※文中にネタバレになる箇所もありますので、ご注意ください。
その5:変わった伯父さんがいた?
映画の中でジャド・ハーシュが演じる変わり者のボリス伯父さんは、サミーに大きな影響を与えた人物として、出番は少ないが印象的に描かれている。このモデルになった親戚も実際にいるとスピルバーグはインタビューで語っている。「サーカスでライオンの調教などをして働いている親戚がいたんだ。大声で話し、その場を支配するような人だったから祖母や母は怖がっていた。かくいう私もね」としつつ、「私が16歳の時、彼が祖母の弔問でフェニックスに尋ねてきたとき、私のショービジネスに対する才能といったものは、彼から来たんだろうと合点がいったんだ」と明かしている。
その6:学校でのいじめ体験
一家が引っ越したカリフォルニアの学校でサミーはユダヤ系であることからいじめを受けるが、スピルバーグは「ユダヤであるかどうかという一面は遺伝子レベルのことでそれ以上のものではない」と語りつつ、「幼少期はアリゾナでいじめに遭い、カリフォルニアではもっとひどいことがあった。学校側はその責任を認めないけど」としつつも、この話はぜひ語りたかったとインタビューで認めている。
ちなみにスピルバーグは別のインタビューでは、自分には読字障害(難読症)があり、それによって子供時代にいじめを受けたことがあると発言したことも。学校に行くのが嫌で仕方なかったそうだが、やはり映画を作ることが彼を救ったのだとか。
その7:映画業界入りとある巨匠との出会い
スピルバーグのショービジネス界入りのエピソードとして有名なのは、ユニバーサルスタジオの観客用ツアーの途中で列を離れ、スタッフと知り合いになり、3日間の通行許可証をもらってスタジオに顔パスで入れるようになったというもの。やがてユニバーサルで空き室を見つけ自分のオフィスとして使用し、仕事をもらうようになったというのはその時代ならでは、といえるかも。映画ではサミーのショービズ界入りは違う描き方がされているが、サミーがスタジオで出会う超大物監督(演じているのは『ツイン・ピークス』などのデヴィッド・リンチ監督!)は、若き日のスピルバーグがテレビ・プロデューサーを訪ねたときに、めぐり会った伝説的人物と同じだ。その監督が誰なのかは映画館で確かめてほしいが、この巨匠からサミーは映画監督として大事なことを教えてもらう。その「大事なこと」も実際スピルバーグが受けた訓示と全く同じという。
その8:アカデミー賞とスピルバーグ
最後に『フェイブルマンズ』でまたまたアカデミー賞監督賞候補となったスピルバーグだが、以前は大ヒット・メーカーゆえ、同業者から嫌われて、候補となっても受賞はできないなどと言われたもの。しかし今回で9回目の候補で、うち2回『シンドラーのリスト』(1993)『プライベート・ライアン』(1998)で受賞している。もし今回受賞すれば3度目で監督賞としては歴代2位タイ(ウィリアム・ワイラー、フランク・キャプラと並ぶ)になるが、どうなるだろうか。ちなみに歴代1位(4回受賞)は若き日のスピルバーグに「映画監督として大事なこと」を教えてくれたあの巨匠だ。
フェイブルマンズ
2023年3月3日(金)公開
アメリカ/2022/2時間31分/東宝東和
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、セス・ローゲン、ガブリエル・ラベル、ジャド・ハーシュ
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