スティーヴン・ケイプル・Jr.(監督)
プロフィール
1988年、オハイオ州・クリーブランド生まれ。映画とテレビ両方で活躍を続け、複数の監督賞を受賞。
長編映画デビュー作は2016年にサンダンス映画祭でプレミア上映された『The Land(原題)』。世界興収2億ドル超の大ヒットを記録した『クリード 炎の宿敵』(2018)で世界的に名を知らしめた。
今後の監督予定作にはライオンズゲートの『Thievesʼ Gambit(原題)』などがある。
“愛の大きさが 今回の監督につながったと信じています”
─そもそも「トランスフォーマー」の大ファンだったそうですね。自ら監督したいと売り込んだのでしょうか。
前もって売り込んだわけではありません。最初に打診されたのが、「トランスフォーマー」の新章ではなく「バンブルビー」の続編でした。個人的に続編映画には気が乗らなかったので断ろうと思っていたところ、コロナ禍に入ってすべてがストップしたのです。
そしてようやく上がってきた脚本は続編ではなく、まったく新しいストーリーでした。それならぜひ自分で撮ってみたいと思い、スタジオ側と面談した際に、その脚本をベースに自分なりのアイデアをプレゼンしました。
僕は「ビーストウォーズ」の大ファンで、「トランスフォーマー」のアニメや実写もすべて観て、その世界を知り尽くしている自負がありましたから、愛の大きさが今回の監督につながったと信じています。
─このシリーズは毎回、トランスフォームの映像が見どころになります。今回あなたがこだわった点はどこでしょう。
「トランスフォーマー」にはつねに複数のオートボットが登場するうえ、今回はマクシマルも加わります。とにかくキャラクターの数が多いので、一目見て「これは誰だっけ?」と思わせないことが重要でした。
しかもアクションシーンでは一斉に集まってきて、入り乱れた状態になるので、戦いの動きを映像化するうえでも、これまで以上に各キャラクターに寄り添うことが必要でした。一発一発のパンチに臨場感を与えるためにカメラワークやアングルも計算しつくしたのです。
トランスフォームに関しても多くのパーツをスムーズに動かすのはもちろん、各ロボットがどのように車やバイクに変わるのか、ディテールまでデザインを考え抜きました。
─今回、トランスフォームする前の車は、どのような基準で選んだのですか?
大前提が、変身した後のキャラクターに見合った車種です。ポルシェ911は、流線型のフォルムとすばしっこさが、変身したミラージュの特徴とリンクします。
日産スカイラインGTRは、敵側のテラーコンのナイトバードに変わります。しなやかで美しく、小回りが利く共通点があります。ただスカイラインは部品が現存していなかったりして、再現するうえで最も苦労しました。
これらの車はピカピカではありません。いろんな場所での戦いを生き抜いてきた種族なので、傷や汚れなどで彼らの歴史を表しています。
─オートボットやマクシマルの感情を表現するうえで、何か演出の秘密はあったのですか?
オプティマスプライムの目の部分を少しだけ大きくしたりしています。
難しかったのはマクシマルで、ゴリラの状態からメタリックのロボットになったときに、呼吸をしているかどうかは、製作陣の大論争になりました。ラフカットの段階では、息をしていないと、ただの置き物のようで生命感が伝わってこなかったのです。
そこで脇や腕に付いているポンプから油圧や水圧で煙や空気を吐き出している映像を加えました。そうすると生きているように見えてきて、これは特殊効果や大道具班の最高の功績になりました。
─マチュピチュ遺跡などペルーのシーンでのアクションの演出は苦心も多かったのでは?
物理的に大変でした。ジャングルなどの険しい場所に重いカメラや照明など機材を持ち込むだけで一苦労で、ましてやその先でアクションシーンを撮るわけですから。
ペルーは高地ですから、誰もが軽い高山病に苦しみました。マチュピチュの山頂へ行ったときがいちばん苦しかったですね。
ペルーの高地は天候が不安定で、晴れていた場所に急に雲が流れてきて2m先の人が見えない状況にもなります。そうすると半日は撮影がストップします。ハリウッド映画でもここまで過酷だった現場は珍しいのではないでしょうか。
ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ(プロデューサー)
プロフィール
1957年1月13日、ニューヨーク生まれ。社長も務めたワーナー・ブラザースを2002年に退社後、ディ・ボナヴェンチュラ・ピクチャーズを立ち上げ。
以後「トランスフォーマー」「G.I.ジョー」「RED」シリーズなど40作品以上をプロデュース。今後の作品には、第1作も手掛けた『MEG ザ・モンスターズ2』(2023)などがある。
“私たちにとっても次回作は未知の領域です”
─新たな主役としてアンソニー・ラモスをキャスティングした理由を教えてください。
毎回、俳優を選ぶ際に重視するのが演技力です。アンソニーはその点を基本的にクリアしつつ、今回はコメディの要素も多いので、そこもポイントにしたところ、軽妙な演技が得意だとわかったのです。
さらに主人公のノアは、運に見放された男で、ついつい応援したくなるキャラという点が、アンソニーにぴったりでした。どこにでもいる気さくな“お兄ちゃん”であり、スクリーンで多面的な顔をみせられる俳優でもあるのです。
─シリーズ5作を監督したマイケル・ベイが今回も製作に名を連ねています。どんな役割を果たしたのでしょう。
スティーヴン・ケイプル・Jr.監督にとって、これほど大がかりなVFXは初めてだったので、そのアドバイスをマイケルが直接、伝えてくれました。
最新テクノロジーの使い方はもちろんですが、大作映画の経験が豊富な彼は、どんな落とし穴があるのかなど失敗から学んだこともスティーヴンに教えたようです。
─『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021)では日本、今回はペルーと、特別なロケ地を選ぶのが好きなようですね。
私は旅行が趣味なので、プロデューサーという立場を利用して、行ったことのない場所をロケ地に提案してしまうんです(笑)。それで今回はマチュピチュ遺跡を推しました。
「トランスフォーマー」の世界は現実とかけ離れた世界へ観客を連れて行くのも目的ですから、誰もが気軽に行けるわけではないマチュピチュは最適でしょう。ペルーの古代のインカ文明がストーリーに取り込みやすかったのも大きな要因です。
─スティーヴン・ケイプル・Jr.は監督としてどんな才能の持ち主だと感じましたか?
これまで手がけた作品を観ると、キャラクターを描くのが得意だと思っていました。観る人に共感させる演出がうまいのです。
「トランスフォーマー」のような作品は次から次へと舞台が変わり、いろんな種族が出てくるうえに変形します。散漫な印象になりかねない作品に、人間ドラマの核を作ることが重要で、スティーヴンはそこを見事にやってのけました。
─今後のシリーズ展開について、いま話せることを聞かせてください。
作り手の私たちにとっても次回作は未知の領域です。ひとつ言えるのは、今度もオートボットとマクシマルが共存する世界で、新しいユニバースが作られること。今回出番が少なかったキャラクターが掘り下げられるはずですよ。
『トランスフォーマー/ビースト覚醒』関連記事はこちら
『トランスフォーマー/ビースト覚醒』
2023年8月4日(金)公開
2023/アメリカ/2時間7分/配給:東和ピクチャーズ
監督:スティーブン・ケイプル・Jr.
出演:アンソニー・ラモス、 ドミニク・フィッシュバック、ディーン・スコット・バスケス、トベ・ンウィーグウェ
声:ピーター・カレン、ロン・パールマン、ピーター・ディンクレイジ、ミシェル・ヨー
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