「母と息子」の新たな出発の物語:キャストコメント
山田洋次監督最新作、映画『こんにちは、母さん』が9月1日(金)より全国公開される。山田監督にとって90本目となる記念すべき本作の主演に迎えたのは、共に映画界を牽引し続けてきた吉永小百合。共演には、数々の映画・ドラマに出演し、NHK大河ドラマでの公演も記憶に新しい大泉洋、『キネマの神様』に続き二度目の山田組参加となる永野芽郁ら豪華俳優陣が集結。東京の下町でいまこの令和を生きる、等身大の家族を描く。
『母べえ』『母と暮せば』に続く『母』3部作として、日本を代表する名女優・吉永小百合の集大成ともいえる本作。日本映画史に残る新たな名作が誕生した。中でも田中は『隠し剣鬼の爪』以来、約20 年ぶりとなる山田組への参加となることも明らかとなった。豪華な顔ぶれが一堂に会し、主演の吉永から一言ずつ挨拶した。
吉永(神崎福江/ かんざき・ふくえ役):皆さまお忙しいところお越しいただき、ありがとうございます。私の役は、足袋を作る職人の夫に先立たれ、一人で足袋屋を営む女性を演じました。息子も離れていて寂しい想いをしているけれど、近所の仲間たちと炊き出しのボランティアなどして、明るく懸命に生きようとしている役どころです。映画の中で恋もしています。よろしくお願いします。
大泉(神崎昭夫/ かんざき・あきお役):今回は小百合さんの息子という役どころということで、はじめにこの役が決まった際、“吉永小百合から大泉は生まれない”というコメントを出させていただきましたが(笑)、現場に入ると母親にしか思えない温かな小百合さんがいらっしゃいました。山田監督に細かく演出していただき、昭夫というキャラクターを演じられました。昭夫は会社と恋に落ちた母親、そして自由奔放な娘に放浪される困りっぱなしな男。軽やかに見事なバランスで描かれていますが、そんな映画を作れるのは山田監督だけだと思います。素晴らしい作品です。
永野(神崎舞/ かんざき・まい役) :舞はまだ大人になりきれていないからこそ、心に葛藤を抱えながら毎日を過ごしている女の子です。私自身、この役をどうしようかと迷いながら相談しながら、素晴らしいキャストの皆さんと作り上げることができたと思います。
寺尾(荻生直文/ おぎゅう・なおふみ役):山田監督に本作のお話を伺った際、牧師さんは難しいんじゃないかと。「懺悔をすることをいっぱい持っているような男にそんな役は…」と二の足を踏んでいたのですが、山田監督に引っ張っていただき、荻生役を演じられました。本日はよろしくお願いします。
宮藤(木部富幸/ きべ・とみゆき役):僕が演じた木部は、大泉さん演じる昭夫と大学の同級生。同じ会社に勤めているがリストラにされ、会社を辞めないと昭夫の実家に押しかけ暴れる…という、とんでもない役どころでした(笑)演じていて楽しかったですし、憧れの山田組に参加できて嬉しかったです、ぜひ見てください。
YOU(琴子・アンデション/ ことこ・アンデション役):まさかこのようなレジェンドな方々とご一緒できるなんてと、最初はびっくりしましたが、現場はとても和やかで皆さんお優しくて…。私は福江さん(吉永)と一緒にボランティア活動をする、琴子を演じました。本日はよろしくお願いいたします。
枝元(番場百惠/ ばんば゙・ももえ役):私が演じさせていただいたのは、福江さんのお家に足繁く通う近所のせんべい屋さんを営む百惠です。昭夫(大泉)とは小学生からの同級生で、琴子ちゃん(YOU)とも仲良しという役どころです。初めての大きな役をいただいて、ちょっとまだ夢のような想いです。
山田監督:原作となる永井さんの戯曲「こんにちは、母さん」を見たのは、20年くらい前のことです。当時、大変話題になりましたし、とても好きな作品だったので、なんとか映画にならないかと、永井さんとも何度もお会いしていました。映画にするにあたり、主役を誰にするか、キャスティングの問題でも悩みましたね。しばらくそのままになっていたのですが、小百合さんが演じるお母さんの作品を撮っていたので、小百合さんの年齢ならおばあちゃん役を演じられていてもおかしくないということに、ふと気がつきました。僕らの世代にしたら(吉永は)ミューズですから、おばあちゃん役を相談していいのかと悩んだ挙句、小百合さんに「おばあちゃん、なんて呼ばれる役をやっていただけますか」と相談したんです。そうしたら「もちろんですよ」とお返事をいただき、そこから撮ろうと本作が走り出しました。大泉さんをはじめ、これ以上言うことのない素晴らしいキャスティング・スタッフが揃い、安心して本作に挑むことができました。
