日本公開のインド映画の興収記録を更新した『RRR』(2022)。本作だけなく、世界中でインド映画への注目は高まるばかり! 今観たい話題作の紹介に合わせて、その面白さに迫ります。(文・高倉嘉男/デジタル編集・スクリーン編集部)

『K.G.F:CHAPTER 1&2』

画像: 『K.G.F:CHAPTER 1&2』

金も権力も掴み取れ! ノンストップ下剋上ムービー

幼くして最愛の母親を亡くし、ボンベイで靴磨きから殺し屋にのし上がったロッキーは、有力なマフィアから依頼を受け、金の違法な採掘が行われるコーラーラ金鉱(KGF)へ向かう。

その依頼とは、KGF創設者スーリヤワルダンの後を継いで支配者になった息子ガルダの暗殺だった。KGFは巨大な要塞であり、中では永久奴隷化された人々が過酷な強制労働を強いられていた。

労働者に扮してKGFに潜入したロッキーは、人々に希望を与えながら、ガルダの住む邸宅に通じる経路を探り始める。

現代のシーンもあるが、基本的には1951年から1981年までの期間の出来事を断片的に回想しながら物語が進行する。実はKGFはインド南部カルナータカ州に実在する金鉱だ。1960年代から1980年代にかけて首相を務めたインディラ・ガンディー首相に似たキャラも登場する。

しかしながら全てはフィクションであり、その世紀末的な世界観は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)などの強い影響を感じる。

主演ヤシュが演じる主人公ロッキーの本業は殺し屋で、KGF潜入後は救世主としてあがめられもするが、基本的には無表情なダークヒーローである。数え切れないほどあるファイトシーンでは、彼の情け容赦ない戦い振りが過激に描写される。

社会の最底辺からのし上がった主人公が立ちはだかる敵を次々となぎ倒し、たった一人の力で巨万の富と国家を揺るがすほどの強大な権力を掴み取っていく様子を拍手喝采して応援する、壮大なスケールの大衆娯楽映画だ。

注目スター:ヤシュ

画像: Photo by Prodip Guha/Getty Images
Photo by Prodip Guha/Getty Images

1986年生まれ。父親はバス運転手であり、裕福な家庭の生まれではなかったが、俳優になるという子供の頃からの夢を追い、劇団の下働きから身を立てた苦労人。

TVドラマ出演を経て2007年に映画デビュー。独特の台詞回しや踊りの巧さで人気になり、ヒット作にも恵まれ、カンナダ語映画界を代表する「ロッキングスター」に上り詰めた。

「K.G.F」シリーズの全国ヒットにより、今やカンナダ語映画界でもっとも有名な「汎インドスター」になった。

見どころ1:あの『RRR』を抑えて年間興収ナンバー1!

画像: ついにロッキー兄貴が日本上陸!

ついにロッキー兄貴が日本上陸!

「K.G.F」シリーズは日本で初めて劇場一般公開されたカンナダ語映画だ。カンナダ語は主に南インドのカルナータカ州で話されている言語である。全2部構成で、本国インドでは第1部が2018年、第2部が2022年に公開された。

どちらも全国的な大ヒットになったが、特に第2部は『RRR』(2022)を抑えて同年の興収ナンバー1に輝いた。これは今まで地味なイメージのあったカンナダ語映画としては初の快挙となる。日本では全2部が一挙公開だ。

見どころ2:もはや緩急なんてない! 全編がクライマックス!

画像: 早送りしていいシーン? ない!

早送りしていいシーン? ない!

語り口が独特で、まるで全編がダイジェスト版であるかのように、ものすごいスピードで物語が進んでいく。『RRR』は10分に1回クライマックスと言われたが、「K.G.F」にはもはや緩急自体がなく、ずっとクライマックス状態だ。

第1部と第2部を連続して観るとそれが5時間以上続くことになる。これは、タイパを重視し、映画を早送りで視聴するというZ世代の習慣に合わせた最先端の手法なのかもしれない。逆に、安易なタイパ視聴を許さない映画だ。

『K.G.F: CHAPTER 1』
公開中
2018/インド/2時間35分/配給:ツイン
監督:プラシャーント・ニール
出演:ヤシュ、シュリーニディ・シェッティ、ラヴィーナー・タンダン、アナント・ナーグ

『K.G.F: CHAPTER 2』
公開中
2022/インド/2時間48分/配給:ツイン
監督:プラシャーント・ニール
出演:ヤシュ、シュリーニディ・シェッティ、ラヴィーナー・タンダン、サンジャイ・ダット

『ランガスタラム』

画像: 『ランガスタラム』

横暴な権力との戦いを娯楽要素たっぷりに描く!

