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原作者アガサ・クリスティーとは
著作の発行部数は世界で20億冊以上といわれる“ミステリー小説の女王”。1890年英国生まれで、1920年に作家デビュー。彼女が創出したポアロやミス・マープルなどの人気探偵キャラは世界中の読者を魅了し、ギネスブックも史上最高のベストセラー作家と認定している。76年に85歳で死去するまでに100を超える長編、短編、戯曲を生み出した。
100年に渡って映画化され続けるアガサ・クリスティー作品
映画化されたクリスティーの原作は1928年の「秘密機関」に始まって、この作品もドイツ映画なのだが、それこそ英国だけにとどまらず世界各国で映像化されているのが、国境を越えた人気ぶりを表している。その中でも有名なものを挙げてみよう。
戦前、日本公開されたのは「ナイチンゲール荘」を映画化した『血に笑ふ男』(1937)くらいだが、戦後にまず注目されたのは、ハリウッドの名匠ビリー・ワイルダー監督が「検察側の証人」を映画化した『情婦』(1957)。
チャールズ・ロートン、タイロン・パワー、マレーネ・ディートリッヒといった大スターが共演した法廷劇で、結末の大どんでん返しと共に映画ファンを堪能させた。アカデミー賞でも作品、監督賞など6部門で候補になっている。
原作一番人気『そして誰もいなくなった』
1960年代は英国でジョージ・ポロック監督によるいくつかのミス・マープルものなどが映画化されたが、残念ながらほぼ日本公開されなかった中、唯一公開されたのが『姿なき殺人者』(1965)で、これは「そして誰もいなくなった」が原作。
実はこの映画化は2回目で、1945年にフランスのルネ・クレール監督が『そして誰もいなくなった』としてアメリカで映画化している。この作品は日本では1976年になって初公開された。
ちなみにこの原作は一番人気で、この後も1975年にピーター・コリンソン監督版や1989年に舞台をアフリカに移した『サファリ殺人事件』など、形や国を変えて何度も映画化されている。
『オリエント急行殺人事件』が大成功
そしてシドニー・ルメット監督がオールスターキャストで映画化したポアロもの『オリエント急行殺人事件』(1974・原作「オリエント急行の殺人」)が大成功。アカデミー賞でも6部門で候補となり、イングリッド・バーグマンが助演女優賞を受賞した。
これを機に、ポアロ作品が連続して製作されるようになり、続いて『ナイル殺人事件』(1978・原作は「ナイルに死す」)もヒット。ここでポアロを演じたピーター・ユスティノフ主演で『地中海殺人事件』(1982・原作「白昼の悪魔」)『死海殺人事件』(1988・原作「死との約束」)が生み出された。
またこの間にミス・マープルもの『クリスタル殺人事件』(1980・原作「鏡は横にひび割れて」)や、『ドーバー海峡殺人事件』(1984・原作「無実はさいなむ」)なども公開された。
1990年代以降の映画化作品
この後1990年代に入って、しばらく映画化が途絶えるのは、遺族との交渉が関係しているらしいが、2000年代に入るとそれも解決し、フランス映画界がクリスティーに食指を伸ばして、トミー&タペンスもの『アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵』が2005年に登場(原作は「親指のうずき」)。
これに端を発し、『ゼロ時間の謎』(2007・原作は「ゼロ時間へ」)、『華麗なるアリバイ』(2008・原作は「ホロー荘の殺人」)などが続けてリリースとなった。
そしてクリスティーの母国イギリスに戻り、彼女自身がお気に入りだった『ねじれた家』が2017年に映画化されると、同時期にケネス・ブラナー版『オリエント急行殺人事件』(2017)もスクリーンに戻り、クリスティーが再注目される時代がやってきた。
およそ100年に渡って映画界でも愛され続けるクリスティーの世界はまだまだファンを増やしていきそうだ。
ちなみに1920年代に起きたクリスティー自身の失踪事件を映画化した『アガサ/愛の失踪事件』(1979)という実話ミステリーも機会があれば見てほしい。クリスティーを演じたのは74年版『オリエント急行殺人事件』にも出演したヴァネッサ・レッドグレイヴだ。