4作目は旧友が戦う姿を描こうと決めていた
ーー本作の前半は、真田広之さん演じるシマヅが支配人を務める大阪・コンチネンタルホテルを舞台に壮絶な戦闘シーンが繰り広げられます。監督はどんなところにこだわってあのシーンを作り上げたのでしょうか。
「1作目の『ジョン・ウィック』(14年)を撮った頃に比べて、いまはカラーグレーディング(映像に色彩補正を施す作業のこと)の技術が上がっているので、ネオンカラーのような紫やピンクの色味を出せるようになったんです。なので今回は僕の好みでもある色彩豊かな映像にこだわって作りました。
それから、ホテル内の美術館での戦いのシーンでは、本物の日本の工芸品を飾っているのですが、そのために私は日本の歴史や、侍がいた時代に作られたアートについて改めて勉強しました。本作に登場させたい工芸品はたくさんありましたが、僕は“a lot of little”という言葉を大事にしているので、必要な分をちょっとだけ取り入れながら世界観を作っていきました」
ーー見どころだらけの本作ですが、個人的に印象的だったのが凱旋門での車(カー)・フーシーンです。さすがに道路を閉鎖するのは不可能とのことで、ベルリンのテーゲル空港という閉鎖された空港で撮影されたそうですが、それでもかなり大変だったのではありませんか?
「バスがうっかりキアヌを轢いてしまわないか心配で…というのは冗談ですが(笑)、少しのミスが大きな事故に繋がってしまうので、あのシーンが本作の中で1番大変でしたし、準備と撮影に最も時間がかかったといえます。まずキアヌは9ヶ月間運転技術のトレーニングを受けました。
それからワイヤーなど様々なアクションのデザインを考え、スタントパフォーマーが世界各国から総勢50名、スタントドライバーが200名、そこにキアヌとグラモン侯爵の右腕チディ役のマルコ・サロール、カメラマン2名が撮影に参加するので、リハーサルをみっちり4か月かけましたし、細心の注意をはらいながら撮影に挑みました」
ーーリハーサルは具体的にどのように行われたのでしょうか?
「まず人間同士のファイトシーン、その次に車のシーン、そのあと両方を同時にリハーサルして、さらにバスも合わせていってという感じで段階を踏みながら行っていきました。今回アメリカ、日本、ドイツ、ブルガリア、フランスからスタントチームを招いたのですが、無線で5ヶ国語が飛び交う状況で、混乱しないためにも5000本の三角コーンを用意したんです。
たとえばキアヌは青のコーンだけを追って、他の人は赤など、とにかく三角コーンを目印に動いてもらうようにしました。もちろんトラッカー(シャミア・アンダーソン演じる犬を相棒にジョンを追う暗殺者)の愛犬役の犬もしっかりとリハーサルして撮影に挑んでくれましたよ(笑)。この撮影を通して、改めて最高のチームだなと実感することができましたね」
ーー本作のジョンのセリフが、これまでの3作と比べてとても少ないように感じたのですが、監督の中で本シリーズのセリフに関してこだわったポイントがあれば教えていただけますか。
「僕の勝手な思い込みかもしれませんが、アメリカ映画のほとんどは説明セリフが多いと感じていて、それがとっても苦手なんです。“こんなこといちいちセリフで言わなくても観ていればわかるじゃん”とツッコミを入れたくなってしまう(笑)。だから本シリーズでは最低限のセリフでいかに多くのことを表現できるかに挑戦したかったんです。
幸いキアヌは表現力が豊かな俳優ですし、ジョンのセリフに関しても、台本のどの言葉を使うか彼が決めているので、説明過多な作品にならずに済んでいます。ただ、少しセリフを削りすぎる時があるので、『お願いだから、この1行か2行は残しておいて』とキアヌに言うことも(笑)」
ーー共演者の方とのセリフのバランスはどのように調整されているのでしょうか?
「キアヌは自分のセリフ量にこだわらない人なので、たとえばシェイクスピア的なお芝居をされるウィンストン役のイアン・マクシェーンや、独特のエネルギーを持っているケイン役のドニー・イェンとの共演シーンでは、『彼らに自由に演じてもらって、その芝居を受けて僕(ジョン)がガンを飛ばしたりしますね(睨みつけること)』みたいな感じで進めていきます。それはその場その場で出てきたものをジョンとして対応できる自信があるからなんですよね。本当にキアヌは素晴らしい俳優です」
ーー盲目の武術の達人ケイン役のドニー・イェンさんと真田広之さんの対決シーンに興奮しました。お二人が演じたキャラクターはどのように生まれたのでしょうか?
「今回、旧友が戦う姿を描こうと決めていたのですが、それはなぜかというと、観客にはどちらが勝つのかわからないワクワクと、どちらを応援していいかわからなくて混乱するみたいな気持ちになってもらいたかったからです。それを可能にできるのは、このお二人しかいないと思いました。それで、それぞれの役を真田さんとドニーに当て書きして脚本を作り上げていきました。嬉しいことにオファーしたらお二人とも快諾してくださったので、夢のマッチアップが実現しました」
ーー他にも見どころが盛りだくさんですし、冒頭からラストまで怒涛の展開で169分があっという間でした。
「上映時間が長いと感じませんでしたか?」
ーーいいえ、まったく!
「それはよかった(笑)。実は、今回あえてちょっと長めに感じられるように作ったんです。というのも、僕の中ではあるイメージがあったからです。ジョンはこれまでに3回死を免れていますが、それと似たキャラクターのシーシュポスという人物がギリシャ神話には登場します。
シーシュポスは2度死を免れたことにより、神を欺いた罰として巨大な岩を山頂まで上げるよう命じられるので、それと同じような疲労感をジョンには感じてもらおうと。それで最後の最後まで闘いが続くというわけです。おそらく観客も観ているだけでジョンと同じように疲れが溜まっていくと思いますが(笑)、どうか最後まで見届けてください!」
『ジョン・ウィック:コンセクエンス』
9月22日(金)より全国公開
出演:キアヌ・リーブス/ドニー・イェン/ビル・スカルスガルド/ローレンス・フィッシュバーン/真田広之/シャミア・アンダーソン/ランス・レディック/リナ・サワヤマ/スコット・アドキンス/クランシー・ブラウン/イアン・マクシェーン
監督:チャド・スタエルスキ
配給:ポニーキャニオン
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