その完成度の高さと、改めてフランス映画の持つ輝きを見せつけてくれたのが、マルタン・ブルブロン監督。昨年のフランス映画祭横浜2022での来日の折に、インタビューが叶った。
「史実に基づき自由に作られた」映画とは?
── 映画監督としての愉しみという意味から言わせていただくと、ほかにも羨ましいなと感じたのが、冒頭のシーンでした。
「史実を基に自由に作った物語」というフレーズが記されていて印象的でした。ブルブラン監督は、壮大なエッフェル塔の史実をご自身が思うように描くことができる立場にあるわけで、映画づくりの醍醐味はそこにある。また、その言い回しが素敵で、観る者を期待で一杯にさせてくれる幕開けでした。
ありがとうございます。アドリエンヌという女性とエッフェルは恋に落ち、結婚まで考えたのですが、階級的なことでの周囲の反対もあり、叶わなかった。このことは史実どおりなんです。
諦めざるを得なかった彼は、母親にあてて手紙を書いています。親が望むような結婚をして、子供を持つことにふさわしい女性を選ぶことに承諾はしても、自分が本当に愛しているのはアドリエンヌなんだと。
ゆえに、彼は本当に愛する女性と結婚できなかったことのトラウマを抱えて生きていたのです。そして当初は、エッフェル塔の建設にも乗り気ではなかったんですね。ところが政府からの依頼を断って48時間後には、塔の建設をやる気になった。
── そうですよね。
そこで、私は、その理由はアドリエンヌとの再会であったというイマジネーションを働かせて、自由な物語を描いてもいます。
そのことで彼のモチベーションが上がり、仕事の原動力となる。彼女は友人の妻になっていたのですが。再び彼女と愛を確かめ合うことができた。そこで急激にエッフェル塔建設に賭けてみたくなり、私財を投げ打ってでも完成させるというほどに情熱を持って取り組みだします。
アーティストの創造に必要なのは、センチメンタルな気持ち
── 忘れかけていた愛する女性の存在が新たに身近なものになり、エッフェル塔は作られて行く。しかし、彼女とは結婚出来るわけではなく、そうしたらまた、仕事への熱も冷めていくのかと思いきや、執念をたぎらせるようになって建設に取り組むというのは、今度は逆境がバネになるということなんでしょうか?
そうですね。アーティストのクリエイションというものは、画家や、詩人、文学者にせよ、建築家もそうですが、彼らのエモーションというものにはセンチメンタルな気持ちが必要です。
それが、モチベーションとなる普遍的な「源」だと思うんです。つまり、これだけ偉大なモニュメントを作るエッフェルという偉大なアーティストの原動力になったのは、「愛」だったと。個人の野心を超えて、愛というものが偉大なエモーションの原動力になるということは、私自身が信じていることなのです。
── 完成したエッフェルは、愛のカタチなんですね。
そうですね。結末はここでは語れませんが、エッフェル塔は永遠の愛の形として完成する。ロマンチックでしょう?
── そうですね。ロマンチックです。エッフェル塔に込めた愛をみんなが見てくれるなんて羨ましい。最後には塔に託された秘密も明かされます。塔の、あのデザインと形についても理由があったということを、この映画は明かしてくれますよね。
そうです。最後は強烈です!
── ところで監督は、初期の頃はコメディ作品を作っていらして、今回のような大作に挑まれ、みごと完成させました。そして、次回作はさらに大作と言える二部作の『三銃士』も撮られた。その成功は、コメディを作っていたからこそ成し遂げられたのでしょうか?
まず言えることは、戦略的にジャンル分けしてキャリアを積んでいくという意識はないんです。ストーリーの面白さに惹かれてコメディも作りましたが、本作も脚本を読んで、興味を持ちました。
ジャンル先行というよりも、新しいジャンルに挑戦することに意味があると思うんです。『三銃士』の二部作もちょうど完成させるところですが、この作品もそういうチョイスで関わっています。
フランスは豊かな映画の国。壮大な映画も生み出していける
── そういうことなんですね。素晴らしいです。
それと、監督が影響を受けた映画監督としては、ポール・トーマス・アンダーソン監督や、マイケル・チミノ監督などとうかがっておりまして、外国の映画監督が多いのでしょうか?フランス国内で影響を受けた方はいらっしゃるんですか?
もちろんいます。ジャンルをまたいで作品をつくる映画監督としては、パトリス・ルコント監督ですね。彼はコメディも歴史ものも、現代劇も撮ってきましたね。あとは、国際的なキャリアを築いたと思えるのはジャン・ジャック・アノー監督やリュック・ベッソン監督ですね。
フランスは豊かな映画の国だと思いますし、優秀なテクニカル技術者が大勢いますので、壮大で大規模な映画も十分撮れると思っています。
── わかりました。『三銃士』も観ごたえがありそうです。いろいろとお話をうかがえ、ありがとうございました。
(インタビューを終えて)
フランクな人柄がしのばれる、ブルブロン監督のインタビューは、昨年開催されたフランス映画祭2022横浜で、本作の上映のために来日した折にお時間をいただけた。
お目にかかるなり、まずは映画祭上映後の観客の反応のことをたずねられた。また、日本人はまだマスクをしているね、というような質問を投げかけて、こちらの気持ちを和らげてくれた。
ついこちらも悪乗りで、筆者の運営する映画配給・製作会社のロゴマークがエッフェル塔であることを、名刺などをお渡ししながら披露させていただいてしまう。それについても興味を持っていただき、その場は盛り上がり、インタビューのウオーミング・アップは万全に。その後はウイットも交えたお答えも飛び出し、短い間であっても相互の関係性が実に円滑に運んだインタビューとなった。
そんな様子からも、ジャンルを超えて、幅広く映画づくりができる柔軟な才能の片鱗を感じさせた。
映画祭の上映の際のトーク・イベントの時も、監督は主演したロマン・デュリスと共に会場を湧かした。
偉大なモニュメントと、偉大な創設者のロマンに満ちた作品を完成させた二人もまた、偉大な監督と偉大な俳優として輝いていたことを、今思い起す。
いよいよ日本での劇場公開を前にして、反響が楽しみだ。
パリに行った人も行っていない人にも、良く知られているエッフェル塔について、新たな驚きと感動を呼びさますフランス映画になることだろう。
『エッフェル塔~創造者の愛~』
3月3日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
出演/ロマン・デュリス、エマ・マッキー、ピエール・ドゥラドンシャン、アレクサンドル・スタイガー、アルマンド・ブーランジェ、ブルーノ・ラファエリほか
監督/マルタン・ブルブロン
脚本/カロリーヌ・ボングラン
音楽/アレクサンドル・デプラ
撮影/マティアス・ブカール
編集/ヴァレリー・ドゥセーヌ
美術/ステファン・タイヤッソン
2021年/フランス・ドイツ・ベルギー/フランス語/108分/カラー/5.1ch/ドルビーデジタル/シネスコ/R15
原題/EIFFEL
字幕翻訳/橋本裕充
提供/木下グループ配給/キノフィルムズ
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