映画界に次々と新風を巻き起こしている「A24」。夏に劇場公開される3作品はいずれも気鋭の監督によるもの。エモーショナルでHOTな作品を生み出した監督たちの頭の中をのぞいてみましょう!(文(ルーカス・ドン監督インタビュー)・ほりきみき/デジタル編集・スクリーン編集部)

世界中が涙した、大親友の少年2人による青春ドラマ
『CLOSE/クロース』

画像: 世界中が涙した、大親友の少年2人による青春ドラマ 『CLOSE/クロース』

トランスジェンダーの少女がバレリーナを目指す長編デビュー作『Girl/ガール』(2018)で脚光を浴びたルーカス・ドン監督による長編2作目。監督自身の経験を基に、13歳の少年の身に起こる悲劇と再生を繊細に描く。

「観客が最も泣いた映画」「涙なしでは見られない傑作」と大絶賛を受け、第75回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞、第95回アカデミー賞国際長編映画賞ノミネートをはじめ、各国の映画祭を賑わせた。主人公のレオと幼なじみのレミを演じたエデン・ダンブリンとグスタフ・ドゥ・ワエルは本作で映画デビュー。

幼なじみのレオ(ダンブリン)とレミ(ドゥ・ワエル)は24時間365日一緒に過ごす大親友。同じ中学校に進んだ2人だが、あまりの親密さに周囲に「付き合ってるの?」と、からかわれてしまう。周囲の目を気にするレオは徐々にレミと距離を置くように。一方のレミは親友の態度の変化を理解できずにいた。心の距離が離れたままま日々が過ぎる中、レミとの突然の別れが訪れる。

チェック1:レオ&レミを演じた 二人の俳優

繊細な演技で世界中から賛辞を受けた、レオ役のエデン・ダンブリンとレミ役のグスタフ・ドゥ・ワエル。エデンはドン監督が街中で見かけ、オーディションに誘ったという。

画像1: 今夏の「A24」はHOTな気鋭監督の作品が目白押し!

レオ(エデン・ダンブリン)
花き農家の息子。レミとは兄弟のように育つ。

画像2: 今夏の「A24」はHOTな気鋭監督の作品が目白押し!

レミ(グスタフ・ドゥ・ワエル)
レオの幼なじみで大親友。音楽の才能がある。

監督 ルーカス・ドンからコメント

エデンとグスタフにはケミストリーを感じました。ペアワークのオーディションをした際、才能を感じるペアは他にもいましたが、彼らはそれに勝る何か特別なものを持っているように思いました。

しかも、「世界でいちばん好きな人」という質問にお互いの名前を書いたのです。そうすれば印象が残ると考えたのでしょう。その聡明さに驚きました。

私は、台詞を一語一句間違えずに言うよりも、感じたままに演じることが大事だと考えています。脚本を読むのは1度だけ。物語の流れを知ったところで「なぜそこでレオはレミを待たないんだろう?」と尋ねたりして、役を自分の中に落とし込んでもらいました。

チェック2:自身の経験に基づく ストーリー

本作の企画内容を検討中、生まれ育ったベルギーの村を訪れ、学生時代の辛い日々を思い出したというドン監督。レオとレミのキャラクターには自身が投影されており、生きづらさからくるメッセージが込められているという。

監督 ルーカス・ドンからコメント

2人の少年が一緒にベッドに横たわっているのを見て、「彼らはゲイなのか」と思う方もいるかもしれません。しかし、彼らのセクシュアリティについて描いているのではなく、2人の親密さを周りの人がどう見ているのか、それをコード化してレッテルを貼ることで分かった気になる人が、いかに多いかを描いています。

観客がどう受け止めるかは自由です。ただ、レッテルを貼られて苦しむ人をたくさん見てきました。この映画を見て、そのことに気づいてほしいと思っています。

監督 ルーカス・ドン

画像1: Photo by Getty Images
Photo by Getty Images

1991年、ベルギー生まれ。KASKスクールオブアーツ在学中に制作したショートフィルム、2014年制作の短編『L’INFIN I』が高い評価を受ける。長編デビュー作『Girl/ガール』は第71回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)ほか数々の映画賞を受賞した。

