『アマンダと僕』(2018)で、ヴェネチア国際映画祭マジック・ランタン賞、東京国際映画祭で、グランプリ&最優秀脚本賞のダブル受賞に輝いた映画監督ミカエル・アース。
彼の最新作となる『午前4時にパリの夜は明ける』は、80年代に遡り、日々の暮らしの中で自分らしく生きることに懸命な“普通の人々”たちを描いて、その時代へのオマージュを捧げた。
静かで美しい映画がまた一つ誕生した。80年代への熱い想いを、アース監督にうかがってみた。

子供だった80年代に繋がってみたい

──そうだったんですね。そもそも、監督が80年代にこだわるきっかけとは、どんなことからだったのでしょう。監督の子供時代に、ご両親の姿を見ていて、今の時代になって思うところやこだわりが生れたのでしょうか。

フランスでは “人は祖国で形成される”、そして“人は子供時代に形成される”とよく言われます。私はそのとおりだと思います。すべては、子供時代からきていると。
80年代を再現したい、あの時代の感覚、印象、色彩、音色、そういったものを再現したいと思ったのが、この映画を作りたいと思ったきっかけです。とても抽象的に聞こえるかもしれないのですが、それが最初のきっかけでした。

──子供時代の記憶や想い出ですね。

ノスタルジックなものとしてはなく、また、80年代を理想化しているわけでもなく、その世界に再び飛び込んでみたいという想いがきっかけです。その時代に繋がってみたいという気持ちからでもあります。

──その80年代は、日本ではフランス映画がそれ以前に比べて沢山配給されて、良い作品を見ることが出来る時代でした。私事ですが、1987年に起業した配給会社でクロード・ソーテ監督『ギャルソン』(1983)を配給して大きな反響を得ました。

市井の人が主役の、何気ないフランスの人々の日々の営みが描かれ、そんな毎日にこそ、ドラマチックなものだという、そんな人生を映し出す映画が注目されていました。
とにかく、80年代は良いフランス作品が多数生み出された時代だと思います。監督は当時の作品についても思い入れがありますか。

『ギャルソン』を配給されたんですね? クロード・ソーテ監督は、僕にとってはエリック・ロメール監督に並んで好きな監督ですよ。二人とも、家族だったり友人だったり、ごく普通の人々の、どこにでもあるような日常を美しく描くことにおいて素晴らしい。
私は彼らと、どこか近いものを感じてもいます。私自身が、今と違う時代に生きているのかもしれません。自分で映画を作っていて、なかなか自分を客観的に見たりすることは出来ないんですがね。

80年代の光景を再現するための工夫

──そうでしたか。

映画の描き方のスタイルが違う二人ではありますが、素晴らしい作家たちだと思います。

──嬉しいご意見ですね。そして、話は本作のことに戻りますが、じっと目を凝らして見ていたんですが、80年代らしさを描こうとしたとき、街の風景や車とかにもその時代が描かれるわけで、私は今でもルノー・キャトルに乗っておりますが、当時は、そのルノー・キャトルやサンク、シトロエン2CVとかが街々に走っているわけですから、そのあたりへの気遣いとかには、ご苦労があったのではありませんか。

80年代の光景や風景を再現するとなると、出来るだけ忠実にしたいとは思いましたが、予算的なこともあり、パリであまり変化していないような場所を見つけて、撮影したりしました。また、厳密な再現というよりも、私にとっては80年代の印象や感覚を大事にしたかった。
そのためには、映像の形式を交えるような工夫を取り入れました。例えば16ミリで撮った映像や、過去のアーカイブ映像で素人が撮った映像などを混ぜ合わせることによって、時代性を印象づけたり感じさせたいと、試みました。

深夜ラジオが人と人を繋いだ時代

画像1: 深夜ラジオが人と人を繋いだ時代

──それと、深夜のラジオ放送のことが描かれています。エマニュエル・べアール演じるパーソナリティがいるラジオ局で、夫と別れて職探しをしていたゲンズブール演じるエリザベートが働くことになりますね。
今の時代のようにSNSなどない頃に、まさしくラジオ、特に深夜ラジオの存在は特別なものだったと思います。監督も子供時代に聴いていたのでしょうか。

そうですね。私自身は眠れない夜に、ウォークマンで音楽を聴いたり、深夜ラジオにも耳を傾けていました。そこでは人々の打ち明け話などが繰り広げられ、子供の自分にとっては印象深いものでした。そして、同じ時間にそれぞれの場所で、見知らぬ者同士が聴いているという深夜のラジオ放送が、小さなコミュニティを感じさせ、一体感を覚えるということがありましたね。
しかし、インターネットが出来ることによって情報も細分化されてしまって、その頃の深夜ラジオの良さは、今は無くなってしまったように思います。

──オリジナル曲に加えて、当時のヒットソングも交えて使われているんですよね。

おっしゃるとおりで、オリジナル曲はアントン・サンコという作曲家に依頼して、当時のシンセサイザーを駆使した曲を作ってもらいました。時代的に電子音楽を特徴的にしたものですね。それと当時のヒットソングも使っています。

──80年代は、私にとって一番働いたように思える時代ですので、とても嬉しい映画に感じられました。ありがとうございました。

画像2: 深夜ラジオが人と人を繋いだ時代

(インタビューを終えて)

エリック・ロメール監督はもとより、クロード・ソーテ監督の作品を愛するというミカエル・アース監督。自分はいつも、その時代に生きているのかもしれないという言葉が印象的だった。
過去の時代を懐かしむのではなく、その時代を今に繋ぐことが自らの映画づくりの流儀であることを教えてくれた。
この作品もまた、次世代の監督がオマージュしていくに違いないと、映画の未来も感じさせてくれたアース監督。幸せな気持ちにしていただいたインタビューであった。

画像: 《本予告》4月21日(金)公開『午前4時にパリの夜は明ける』 youtu.be

《本予告》4月21日(金)公開『午前4時にパリの夜は明ける』

youtu.be

『午前4時にパリの夜は明ける』
4月21日(金)より、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国順次公開

監督・脚本/ミカエル・アース
出演/シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、ノエ・アビタ、
メーガン・ノータム、エマニュエル・ベアールほか
原題/LES PASSAGERS DE LA NUIT
配給/ビターズ・エンド 
2022年/フランス/カラー/111分/R15/ビスタ
© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA  
Twitter/https://twitter.com/am4_paris
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