カバー画像:『グランド・ブダペスト・ホテル』© 2023 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
オリジナルだけでなく原作ものも!
『ファンタスティック Mr.FOX』(2009)
ウェスにとって初のアニメーション作品。しかもパペット(人形)を使ったストップモーションというのが彼らしい。
泥棒を引退したMr.FOX(キツネ)が引越しを計画する物語。愛らしいキャラ造形や動きと、ブラックユーモアのバランスが絶妙。
原作は『チャーリーとチョコレート工場』(2005)のロアルド・ダールによる児童文学で、ウェスの映画で原作が存在するのも初だし、ジョージ・クルーニー、メリル・ストリープという大物がボイスキャストで参加したのも特徴的。
過剰に登場する完璧すぎる“左右対称”
『ムーンライズ・キングダム』(2012)
秘密の場所“ムーンライズ・キングダム”を目指し、駆け落ちした12歳の少年&少女。架空の島を舞台に描く本作は、子供たちのピュアなラブストーリーにほのぼのさせられ、彼らに翻弄される大人たちが、いつもながら間の抜けた行動も見せて笑わせる。
唐突な流血シーンや、終盤のハリケーンによるスペクタクルなど、ウェス作品では異例の演出もあるが、彼の最大の特徴となった、完璧すぎる“左右対称”の絵柄は、本作で過剰なほど出てくるようになった。
映画史に残るプロダクションデザイン
『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)
アカデミー賞で4部門受賞、ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)に輝き、ウェスの代表作と呼ぶ人も多い。
東ヨーロッパの架空の国、ズブロフカ共和国の高級ホテル。その常連客だったマダムが殺害され、ホテルのコンシェルジュやベルボーイ見習いが事件に立ち向かう。
舞台は1932年。時代感を意識したホテルのセット、フェンディとコラボした衣装、パステル調のスイーツの箱など、映画史にも残るプロダクションデザインを堪能できる一作。
徹底的にこだわるカルチャー描写
『犬ヶ島』(2018)
ウェスにとって2本目のストップモーション・アニメは近未来の日本、メガ崎市が舞台。少年が愛犬を救い出そうとするアドベンチャーに、人間、犬それぞれのキャラが絡んでいく。
伝統芸能から学校の制服まで、物語に織り交ぜられた日本独特のカルチャー描写はかなりリアルで、ウェスの日本リスペクトが伝わってくる。
セリフは英語と日本語の両方が使われ、ボイスキャストはウェス常連組に加え、オノ・ヨーコ、渡辺謙、松田龍平&翔太の兄弟ら錚々たるメンバー。
愛するものへのオマージュ
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(2021)
長編10作目にウェスが詰め込んだのは、フランスと雑誌文化への愛。ルノワールやトリュフォー、ジャック・タチら名監督たちにオマージュを捧げながら、フランスの都市で発行されるアメリカの雑誌、その最終号に掲載される4つの記事を、オムニバスのドラマ仕立てで展開していく。
モノクロ映像やアニメなども駆使し、細部の美術や左右対称のこだわり……と、ウェスらしさは全開だが、全体にシックで落ち着いた印象なのが逆に新鮮かもしれない。