インスピレーションを受けた作品は「Deep Secrets」/著書:ニオベ・ウェイ

心理学者である著者が、13~18歳の少年100人を対象とした調査結果をまとめた本。13歳の頃は男友達を「世界で一番心を許せる大好きな存在」として語っていた少年たちが、年月を重ねるにつれて男友達との親密な関係に悩む姿が記録されているという。

中でも監督は「親密な友情(close friendship)」という言葉に着目。この深い親密さが映画の悲劇的な出来事のきっかけになるとし、作品名にも取り入れている。

>>『CLOSE/クロース』関連記事はこちら

『CLOSE/クロース』
2023年7月14日(金)公開
ベルギー=オランダ=フランス/2022/1時間44分/配給:クロックワークス/STAR CHANNEL MOVIES
監督:ルーカス・ドン
出演:エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワエル、エミリー・ドゥケンヌ

© Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022

YouTube発の"おしゃべりな貝"が世界を席巻!
『マルセル 靴をはいた小さな貝』

画像: YouTube発の"おしゃべりな貝"が世界を席巻! 『マルセル 靴をはいた小さな貝』

2010年から14年にYouTubeで公開され、約5000万回再生を記録した短編シリーズを7年かけて長編映画化。“靴を履いた、おしゃべりな貝”マルセルの日常を、実写とストップモーションの融合で描く。全米公開前から話題となり、第95回アカデミー賞や第80回ゴールデングローブ賞ほか全世界34の映画祭で累計55部門の受賞とノミネートを果たした。

短編に続き、ディーン・フライシャー・キャンプが監督と脚本を担当。映像作家ディーンとして本編にも登場する。マルセルの声は短編同様に俳優ジェニー・スレイトが務め、脚本も共同執筆している。キャンプは本作の高評価を受け、『リロ&スティッチ』実写リメイク版の監督に抜擢された。

チェック1:マルセル誕生の裏話

画像3: 今夏の「A24」はHOTな気鋭監督の作品が目白押し!

マルセル(声:ジェニー・スレイト)
体長2.5cmの感情表現が豊かな貝。移動手段はテニスボール。

画像4: 今夏の「A24」はHOTな気鋭監督の作品が目白押し!

コニー(声:イザベラ・ロッセリーニ)
聡明で活発なマルセルの祖母。家庭菜園をしている。

キャンプが企画・監督・制作・編集を務めた短編『Marcel the Shell with Shoes On』の制作期間は、わずか2日足らず。当時夫婦だったジェニー・スレイトが作り出した声を基に、二人で脚本を書いたという。

監督 ディーン・フライシャー・キャンプからコメント

当時は数十人の観客の前で上映するつもりでした。YouTubeにアップしたのは、知人から祖母に見せたいと頼まれたことがきっかけです。

ジェニーと僕が彼を創作した時、僕たちは自分をちっぽけで、声が届かず、注目されない存在だと感じて苦しんでいました。人生のそういった時期にあった僕たちにしかマルセルを生み出すことができなかったのは確かだと思います。

理想とする自分になれない僕たちが代わりに作ったマルセルは、何百万人という多くの人々に愛されています。その理由は至ってシンプル。彼が自分のことを愛しているからです。

チェック2:短編シリーズから長編映画へ

短編の成功は、監督の人生で最も感動的な体験だったそう。それゆえ映画化の話が来た時は乗り気ではなく、マルセルの世界を新たに展開することに責任を感じたという。そして7年の歳月をかけて映画を完成させた。

監督 ディーン・フライシャー・キャンプからコメント

僕らがよく冗談で言うように、この作品は映画を3度作った(3度とはオーディオ、実写部分、アニメーションを指す)と言えるほど大変なプロセスがありましたが、僕はCGではなくストップモーションの手法を選びました。

手作業での制作は必ずしも正確ではなく、ほころびがあり間違いも多いけれど、それこそが人間であることの意味を物語っています。そのような不完全さの中に、僕はこの映画のテーマのようなものを見出しています。

