映画『ザ・ビーチ』(2020)の原作者であり、カズオ・イシグロの小説を映画化した『わたしを離さないで』(2010)では脚本を手がけるなど、多くの映画の製作、脚本に関わり、『エクス・マキナ』(2015)がアカデミー賞ほか多くの映画祭でも受賞するという、華々しい監督デビューを果たしたアレックス・ガーランド。本作『MEN 同じ顔の男たち』が最新作となる、ガーランド監督にお話を伺うことが出来た。

男女の関係が複雑になっている今の時代への寓話

前回の連載でご紹介した、人類滅亡となる地球デストピアを題材にした作品、『サイレント・ナイト』に次いで、今回の『MEN 同じ顔の男たち』も、大人のための「怖い」お伽噺的でファンタジックな英国の映画作品だ。

男と女の関係性が複雑になっている今の時代に、示唆を与えるような「寓話」であることでも共通していると思えた。本作は、第75回カンヌ国際映画祭「監督週間」部門で上映を果たしている。

また、『ヘレディタリー/継承』(2018)『ミッドサマー』(2019)などの製作や配給で、世界中のフィルムメーカーから注目を集める「A24」が、『エクス・マキナ』(2014)に次いで、再びガーランド監督とタッグを組んだ作品でもある。

画像: 男女の関係が複雑になっている今の時代への寓話

主人公ハーパーは、夫に離婚を言い渡すが、その後、夫は彼女の目の前で死を遂げる。まるで彼女に自責の念を植えつけるかのような死に方だった。彼女は、その出来事から逃れるかのように、自然が豊かな町へと向かう。

滞在した森に囲まれた瀟洒な館は、彼女の気持ちを癒すかの様な静かな休息の場にふさわしく思えた。しかし、次第に違和感を感じるようなことが起きていく。

館の管理人ジェフリーや、教会の神父、奇妙な子供、地元の警察官などの顔が「同じ顔」であることに気づくハーパー。そして、彼女にとって不穏な出来事が次々と迫りくる……。

アート感覚の美意識が溢れる、ホラーを越えた感覚

不気味で衝撃的な場面展開はあるものの、一つ一つのフレーミングを観ていると、美術館の絵を連続的に楽しんでいるような、アート感覚に惹きつけられる。アダムとイヴの「禁断」を想起させるような林檎の樹木、それと相反する「聖なる」ストイックな教会のイコンなどを象徴的に表現して印象的だ。

画像: アート感覚の美意識が溢れる、ホラーを越えた感覚

ビジュアルへのこだわりと技術で、観る者に新感覚の恐怖を体現させる、唯一無二の作品が誕生した。恐怖映画のお約束の一つ、「美しさ」が「怖さ」を盛り上げることを楽しめるのはもちろん、ホラー映画というような領域を越えて、一人の女性の心境を描き上げた女性映画としても、注目すべきだと思う。

徐々に追いつめられて、夢か現実かという世界を漂う主人公ハーパーを演じる女優ジェシー・バックリーの熱演と、同じ顔の男たちを演じ分ける男優ロリー・キニアの怪演が観どころでもある。

入り口がホラーというジャンル分けは悪くない

── 私はホラー映画が大好きなんですが、『MEN 同じ顔の男たち』は、今の時代の男と女に示唆を与える寓話のように思えました。2022年カンヌ国際映画祭(以降、カンヌ映画祭)の「監督週間」での上映を果たされたとのこと。素晴らしいです。

まず、伺いたかったのは、そのカンヌ映画祭で、1999年に審査委員長をされたデヴィッド・クローネンバーグ監督が、同年に監督した『イグジステンズ』は、ベルリン国際映画祭をはじめ、多くの映画祭で受賞し高い評価を得ました。

そして、(ガーランド監督の本作の上映があった)2022年のカンヌのコンペティション部門に、クローネンバーグ監督は『Crimes of the Future』を出品しています。それらのすぐれた映画も、ホラー作品と捉えられたりします。ガーランド監督は、今回の作品がホラー作品として受けとめられることについては嫌だったりしますか?

『MEN 同じ顔の男たち』を気に入っていただき、ありがとうございます。まず、私は自分の作品がホラーと捉えられることを嫌だとは思いません。全然気にしていないんです。

ホラー、スリラーというようにカテゴリー的に分けられ、そのイメージにラべリングされることは(映画を観ようという)、その扉を通る時のわかりやすい指針になるとも思うのです。

「どんな映画?」「ホラーだよ」というやり取りがあったとしたら、そこにラベルをつけることによって、その作品をわかりやすく伝えることが出来、便利なことになるのではないかと。その映画の手がかりになるわけです。

そして、その扉を開けて一歩入った後には、様々な道が開けてくるというようなことにもなりますね。例えば、『悪魔のいけにえ』(1973)や『エクソシスト』(1973)なども、そうですよね。ホラーという呼ばれ方は、映画を手短に説明する表現だと思えば、私には全然心配ではないのです。

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