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どんな役でもアグレッシブな魅力を放ち続けるオスカー俳優
新作『ヴァチカンのエクソシスト』で、悪魔祓いの専門家である実在の神父を演じたラッセル・クロウ。短気で怒りっぽい、そんな性格がゴシップからしばし伝わってくる彼が、聖職者を演じるのは意外な気もするが、役者として未知の役にチャレンジしていく姿勢は、“らしい”というべきだろう。実際、クロウは多彩なキャラクターに挑み、演技の幅を広げてきた。そんな彼のキャリアを、ここに振り返ってみよう。
1964年生まれの59歳。出身はニュージーランドで、4歳のときにオーストラリアに移住。両親が映画やTVの撮影現場専門のケータリング業を営んでいたことが、クロウを映画界に近づけたのは想像に難くない。実際、子どもの頃には小さな役でTVドラマに出演している。
彼のパフォーマーへの興味はティーンになって音楽へと移行し、二十歳前にはニュージーランドでミュージシャンとしてレコードを発表したが、チャートインには至らになかった。その後、21歳でオーストラリアに戻り、本格的に俳優の道を目指すようになる。
1990年に『ザ・クロッシング』で映画初主演。この恋愛ドラマで、クロウはオーストラリア映画協会賞の主演男優賞にノミネートされ、同国で注目され始める。そんな彼にハリウッドが目を向けたのは、サム・ライミ監督の西部劇『クイック&デッド』(1995)への出演から。
アメリカでは無名の存在だったが、凄腕のガンマンという過去を封印した牧師にふんして、シャロン・ストーンやジーン・ハックマン、レオナルド・ディカプリオに堂々と渡り合った。以後、アメリカ映画への出演が増え、とりわけ刑事を演じてハードボイルドな雰囲気を醸し出した『L.A.コンフィデンシャル』(1997)は高い評価を得た。
勢いに乗ったクロウは『インサイダー』(1999)で、これまでのタフガイのイメージを覆し、たばこ業界の内部告発者の苦悩を体現してアカデミー主演男優賞にノミネート。翌年の『グラディエーター』(2000)では、古代ローマの剣闘士を熱演して、みごとに同賞の受賞を果たした。
さらに実在の天才数学者にふんして精神的な葛藤を体現した2001年の『ビューティフル・マインド』でも同賞の候補となり、3年連続ノミネートを達成。名実ともに、クロウはハリウッドの頂点に立った。
この後もクロウは全米の賞レースに参入するような重厚な作品に相次いで出演。ピーター・ウィアー監督の『マスター・アンド・コマンダー』(2003)、『ビューティフル・マインド』のロン・ハワード監督と再度組んだ『シンデレラマン』(2005)と、鬼才たちとのタッグが続く。
とりわけ、『グラディエーター』で組んだリドリー・スコット監督とのタッグは長きにわたり、『プロヴァンスの贈りもの』(2006)、『アメリカン・ギャングスター』(2007)、『ワールド・オブ・ライズ』(2008)、『ロビン・フッド』(2010)と、力作が次々と放たれた。
2010年代に入ると、『レ・ミゼラブル』のような賞レースを賑わす作品の一方で、多種エンタメ作品への出演も目立ち始める。ラッパー、RZAが監督を務めたカンフーアクション『アイアン・フィスト』(2012)や、オフビートなサスペンスコメディ『ナイスガイズ!』(2016)などの個性的な娯楽作での妙演が光った。
アメコミ大作『マン・オブ・スティール』(2013)や『ソー:ラブ&サンダー』(2022)では、出番はわずかながら、重厚な存在感で印象を残す。また、『プロークンシティ』(2013)での汚職政治家や、『アオラレ』(2020)での煽り運転のドライバーなどの悪人役にも挑んだ。
今後もドローンパイロットにふんする戦闘アクション『ランド・オブ・バッド』や、マーベル原作の『クレイヴン・ザ・ハンター』などの新作が控えており、さまざまな顔を見せてくれそうなクロウ。俳優として、ますます広がる幅に注目したい。
『ヴァチカンのエクソシスト』
実在したヴァチカンのチーフ・エクソシストが対峙した最強の悪魔との壮絶な戦いを描く
ローマ教皇に仕え、2016年に世を去った実在の悪魔祓い師ガブリエーレ・アルモルト神父の回顧録に基づくホラー。
1987年、アルモルトは教皇からの要請で、スペインにある修復中の修道院に向かう。そこに移住していた米国人一家の幼い息子ヘンリーが、何かに憑依されたように自傷や暴言を繰り返すようになったのだ。
少年とその家族を救うため、アルモルトは修道院の歴史を調べ、やがてヘンリーに取り憑いた邪悪な魔物と対峙する。型破りで頼もしいアルモルト神父像を作り出したクロウの熱演が光る。