演じることを生業としている人たちが賞賛してくれたのがうれしい
──アメリカでの単館公開からスタートして、作品に感銘を受けた俳優たちが絶賛して、賞レースに躍り出ることになりました。監督としてはこのことをどう受け止めていますか。
おっしゃる通りで最初に公開されたときはロサンゼルスの映画館で1週間程度、1スクリーンのみ。他の都市でも上映されましたが、かなり限定的な公開でした。当然ながら、広告を打ち出し、宣伝展開するような予算がついていたわけではありませんでしたが、幸いにも批評家の受けがよく、「この作品は何か特別なものがある」という声が広がっていったのです。各地の映画祭、例えばロンドンの映画祭では作品賞やパフォーマンス賞をいただき、「どうやらこの作品は人々に訴えかける何かがあるようだ」と我々も認識し始めました。
ただ小作ですから、「すぐに忘れられるであろう」という諦念みたいなものはありました。ですから今回の展開はミラクル以外の何物でもありません。何よりもうれしかったのは、この作品は演じることを生業としている人たちが賞賛してくれ、サポートしてくれたということ。今の時代はソーシャルメディアがあるので、彼らの声があっという間に広がっていき、アンドレア・ライズボローがオスカーにノミネートされました。昨年は素晴らしい女優が揃った1年でしたから、その中でノミネートされたのは、本当に夢のような話です。この作品は我々が尊敬するような素晴らしい俳優たちの善意に支えられて、ここまできました。一連の展開を思い返すとこの上もなく光栄だと思っています。
──アンドレア・ライズボローをレスリーにキャスティングしたのはどうしてでしょうか。また現場での彼女はいかがでしたか。
脚本を読んだ段階でアンドレアしかいないと思いました。Netflixで配信された『BLOODLINE ブラッドライン』でアンドレアが出演したシーズンは僕も監督兼プロデューサーとして関わっていたので、彼女が細部にもこだわって、真に迫る演技ができることを知っていたのです。役者はそれがいちばん大事ですし、レスリー役を演じるには必要不可欠な要素でした。しかも、この作品には嫌な気持ちになるシーンがありますが、そんなシーンにも果敢に取り組んでくれると思ったのです。
現場ではディスカッションを重ねながら、撮り重ねていきましたが、音楽が掛かった瞬間、ステージで踊り出すダンサーのように、カメラが回り始めた途端、アンドレアは完全に自分を捨てて、役に没入していました。こんなに素晴らしいパートナーと組めてよかったと思っています。
──レスリーと息子のジェームズの関係性において、監督とお母様が投影している部分はありますか。
僕のことを投影している部分もありますが、自分と母親との関係は今回、一切投影していません。ではどういうところが投影されているのか。誰しもが愛している人から傷つけられたり、自分を愛してくれる人を傷つけたりした経験があります。母親に限定せず、これまで生きてきた中で愛し愛された際のそういう経験をレスリーと息子の関係性に投影しました。
──本作に込めた監督の思いをお聞かせください。
レスリーはいろんなところで道を踏み外して過ちを犯し、喪失や痛みが連続する人生を歩んできました。そういう人に対して、私たちは断罪してしまいがちです。しかし、レスリーは新たな愛を獲得し、再び人と繋がっていきます。そんな複雑な人生を2時間掛けて理解し、最後に一瞬の喜びを分かち合い、彼女に共感していただければと思います。
<PROFILE>
監督:マイケル・モリス
1974年、英ロンドン出身。Netflix「ベター・コール・ソール」の最終シーズンで製作総指揮/監督を務め、「13の理由」、「ハウス オブ カード 野望の階段」などの重厚で良質なドラマで数多くのエピソードを手掛ける。本作が長編映画デビューとなる。
『To Leslie トゥ・レスリー』2023年6月23日(金)全国公開
<STORY>
テキサス州西部のシングルマザー、レスリー(アンドレア・ライズボロー)は、宝くじに高額当選するが数年後には酒に使い果たしてしまい、失意のどん底に陥る。6年後、行き場を失ったレスリーは、かつての友人ナンシー(アリソン・ジャネイ)とダッチ(スティーヴン・ルート)のもとへ向かうが、やはり酒に溺れ呆れられてしまう。そんな中、スウィーニー(マーク・マロン)という孤独なモーテル従業員との出会いをきっかけに、後悔だらけの過去を見つめ直し、母親に失望した息子(オーウェン・ティ―グ)のためにも、人生を立て直すセカンドチャンスに手を伸ばしはじめる。
<STAFF&CAST>
監督:マイケル・モリス
出演:アンドレア・ライズボロー、マーク・マロン、オーウェン・ティーグ、アリソン・ジャネイ
2022/英語/119分/シネスコ/カラー/5.1ch/原題:To Leslie/日本語字幕:松浦美奈
配給:KADOKAWA
© 2022 To Leslie Productions, Inc. All rights reserved
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/to-leslie/