映画『ザ・ビーチ』(2020)の原作者であり、カズオ・イシグロの小説を映画化した『わたしを離さないで』(2010)では脚本を手がけるなど、多くの映画の製作、脚本に関わり、『エクス・マキナ』(2015)がアカデミー賞ほか多くの映画祭でも受賞するという、華々しい監督デビューを果たしたアレックス・ガーランド。本作『MEN 同じ顔の男たち』が最新作となる、ガーランド監督にお話を伺うことが出来た。

女性のネガティブとポジティブな男性観、両面を描いたのか?

── そういうお応えをいただきたかったです。ありがとうございます。

そして、逆にホラー映画って言われていることが役に立ったりもします。ホラー映画というのは、超自然的な「敵」がドンドン、ドンドンと力をつけてきますよね。そして、クライマックスにはものすごくパワフルになるというセオリーがある。これはフィルムメーカーにとっては「無償のギフト」みたいなものなんです。

── ギフトですか。

そのギフトをもらった私は、ホラーとしてのセオリーをどのようにするか、いかようにも取り組めるわけで、今回のよう描くことも出来るわけですよ。

画像: 女性のネガティブとポジティブな男性観、両面を描いたのか?

── なるほど。素晴らしい取り組み方をされていますよね。観る側もそれを受けとめればいいわけですね。

そして、この作品に関しては観た者が大いに議論して欲しいと監督がおっしゃっているとのことですので、伺いたいのですが、離婚したかった夫が亡くなり、自責の念を抱くことを否めずに、それがトラウマとなった主人公のハーパー。この作品は、そんな彼女のネガティブな男性観が描かれたものだと受けとめることも出来ます。

その反面、数奇な出来事に遭遇する女性の心のうちを探るような、ミステリアスかつ、ポジティブな作品として観ることも出来ます。その両面を楽しめる作品であると思うのですが、監督の狙いは、いかがだったのでしょうか?

その考え方は自分と近いですね。そう感じていただけて、そのように響いたことは嬉しいことです。

24歳の時に『ザ・ビーチ』という小説を書きましたが、ご存じのとおり、バックパッカーたちとそのシーンを批判的に書いたつもりでしたが、読者の中にはバックパッカーのシーンというものを、祝福するものと捉えた人たちもいたんです。

作品というものは、作り手の意図することと違う受け止め方をされるものであり、読み手にとっての意図とか考えは恣意的ものなんだなということを痛感しました。彼らのリアクションというのは、彼らの選択に委ねられるものであって、そこに私の選択の余地はないということなんですよね。

映画は難題を乗り越え完成させるもの。でも、苦労は見せない。

── そういうことなんですね。

同じものを見ても、それを美しく感じる人もいれば、そうではない人もいる。ものの見方には客観性というものがあって、その良い例は法律だと思うんです。なぜかというと、とにかくわかりやすく作られたはずの法律を判事や弁護士が客観的に解釈して判断するわけです。

だから、自分の作品も客観的に(観た人がそれぞれに)解釈して判断を出そうとするでしょうけれど、私自身の意図はあなたの考え方に近いんです。

── そう言っていただけて嬉しいです。ところでこれだけは伺いたかったんですが、この映画を拝見していると、天才的な発想と技術力が、作品を作るにあたっては苦労したことなんて、まったくないように感じさせます。何か大変だったようなことなんて、あったのでしょうか?

画像1: 映画は難題を乗り越え完成させるもの。でも、苦労は見せない。

とんでもないですよ。何事もなく上手く出来上がっているように素直に受けめてくれてすごくありがたいし、スタッフたちも喜ぶでしょう。

けれど、大変なことだらけでね(笑)。いろんな問題がありましたね。技術的な問題もあったんですが、例えばローリーは裸で寒い中ずっと演技しなくてはならなかったんですが、それに対するケアをどうするんだ、クライマックスで観客の気持ちを削がずに、最後までこちらの想いについて来てもらうにはどうしたらいいんだろう、そういうような工夫について大いに悩まされました。

出産のときのシーンだったら、正しい姿勢が撮れているのかとか、正しいカット、正しい音楽、正しい色彩、明るさ、そして出演者たちの反応はどうかとかなど無限に思えるほどの難題が次から次へと生れて来ました。

でも、最終的にはそれらがハーモニーを奏していればもう、それがゴールとなります。まあ、映画づくりというものは、苦労の連続なんですよ。

たくさんの難題を抱えて、それらを解決して作っていく仕事なのだと思います。そして、その苦労などを何事もなかったようなふりをする。それもまた映画づくりなんだと思いますね。

画像2: 映画は難題を乗り越え完成させるもの。でも、苦労は見せない。

(インタビューを終えて)

最後には、映画づくりという仕事について、気取らず、おごらず素晴らしい言葉を残して下さった、アレックス・ガーランド監督。

作家から、映画の製作者や脚本家を経て、映画監督として作品に取り組む姿勢は、たまらなく知的で芸術家そのものを感じさせる。

初期にホラー映画を作り、その後巨匠として名を成した映画監督は少なくない。ホラー映画はただ、観る者を恐がらせるものにとどまらず、教訓を孕んでいたり、観る側の感性で無限大に広がる世界に導いてもくれる。

だから、ホラー映画は見逃せない。アレックス・ガーランド監督が次に生み出す「恐怖」の美意識はどのようにして生まれるのか、これからの活躍も楽しみだ。

『MEN 同じ顔の男たち』

2022年12月9日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

画像: 『MEN 同じ顔の男たち』本予告<12月9日(金)公開> www.youtube.com

『MEN 同じ顔の男たち』本予告<12月9日(金)公開>

www.youtube.com

監督・脚本/アレックス・ガーランド
製作/アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ
音楽/ジェフ・バーロウ、ベン・ソールズベリー
出演/ジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エッシードゥ、ゲイル・ランキン、サラ・トゥーミィほか
原題/『MEN』
2022年/イギリス/100分/カラー/シネスコ/R15+/ 英語
提供/ハピネットファントム・スタジオ WOWOW
配給/ハピネットファントム・スタジオ

©️2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

公式Twitter: https://twitter.com/men_movie_jp

前回の連載はこちら

This article is a sponsored article by
''.