大泉洋も“ボヤキ封印”で、「とにかく楽しかった」充実の撮影を回顧
『母べえ』『母と暮せば』に続き、『母』三部作の集大成とも言える本作。山田監督とは数々の映画でタッグを組んできた吉永だが、今回のオファーについて「監督から“おばあさん役と言うのはどうですか?”と聞かれて。その時は“もちろんです!”と即答してしまったのですが、“ちょっと早まったかな?”なんて思ってしまったり(笑)けれど、孫役の永野さんが本当に素敵で、一緒に演じられて幸せなひと時を過ごせました」とはにかんだ。
一方、本作が山田組初参加且つ、吉永とも今回が初共演となった大泉。久しぶりに再会した母・福江(吉永)の変化に戸惑う息子・昭夫という役どころを演じているが、撮影について「緊張しながら撮影に挑んだものの、振り返ってみると毎日がとにかく楽しい。“こんなに楽しい現場でいいのか?”と思うほどでしたね」と充実した様子。さらに吉永についても 「小百合さんと過ごした時間は素敵でした。映画で小百合さん演じる母は恋をなさるわけですが、そのお姿がとてもかわらしくて。なかなかうまくいかない切なさもあり、素晴らしかったですね」と初共演を振り返った。監督については「演出についても映画作りの話についても、たくさんお話ししてくださいましたね。全て自分の宝物になりました。全部録音しておきたかったくらい、愛おしい撮影でした」と噛み締めがら語った。
そんな大泉演じる昭夫の娘、舞に扮したのは、『キネマの神様』に続き二度目の山田組参加となった永野。「映画の撮影現場は、どこか殺伐とした瞬間はどこもあるものなのですが、山田組には全くなくて。とても穏やかな時間が流れていました。スタッフの皆さんも職人のような方々ばかりで、“良いシーンを撮るぞ”という気持ちが前面に出ていて、やっぱり山田組すごいなぁと感じました。監督も褒めていただけて嬉しかったです」と笑顔でコメント。吉永についても「いつも背中が温かくて可愛らしくて、いつか私もこんな女優さんになりたいなと思いました」と尊敬の眼差しを向けていた。
福江と仲良くする教会の牧師・荻生に扮したのは、寺尾。「山田監督は僕が映画の世界に入って初めて主演に抜擢してくださった監督。吉永さんも俳優になって間もない頃に、きょうだいの役を一度演じさせていただいたことがあって。それから20年近く経ちましたが、(吉永の)全くお変わりないお姿に驚きました。ナンバーワンの女優さんはすごいですね」と感慨深い様子で語った。
一方、監督や脚本家など様々なフィールドで活躍する宮藤は、昭夫の同僚・木部役として出演。「僕自身、監督として映画を撮る際すごく楽しいのではしゃいじゃうのですが、監督も現場でセリフ変えたり足したり、すごく楽しんでらっしゃるなと。撮り方を工夫されたり、悩んだりとかもされているのを間近で見て、“あ、自分も間違ってなかったんだな”と感じました」と語り、初めての山田組で影響を受ける部分も多かった様子。さらに「『トイレのドアを開けたら、人が入っていて怒られる』というシーンの撮影があったのですが、その間がうまく掴めなくて。すると監督から“コメディの基本だぞ”と怒られたのですが、その言葉が重すぎて…(笑)流石にやばい!と焦りました」と振り返り、会場の笑いを誘っていた。
そしてYOUと枝元は、舞台となる福江が営む足袋屋に出入りする人情味あふれる隣人という役どころで、吉永とも共演シーンが多かった間柄。YOUは「福江さん(吉永)たちと炊き出しに行く場面があるのですが、小百合さんが持っているカバンにチラシを入れて持っていくようなシーンだったんです。すると、チラシを折ってカバンを入れるという動作を小百合さんが繰り返し練習されていたのがとても可愛らしくて、何度も見ちゃいました」と語り、吉永の意外な一面に釘付けにされていた様子。さらに枝元は「今回小百合さんとご一緒して、なんとか少しお話ししたいなと思って。撮影準備の際に“小百合さんはどんなお煎餅が好きですか?”とよくわからない質問をしてしまったのですが、小百合さんは“パンが好きです”とお返事してくださって(笑)その会話が素敵すぎて宝物です。私とも気さくにお話ししてくださったので、一瞬で虜になりました」と微笑ましいエピソードを披露していた。