監督 ディーン・フライシャー・キャンプ

画像2: Photo by Getty Images
Photo by Getty Images

1982年、アメリカ合衆国生まれ。短編『Marcel the Shell With Shoes On』(2010~)が口コミで評判を呼び、Filmmaker誌「インディペンデント映画の新しい顔25人」に選出。作家やアーティストとしても活動、テレビ番組やCMなども手掛ける。

インスピレーションを受けた作品は『快適な生活』(1989)/監督:ニック・パーク

マルセルを映画化するにあたり、既存のアニメーション作品にはなかった本物らしさと親近感を目指したという監督。その答えを美術の授業で見た短編アニメに見出したそう。

「動物園の檻の中にいるライオンが住まいについて不満を言う漫画的で滑稽なシーンも、ドキュメンタリー的表現に基づいているので、驚くほどリアリズムを帯びており、風刺作品としてもノンフィクション作品としても機能しています」と語っている。

>>『マルセル 靴をはいた小さな貝』関連記事はこちら

『マルセル 靴をはいた小さな貝』
2023年6月30日(金)公開
アメリカ/2021年/1時間30分/配給:アスミック・エース
監督:ディーン・フライシャー・キャンプ
声:ジェニー・スレイト、イザベラ・ロッセリーニ

© 2021 Marcel the Movie LLC. All rights reserved.

過酷な環境でアイデンティティを貫いた、ある青年の物語
『インスペクション ここで生きる』

画像: 過酷な環境でアイデンティティを貫いた、ある青年の物語 『インスペクション ここで生きる』

海兵隊在職中に映像記録担当としてキャリアをスタートさせたエレガンス・ブラットンの長編デビュー作は、自身の体験に基づくヒューマンドラマ。ゲイであることを理由に母に捨てられホームレスとなった青年フレンチは、生きるために志願して海兵隊に入隊するも、そこで過酷なしごきと激しい差別に遭う。

逆境に立ち向かうフレンチを演じるのは、Netflixのドラマシリーズ「ハリウッド」(2020)で注目を浴びたジェレミー・ポープ。今年のメットガラでの着こなしも記憶に新しく、ジャン=ミシェル・バスキアに扮した舞台「ザ・コラボレーション」の映画化も決定している。

チェック:自身の半生を映画化した理由

クィアかつ黒人であることから、社会からのけ者にされていると感じていたという監督。劇中で描かれる主人公が感じる欲望や恐れ、最終的な目標などは全て実話に忠実だという。

監督 エレガンス・ブラットンからコメント

私の物語を映画として共有できることはとても幸運です。似たような苦労を経験している人は、主人公が自分の話をするのを見ることで、慰めとインスピレーションを得ることができると思います。私が持っている最強の武器は、このストーリーを語り、私の真実を体験してもらえることです。

監督 エレガンス・ブラットン

画像3: Photo by Getty Images
Photo by Getty Images

1979年、アメリカ合衆国生まれ。ホームレス生活を経て米海兵隊に入隊。海兵隊在籍中に映像記録係として映画制作を開始した。マンハッタンの黒人クィアの人々を映すドキュメンタリー映画『PIER KIDS』(2019)が多数の映画賞を獲得。

インスピレーションを受けた作品は『フルメタル・ジャケット』(1987年)/監督:スタンリー・キューブリック 『ジャーヘッド』(2005年)/監督:サム・メンデス

海兵隊の基礎訓練キャンプでのシーンは、この2作品を意識したそう。

「どちらかといえば正式で幾何学的スタイルとの、ある種ハイブリッドであることを意図しています。ちなみに行き詰まったときは、クレール・ドゥニ監督、ペドロ・アルモドヴァル監督、チャールズ・バーネット監督、ロジャー・ディーキンス撮影監督なら、どうするだろうと自問していました」

>>『インスペクション ここで生きる』関連記事はこちら

『インスペクション ここで生きる』
2023年8月4日(金)公開
アメリカ/2022/1時間35分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督:エレガンス・ブラットン
出演:ジェレミー・ポープ、ガブリエル・ユニオン、ラウル・カスティーヨ

©2022 Oorah Productions LLC.All Rights Reserved.

This article is a sponsored article by
''.