時は1980年代。インド南部アーンドラ・プラデーシュ州のランガスタラム村では、村落議会の「プレジデント」を長年にわたって務める地主が権力と暴力を使って君臨しており、無学な村人たちを借金漬けにして暴利を貪っていた。

村に住む青年チッティ・バーブは難聴を抱えていたが、時と場合に応じて障がいをうまく使い分け、毎日楽しく過ごしていた。そこへ兄のクマール・バーブが出稼ぎ先のドバイから帰郷し、プレジデントによる不正を目の当たりにして憤る。

クマールはプレジデントの所属政党と対立する政党の後押しを取り付け、議長選挙に立候補してプレジデントの横暴を止めようとする。

画像: 横暴な権力との戦いを娯楽要素たっぷりに描く!

スクマール監督はテルグ語映画界の名監督の一人。主演を務めるのは『RRR』(2022)の主演ラーム・チャラン。あらすじだけを読むと、いかにも彼が演じるのは、プレジデントに立ち向かった正義感あふれる兄クマールであるように早とちりしてしまう。

だが、意外にも彼が演じたのは、難聴ながらお気楽な生活を送っていた弟チッティの方である。同じ村に住む恋人とのやり取りも難聴のおかげで行き違いばかり。普通だったらコメディ要員の脇役キャラだ。

だが、敢えてラーム・チャランはスターの枠組みから外れた役に挑戦した。もちろん、主演はあくまでラーム・チャランであり、最後に一番かっこいいところを持っていく。

本作はインドで商業的に大成功を収め、評論家からラーム・チャランの演技が絶賛された。

注目スター:ラーム・チャラン

画像: Photo by Mike Coppola/Getty Images
Photo by Mike Coppola/Getty Images

1985年生まれ。テルグ語映画界の「メガスター」チランジーヴィの息子。2007年に俳優デビューし、2作目の主演作『マガディーラ 勇者転生』(2009)が記録的大ヒットになったことで、早くもテルグ語映画界を代表するスターになった。

同じく抜群の血統を誇るNTR Jr.とW主演した『RRR』は全インド的ヒットになり、同作はアカデミー賞歌曲賞受賞など国際的な成功も収め、今ではテルグ語映画界に限定されない汎インドスターに数えられている。

見どころ1:評論家たちも絶賛! ラーム・チャランの「転換点」

画像: 変則的な役柄をチャランが好演

変則的な役柄をチャランが好演

テルグ語映画界で圧倒的な人気を誇る「メガスター」を父に持ち、いわゆる「スターキッド」のラーム・チャランは、デビュー以来、勧善懲悪型のアクション映画やロマンス映画に主演する機会に恵まれてきた。

ところが、デビュー10周年の頃に主演した本作で彼が演じたのは、脇役的な立ち位置かつ耳に障がいを持つ変則的な役柄であった。異例の配役だが、彼の演技は評論家から高く評価され、役者としての潜在性を開花させるきっかけになった。

見どころ2:映画を通して知るインド社会の構造

画像: 娯楽要素満載だが現実も垣間見える

娯楽要素満載だが現実も垣間見える

インドの村々には「パンチャーヤト」と呼ばれる村落議会が設置され、村に関わる事柄が話し合われる。その議長や議員は選挙による選出だ。

本作で「プレジデント」と呼ばれる人物は村落議会の議長という地位を濫用して村を支配していたが、そもそも彼は地主階級の上位カーストだ。

一方、チッティやクマールは下位カーストの出身である。映画中にはカーストの壁を超えた禁断の恋愛も描かれるが、現実世界でもなかなか許されることはない。

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『ランガスタラム』
公開中
2018/インド/2時間54分/配給:SPACEBOX
監督:スクマール
出演:ラーム・チャラン、サマンタ、プラカーシュ・ラージ、ジャガパティ・バーブ、アーディ・ピニシェッティ

ⒸMythri Movie Makers

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