ルイス・チョンは体つきや目つきで感情を伝える
──ザクを演じたルイス・チョンはコメディタッチの役どころが多い方ですが、今回はどのように役どころを作っていきましたか。
「ザクは感情を出さない中年のキャラクターです。いかにそこに近づけるか。そこで、抑えめに演じて、生活感を出すように心掛けてもらいました。コロナ禍だったのでマスクをつけて撮影することが多く、ルイスはセリフではなく、体つきや目つきで感情を伝えなくてはなりませんでした。それがいいか悪いかというとなかなか難しいところですが、観客がより集中して見てくれたのはよかったと思います」
──キャンディと娘のジューの衣装がコロナ禍で閉塞した街並みと相反して明るくポップな感じでした。彼女たちの衣装には何か意図がありますか。
「アンジェラが『キャンディなら、いつもこんな服を着ているだろう』と考えて、オーディションにピンク系の洋服を着て来たのです。その衣装がとても印象に残り、美術担当のウミ・ンガイとキャラクターを作っていくにあたって、可愛らしい色を取り入れることにしました。ただ、現実も反映しなければなりません。蛍光色でなかなか売れないような安い服を卸売市場で買って、着ています。
キャンディとジューは生命力の象徴です。社会的にはどんなに困難な状況でも自分の世界で生きているという表現をしたかったので、部屋の中もカラフルな安いグッズで飾るなど、衣装以外にもさまざまな可愛らしいものを取り入れました」
──幼いジューでさえも移民という言葉を口にしていました。コロナ禍で移民を希望する人は増えたのでしょうか。監督は2022年よりイギリス・ロンドンを拠点に活動されていますが、香港を出る人、残る人それぞれの思いについて、監督のお気持ちをお聞かせください。
「香港はかなり厳しい状況です。社会全体がどこに向かっているのか、ここで生きていくにはどうしたらいいのか。誰にもわからないという雰囲気に包まれていると感じていました。しかし、人として、より良い生活がしたいというのは本能です。僕には子どもがいますが、今の香港は子どもが暮らすには良いところだと思えなかったので、ロンドンに移住する決断をしました。
ただ、移民という決断もなかなか難しい。家族とどう繋がっていくのか、仕事はどうするのか。いろんな問題がある。それは僕だけでなく、すべての人に言えます。また、残ると決めた人たちも生きていくための方法や手段は見つけられると思います」
──今後の映画制作についてはどのようにお考えでしょうか。
「ロンドンに移住して1年くらいになりました。香港人の知り合いが増え、彼らから面白い話を聞くことがあります。映画になるようなものがあるかもしれません。舞台は香港にこだわらず、イギリスでもいいし、他の国でもいい。とにかくこれからも香港人の作品を撮っていきたいと思っています」
<PROFILE>
ラム・サム(林森 LAM Sum)/監督
1985年生まれ。香港演芸学院電影電視学院演出学科卒業。短編映画やドキュメンタリー映画の制作のほか、映画制作の講師としても活動。代表作に短編『oasis』(12)、共同監督作『少年たちの時代革命』(21/日本公開 22年)など。本作が初の単独長編監督作。2022年よりイギリス・ロンドンを拠点に活動する。
『星くずの片隅で』7月14日(金)より全国公開
<STORY>
2020年、コロナ禍で静まり返った香港。「ピーターパンクリーニング」の経営者ザク(ルイス・チョン)は、車の修理代や品薄の洗剤に頭を悩ませながら、消毒作業に追われる日々を送っている。リウマチを患う母(パトラ・アウ)は、憎まれ口をたたきながらも、たまに看病にくるザクのことを心配している。
ある日、ザクの元にド派手な服装の若いシングルマザーのキャンディ(アンジェラ・ユン)が職を求めてやってくる。まともな仕事をしたことがなさそうなキャンディだったが、娘ジュー(トン・オンナー)のために慣れない清掃の仕事を頑張りはじめる。しかしキャンディがジューのために子供用のマスクを客の家から盗んでしまい、ザクは大事な顧客を失ってしまう。
幼い娘を抱え、まともな暮らしもできずにいるキャンディをみて、ザクはもう一度だけチャンスを与える。心を入れ替え仕事に打ち込んでいくキャンディに、心惹かれていくザク。そんな中、ザクの母が急死してしまう。葬儀に向かうザクを送り出し、ひとりでの仕事に張り切るキャンディ。しかしジューがうっかりこぼしてしまった洗剤をきっかけに、追い詰められたキャンディはちょっとした嘘を重ねていってしまう。それがザクと会社を窮地に追いやることになり…。
<CAST&STAFF>
監督:ラム・サム(林森)
プロデューサー:マニー・マン (文佩卿)
脚本:フィアン・チョン (鍾柱鋒)
撮影:メテオ・チョン (流星)
美術:ウミ・ンガイ(魏鳳美)
編集:エミリー・リョン (梁汶姍)
音楽:ウォン・ヒンヤン(黃衍仁)
出演: ルイス・チョン(張繼聰)、アンジェラ・ユン(袁澧林)、パトラ・アウ(區嘉雯)、トン・オンナー(董安娜)
配給:cinema drifters・大福・ポレポレ東中野
原題:窄路微塵 英題:The Narrow Road
2022|香港|カラー|DCP|5.1ch|115分© mm2 Studios Hong Kong|日本語字幕:最上麻衣子
公式サイト:https://hoshi-kata.com
2023年7月14日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、ポレポレ東中野ほか全国ロードショー