆が生まれていく。

ベテランの余裕を見せる、ウディ・ノーマンとの掛け合い

画像1: ベテランの余裕を見せる、ウディ・ノーマンとの掛け合い

代表作『ジョーカー』の悲劇的でエキセントリックな人物像とは180度異なり、終始、なごやかな表情を見せるホアキン。「平和で静かに生きることが大切」と甥に言う場面もあり狂気とはほど遠い人物像だ。ハリウッドきっての“なりきり”演技派だけに、今回も役に溶け込み、味わい深い演技を披露する。

過去に演じた役を考え直すと、時には優しさが出た人物もあった。『ドント・ウォーリー』(2018)の車椅子に乗った漫画家は生前ロビン・ウィリアムズが望んでいた役で、ホアキンの温かい部分も見えたが、ジョニーほど穏やかな人物像ではなかった。

画像2: ベテランの余裕を見せる、ウディ・ノーマンとの掛け合い

そして、今回のホアキンは相手役を受ける側にまわり、子役のウディ・ノーマンの方が風変わりで、危なっかしい人物像だ。親がいるのに、孤児のふりをして架空の世界に入り込んだり、突然、街でゆくえをくらましたり、目を離すことができない。この役で多くの演技賞候補になったノーマンには、あどけなさと大人びた部分の両方があり、周囲の人を翻弄する。ホアキンはそんな彼とのユーモラスな掛け合い演技で、ベテランとしての余裕を見せる。

愛すべき個性をじんわり発揮し、公私にわたる好調ぶりを伝える作品に

画像: 愛すべき個性をじんわり発揮し、公私にわたる好調ぶりを伝える作品に

今回のBlu-rayの映像特典の中で共演者のノーマンは「ホアキンからは多くを学び、いつも、やる気が出た」と言い、監督のマイク・ミルズも「ずうっとホアキンと仕事がしたかった。彼はコラボレーターであり、友人でもあった」とコンビを組んだ感想を語る。

ホアキン自身は脚本が気にいって参加を決意したようだが、よき監督と共演者に恵まれることで新たな魅力を見せることになった。中年になっても純粋さを失わないホアキンの愛すべき個性がじんわりと発揮された役でもあり、時には彼の方がノーマンより子供っぽく見えるところもご愛敬。

この映画で主人公の取材を受ける子供たちは全員アマチュアで、しっかり自分の言葉で話し、未来への不安や希望を語る。そんな彼らを温かく見守るホアキンの姿も好ましい。今ではホアキン自身も実生活で一児の父親となったが、彼の公私にわたる好調ぶりを伝える作品にもなっている。

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