さらに会見では記者から登壇者へ質疑応答が行われた。まずは監督へ、「下町が舞台ということで、ロケーションでこだわったポイントは?」という質問が。監督は「舞台の隅田川は1945年の東京大空襲で焼け野原になったところ。昔の面影を求めて撮影しようとしても難しいところはあったが、もちろん下町に生きる人々の物語なので、やはり隅田川がポイントになるなと思いました。隅田川にいくつもの橋があって、いろんな事情を抱える人々が行き来する。どう印象的に隅田川をスクリーンに収められるか、心がけながら挑みました」と想いを明かした。
続いては吉永と大泉に対し、「親子役を演じるにあたり準備したことは?」という質問も。まずは「事前に準備するよいうよりは、初めての山田組だったので、できるだけまっさらな気持ちで、監督の演出に答えられるように挑もう、という気持ちでした」 と振り返る大泉。さらに印象的だったこととして、小百合さんから子供の頃の写真を貸してもらえないかと聞かれたことを挙げ、「正直恥ずかしかったんですが、当時の写真をかき集めて事務所からお渡しさせていただいて。僕との役を作ろうと思っていただいていることを知れたので、(吉永を)より母親のように感じられました」と回顧。
さらに「実はどういう写真をお渡ししているのか僕も認識していなかったのですが、劇中でその写真が使われていたんですね。僕の本当の親もびっくりするでしょうね。不思議な感覚でした」とまさかの事実も明かしす場面も。そんな出来事について吉永は「素晴らしいお写真がいくつかあって。特に大泉さんのお風呂上がりのお写真がとっても可愛くて、素敵でした」と笑顔を見せ、記者たちの笑いを誘いながらも「撮影の合間に二人でいていろんなお話をさせていただきました。こんなことまでお話して良いものなのかしらなんて思うほど、たくさん引き出していただいた気がします。楽しい時間を過ごせました」とにっこり。
一方大泉には、「大泉さんといえば“ボヤキ”ですが、今回も飛び出しましたか?」という爆弾質問も。「一切ぼやいておりません」と即答する大泉に、共演シーンの多かった宮藤が「ぼやいてましたけどね」とポツリ。「ぼやくわけないじゃないですか!宮藤さんの方がぼやいてましたよ」と予期せぬ暴露合戦も展開され、笑いで包まれる場面も。
最後に監督には、 「本作は90本目の作品ということで、凄いことだと思いますが、何か込められた想いはありますか?」 という質問。監督は 「正直、あまり考えないようにしておこうと思っています。それは、(撮影した作品の)数が多いことは、決して自慢できることではないと思っているからです。たくさん作っているのは事実ですが、威張れることではないし、いつも初心者のような気持ちで作ろうと思っていました」 と謙遜する様子で語っていた。
質疑応答後フォトセッションが実施が行われ、最後には大泉、吉永、監督が代表して一言ずつ挨拶。「こんなに素晴らしい映画に出演できたことを誇りに思います。先ほど監督とも“とても爽やかな映画だと思いました”とお話ししたら、“映画はそうじゃないといけない、軽やかでなくちゃいけない“とおっしゃっていました。何か大きな出来事が起こるわけではないけれど、それでもドラマチックで切なさもあって、面白くて…。大事なことが詰まった映画だと思います。こんなに満ち足りた気持ちになれる映画はないです」(大泉)、「初めて皆さんの前で本作について話すことができて、とても嬉しかったです。公開まで五ヶ月しかないので、宣伝活動を頑張ってたくさんの方にご覧いただけたら嬉しいです。ぜひ本作を応援してください」(吉永)、「2年くらい前から本作の準備をして、脚本を書いて、撮影をして。ようやく完成したわけですが、まだ公開まで五ヶ月もあるのかという想いです。どうか本作を一人でも多くの方に観ていただけたら。今日はありがとうございました」(監督)とそれぞれメッセージを送り、会見は締めくくられた。
【STORY】
大会社の人事部長として日々神経をすり減らし、家では妻との離婚問題、大学生になった娘(永野芽郁)との関係に頭を悩ませる神崎昭夫(大泉洋)は、久しぶりに母・福江(吉永小百合)が暮らす東京下町の実家を訪れる。しかし、迎えてくれた母の様子が、どうもおかしい…。割烹着を着ていたはずの母親が、艶やかなファッションに身を包み、イキイキと生活している。おまけに恋愛までしているようだ!久々の実家にも自分の居場所がなく、戸惑う昭夫だったが、お節介がすぎるほどに温かい下町の住民や、これまでとは違う“母”と新たに出会い、次第に見失っていたことに気付かされてゆく。
『こんにちは、母さん』9月1日(金)より全国公開
【監督】山田洋次
【脚本】山田洋次、朝原雄三
【原作】永井愛
【出演】吉永小百合、大泉洋、永野芽郁、寺尾聰、宮藤官九郎、田中泯、YOU、枝元萌
©2023「こんにちは、母さん」製作委員会