その完成度の高さと、改めてフランス映画の持つ輝きを見せつけてくれたのが、マルタン・ブルブロン監督。昨年のフランス映画祭横浜2022での来日の折に、インタビューが叶った。
ロマン・デュリスがエッフェル塔の創設者を熱演
『エッフェル塔~創造者の愛~』は、あのエッフェル塔に秘められた、創設者ギュスターヴ・エッフェルの情熱とロマンスを描き出した、秀逸で美しいフランス映画。
本作を観ることによって、あまりに有名な観光名所であるこの壮大なパリのモニュメントを、改めて愛おしく見上げたくなる気持ちを抱くことだろう。
この作品に取り組んで完成を果たした、マルタン・ブルブロン監督は、短編映画『Sale hasard』(2004)で監督デビュー。コメディ映画『Papa ou maman』(2015)が大ヒットとなり、アルプ・デュエズ国際コメディ映画祭で最優秀作品賞にあたる観客賞を受賞。
本作に次いで、アレクサンドル・デュマ原作の『三銃士』を、『Les trois mousquetaires: D'Artagnan(原題)』(2023 )『Les trois mousquetaires: Milady(原題)』(2023 )二部作にして監督し、注目を集めている。
1889年開催の「パリ万国博覧会」のシンボルとなる塔の設計に挑んだギュスターヴ・エッフェル。その創設者の名前を冠し、「鉄の貴婦人」とも言われ世界中で愛されるエッフェル塔。その建設と完成までの間に、エッフェルを見舞う困難は並大抵のものではなかった。
そもそも、当初は政府からの建設依頼には応じなかったエッフェル。しかし、数日後には人が変わったように着手することを決意、表明したという。
私財を投げ打ってまで、完成を目指すその原動力となったものはなんだったのか?
その謎に迫るストーリーが、ブルブロン監督の見せどころとなる。そこには、エッフェルが結婚を夢見たアドリエンヌという女性の存在があったというのだ。
エッフェル塔の建設と完成のために多くの困難と闘っただけでなく、生涯を通じて変わらない愛を抱くために、自分自身とも闘った男がエッフェルだった。彼を演じたロマン・デュリスと、そのエッフェルを魅了し続けたアドリエンヌという女を演じたエマ・マッキー、二人の渾身の競演が圧倒的だ。
壮大な建設に挑んだことと、同じモチベーションの映画づくり
── まず、この作品がフランス映画祭横浜2022のオープニングで上映されたことをお喜び申し上げることと同時に、日本プレミアム上映として拝見出来たことに感謝したい気持ちで一杯です。
ありがとうございます。劇場公開に先駆けて、映画祭にこの作品を持ってこれたことは、私にとっても喜びです。
── 本作が完璧すぎて、そのことで胸がいっぱいになり、もうインタビューする必要などないくらいだと思えるくらい、監督のお気持ちが映画から伝わりました。
とはいえ、まず、脳裏に浮かんだのは、この作品に描かれたエッフェル塔の創設者、ロマン・デユリスさん演じるところのギュスターヴ・エッフェルが、完成までに抱え、乗り越えた困難と、監督の映画完成までの困難が同じくらいなのではないかと感じましたが。
そうですね。エッフェル塔建設という壮大な物語を映画にするということは確かに大変なことです。いろいろな障害もありますし、それを完成させて上映できたことは、つくる前から考えると、もう奇跡であるといってもおかしくはないくらいです。そういう意味では、エッフェル塔建設と本作の制作は似ているかもしれませんね。
エッフェル塔原寸の30メートルのセットづくり
── 実写部分とCG部分、どちらの撮影や制作にご苦労がありましたか?
はい、両方のミックス加減が一番難しいんです。その混ぜ合わせた結果が、いかに信憑性を感じさせるか、リアリズムを持った映画にできあがるかが、一番難しいところです。
塔の建設中のシーンなども、100パーセントCGにはしたくなかったんです。
俳優が、実際に塔の建設の場で演技をするから、リアルなシーンが撮れるわけです。ですから、登場する人たちが建設部分に立っているようなシーンは実写で、それ以外の部分はCGでつくるという工夫をしました。
── なるほど。現在のエッフェル塔を使って、撮ったシーンはあるのでしょうか。
エッフェル塔のセットを作り、そこでの撮影です。建設中の場面として、そこで俳優に演技をしてもらいました。
── そうだったんですか。そこで演技をなさったんですね、デュリスさんも。
そうです。(スマホを開けてその画像を出して見せて下さる)
── これ原寸ですか!
はい。実物のエッフェル塔と原寸のものをつくりました。30メートルの高さまでの建設中の塔をセットで。
── そのセットは本格的ですね。まさにエッフェルが建設途中であったその場を再現したということになります。30メートルといったら高いですね。危険も伴いますよね。
はい。やはり、リアリティを出すためには、そこに立ってもらっての演技が必要ですからね。
── イヤー、それは凄い。デュリスさんの迫真の演技はそういう演出から生まれたんですね。
そして、そういう場での演技を俳優に求めることも、映画監督としての快楽だったりしますよね?(笑)。
はい、そうですね(笑)。まあ、東京タワーのてっぺんで演じてくれというわけではありませんしね(笑)。