どんな辛い状況でもお互いに助け合うことが大事
──本作は台湾アカデミー賞3部門、香港電影評論学会大奨6部門、そして香港アカデミー賞10部門ノミネートの快挙を遂げました。香港での公開時から手ごたえはありましたか。
「正直、ここまで評価していただけるとは思ってもいませんでした。海外の映画祭に出せたことにも驚いています。
2018年から脚本構想を始め、2021年8月に撮影し、2022年の初め頃に完成しました。コロナ禍ですることがなく、映画の撮影や編集に専念できたものの、香港の映画館は全て閉鎖状態。いつ上映できるのか、わからない状況でしたから、2022年12月に公開されるまで、大分、不安な時間を過ごしました」
──物語の着想のきっかけを教えてください。
「脚本家のフィアン・チョンと打ち合わせしている頃、清掃員が賃金や労働時間の改善を求めてデモを行ったのです。それをみて、清掃員の仕事はなくてはならない仕事だと感じ、清掃員たちの物語を書いてみたいと思ったのです。
脚本を書き始めたときはザクとキャンディのラブストーリーにするつもりでした。そこで、キャストの2人に『このキャラクターは結ばれると思いますか』と聞いてみたのです。するとザク役のルイスには『主人公の2人が結ばれたらいいんじゃないか』と言われましたが、キャンディ役のアン
ジェラには『年齢差があるし、そもそもシングルマザーなので生活の問題があり、恋愛をする余力はない』と言われて、アンジェラの感想を脚本に反映しました。そんなわけで、この作品は恋愛映画ではなく、血の繋がりはなくても互いにわかり合って、助け合うといったところにフォーカスした作品になりました」
──ザクはキャンディのいい加減な仕事ぶりによって辛い状況に追い込まれますが、どんな時でも誠実であり続けます。どのような思いを込めてザクという人物を描いたのでしょうか。
「観客のみなさんに考えてほしいのが、自分がザクになれるかどうかということ。必ずしもザクになれとはいいませんが、お互いに助け合える人が周りにいるのかを考えてほしい。
戦争や災害など、世界全体でさまざまなことが起こっています。そんな中、自己中心的に生きていて、生き残れるのでしょうか。どんな辛い状況でもいい人になるというのは自分の選択です。お互いに助け合うことが大事なのではないのか。これを表現したいと思った先にザクが存在しています」
──ザクはシングルマザーのキャンディを最後まで助けようとしますが、もしかしてザクの母親もシングルマザーという設定なのでしょうか。
「おっしゃる通り、ザクはシングルマザーの家庭に育ちました。コロナ禍をどのように対処していくかというストーリーを作り上げていくために、キャンディにシングルマザーという背景を持たせましたが、ザクにはキャンディと似た背景を作りたかったのです。
ザクの母親に対する感情は私の父に対する感情を反映させています。私はコロナ禍に父を喪いました。ザクが突然の別れにショックを受けているのは、私の姿でもあります」