オードリー・ヘプバーンが演じた某国の王女と、グレゴリー・ペック扮する記者のたった1日のロマンスを描き、世代を超えて愛されてきた『ローマの休日』が製作70周年を迎え、4Kレストア版の美しい映像でリバイバル公開されます。何度見ても必ず感動してしまう名作の持つ不思議なパワーは、今も決して色褪せることはありません。(文・清藤秀人/デジタル編集・スクリーン編集部)

初公開時、特に日本で一大旋風を巻き起こした永遠の名作

今からちょうど70年前、世界中に、特にこの日本で一大旋風を巻き起こした映画『ローマの休日』(1953)が、4Kレストア版でリバイバル公開される。

このニュースを耳にして、日本初公開時に観た人、その後繰り返しリバイバルされた際、どこかのタイミングで観た人、そして、この映画の噂を聞いていつかは観てみたいと思っていた人、全員が、もう一度、または初めて劇場に脚を運ぶことになるだろう。

なぜなら、そこには何度観ても色褪せないラブロマンスとしての魅力と、ハッピーエンディングではないのに長く心をとらえて離さない独特の余韻と味わいがあるから。

画像: 誕生から70年となった今も多くのファンに愛される名作が甦る

誕生から70年となった今も多くのファンに愛される名作が甦る

それはニュース映像で始まる。ヨーロッパ最古の王国の王位継承者であるアン王女(オードリー・ヘプバーン)が、欧州親善旅行で古都ローマを訪れたとのこと。

場面は切り替わって、美しいローブデコルテに着替えた王女が歓迎舞踏会に姿を現す。その表情はニュースで観るよりも断然光り輝いている。

でも、それはあくまでよそ行きの姿。実は王女は疲労困憊で舞踏会が終わって宮殿の寝室に戻ると、ストレスのために抑えていた感情を爆発させてしまう。

そこで主治医が鎮静剤を注射して一旦は落ち着くが、窓の外から聞こえる楽しそうな街の喧騒に刺激され、何と、王女は無謀にも宮殿を飛び出してしまうのだ。

史上最高のラブストーリーの1本に選ばれたのも納得の展開

ここからの展開が素早い。鎮静剤が効いてきて街角のベンチに倒れ込んでしまった王女の脇を、仲間とカードゲームを楽しんでいたアメリカ人記者のジョー・ブラドリー(グレゴリー・ペック)が通りかかり、行きがかり上、アパートに連れ帰る。

やがて、ジョーはその酔っ払い(彼はそう思っている)がローマを歴訪中のアン王女だと知り、身分を偽ってローマ観光を提案する。そこには当然、仕事仲間のカメラマン、アーピング(エディ・アルバート)が同行する。

王女の方も身分を隠して始まる観光ツアーは、王女が運転していたバイクが暴走して警察に連行されたり、やがて現れた王室手配の情報部員と水上パーティで乱闘を演じたりと、予期せぬ出来事の連続だ。

画像: スペイン広場でのシーンは誰もが知っている名場面となった

スペイン広場でのシーンは誰もが知っている名場面となった

予期せぬことといえば、そんな刺激的な体験の過程で、アンとジョーが互いも気付かぬうちに恋に落ちていたこと。それは、観客も同じで、そうなるだろうと言われればそうなのだが、連続するスリルとハプニングに気を取られて、恋に落ちる必然性に気づかない。

そこが、監督を務めたウィリアム・ワイラーの、そして、原案と脚本を担当したダルトン・トランボの上手いところ。

アクションの連続で魅せる前半とは逆に、物語の後半、2人がお互いの気持ちを知って以降のドラマチックな展開は、観ていて胸が締め付けられるほど。

アメリカ映画協会が“AFI 100 YEARS…100 PASSIONS(史上最高のラブストーリー100)”部門で、『カサブランカ』(1942)、『風と共に去りぬ』(1939)、『ウエスト・サイド物語』(1961)に次ぐ第4位に『ローマの休日』を選んでいるのは正当な評価ではないだろうか。

画像: 歴代のハリウッド・ロマンス映画の中でも評価が高い

歴代のハリウッド・ロマンス映画の中でも評価が高い

オードリーが見せる一世一代の名演技にその後の彼女の人生が重なる

そして、オードリー・ヘプパーンだ。彼女がスクリーンテストで見せた自然な笑顔に魅力の本質があることを見抜いていた監督のワイラーは、何から何まで初めての出来事に目を輝かせ、心を躍らせ、時に涙する王女の感情の変化を、オードリーに演じさせるというより、心の底から湧き上がってくる喜びや悲しみを掬い取るようにしてカメラを回し続ける。

オードリーはその時の経験を振り返って、「正式に演技を学んだことのない私にとって、巨匠との撮影現場が演劇学校だった」とコメント。それは正直な気持ちだったに違いない。

画像: ラストのオードリーの名演技は何度見ても感動

ラストのオードリーの名演技は何度見ても感動

そんなオードリーが一世一代の名演、または感情表現を見せるのが、王女が宮殿に帰還後、開かれた記者会見のシーン。

最前列に立つジョーの方に目をやって、「私は国家間の友情を信じています。人と人との友情を信じるように」と、側近たちも驚く想定外の言葉を放つ時のアン王女=オードリーの、信じることを疑わない表情には圧倒される。

国家間の友情と、人と人との友情を信じたい。それは、戦争の時代を果敢に生き抜き、俳優として大成した後に、ユニセフ親善大使として世界の紛争地帯、飢餓地域を訪問して、病に侵され、痩せ細った子供たちを抱き上げたオードリーの人生を予感させるもの。

『ローマの休日』はあらゆる意味でオードリーの原点なのだ。

脚本家ダルトン・トランボが本作に込めた本当の思いとは?

ここにもう1人、ダルトン・トランボの存在を記さなくてはいけない。

1950年代の前半、ハリウッドで吹き荒れた共産主義者排斥運動“赤狩り”の標的になり、仕事を奪われたトランボは、当初別名で本作に脚本を提供している。

後に名誉を回復し、本名がクレジットされるのだが、「友情を信じる」という王女の言葉には、政治の犠牲になって散っていった仲間たちへの熱い思いが込められている。

そう考えると、『ローマの休日』は果たしてラブロマンスの範疇に収めていいのか?という疑問も湧く。世代を超えて愛される映画が残す不思議な余韻の正体は、そこにあるのかも知れない。

画像: アンとジョーが乗るヴェスパも大流行となった

アンとジョーが乗るヴェスパも大流行となった

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『ローマの休日 4Kレストア版』
2023年8月25日(金)公開
アメリカ/1953/1時間58分/配給:TCエンタテインメント
監督:ウィリアム・ワイラー
出演:オードリー・ヘプバーン、グレゴリー・ペック、エディ・アルバート

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