007シリーズ日本上陸60周年を記念して新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン池袋ほかにて順次リバイバル・ロードショー中の「BOND60 007 4Kレストア」。第一弾として9月22日より上映されている、日本が舞台となったシリーズ第5作『007は二度死ぬ』でアキ役を演じた若林映子の新録インタビューがこの度到着。SCREEN ONLINE独占、全3回に分けて掲載。第2回となる今回は、ショーン・コネリーや丹波哲郎らとの思い出、「トヨタ2000GT」にまつわる撮影秘話などの貴重なエピソードの数々をお届けする。（取材実施日：2023年9月9日 東京都内にて／聞き手：海野航平）
カバー画像：Photo by Stephan C. Archetti/Keystone Features/Getty Images
PROFILE
若林映子
1939年、東京都生まれ。高校在学中に黒澤明監督作『隠し砦の三悪人』ヒロイン募集オーディションをキッカケに東宝に所属。『東京の休日』（58年）でデビュー。その後、いち早く海外進出し、本人の名前がついたイタリア映画『Akiko』（61年）などに出演。国内外に活躍の場を広げ、『007は二度死ぬ』（67年）にアキ役で出演。
ーーショーン・コネリーさんや丹波哲郎さんとの思い出をお聞かせください。
ショーンさんは当時の奥様（ダイアン・シレント）と一緒に来日していました。でも喧嘩ばっかりしていたみたいで、結局その後離婚されているんですよね。その後は凄く家庭的な奥様と再婚された、って聞きました。ショーンさん、少し前に亡くなったんですよね…。
撮影中、セリフの訛りを注意されたら、「俺はスコットランド人だぞ！」ってね。イギリス人とスコットランド人って仲悪いのね。（笑）
日本ロケのとき、前もって知らせていないのに、どこかでわかっちゃって人が沢山来るんですよね。あんまりそういう人たちに会わないようにしていたけど、（ショーンは）愛想はいいんですよ。ショーンさん！、と声をかけられると、物凄く愛想が良い。もともとトラックの運転手などをやっていた頃があるって言ってて。気取ったところなんて全然ないけど、凄くインテリですよ。私、ショーンさん大好きですよ。ものすごく冗談もしょっちゅう言うしね。セット撮影で、私がボンドにマッサージするシーンがあって。私は手が冷たいんです。ショーンさんが横になっていて、私がちょっと触ると、「ヒェッ！」なんて言ったりしてね。（笑）
Photo by Sunset Boulevard/Corbis via Getty Images
「なんでこんなに手が冷たいんだ！」って言いながら手をさすってくれて。私が「ごめんなさい、私、手が冷たいの。日本では手が冷たい人は心が温かい人と言うのよ」って言って、日本人の通訳がそれをショーンさんに伝えたら、「でも手が温かくて、心も温かい人もいるよ」なんて言うのよ。（笑）
なんかね、そんな冗談が大好きな人でしたね。
丹波さんがキャスティングされたのは、ルイス・ギルバート監督の過去の映画（『第七の暁』）に出ていた縁なんですって。ルイスさんが、「日本人だったら丹波がいいんじゃないか」って言ったみたいなんです。丹波さんも、イギリスでは私たちと同じドーチェスターに泊まっていたんですよ。だけど、「パッと目が覚めたら、足元に中国服を着た女の幽霊が立ってた！怖い！ホテルを変える！」と言い出して。それで近くの豪華なホテルに移ったんです。そんな事もあったからか、丹波さんとは一緒にご飯食べたりすることはなかったわ。
ご飯を一緒に行くのは撮影クルーと、とにかく（カビー・）ブロッコリさんが多かった！有名なフランス料理とかね。それから彼の家でご飯を食べたりね。ブロッコリさんはイタリア系でしょう。イタリア系のコックが家にいて、彼が作るイタリア料理のコースが美味しかったの！（笑）
その時は、大きなテーブルにね、20人ぐらいいたのかな。美術監督のケン・アダムもいて。彼はめちゃくちゃプレイボーイなのよ！そういうメインのスタッフと役者さんがご馳走になりました。あの時のイタリア料理が一番おいしかったぐらい。
でもね、近くにちょっといくと凄く美味しい中華料理とかもありましたね。イタリア料理も美味しい店があって、東宝の奥田さんが「そこを知ってるから行こう！」と言うので行ったら、確かに本当に美味しかったですよ。
ーー日本での撮影中、『アラビアのロレンス』などで有名なデヴィッド・リーン監督がいらしたというのは本当ですか？
そうなの！今作の撮影を務めていたフレディ・ヤングさんを訪ねてきたのね。彼はものすごいカメラマンで、リーン監督の『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』も担当した方です。どんなに寒い時でも暑い時でも文句言わなくて。助監督などのイギリス人スタッフたちは日本の真夏の暑さにやられちゃってヒイヒイ言ってたんだけどね、（撮影が）8月でしょ。
たまたま来日してたデヴィッド・リーン監督が、奥様と国技館にいらして。
ロケ撮影中、私たちは使わないから要らないのに、私と浜さんが撮影の合間に休めるようにバスを改造して、ちょっと横になれるソファーが置いてある控室を用意してくれていたのね。改造費に200万もかかったって聞きましたけどね。でも撮影の合間も見学していたから、結局ほとんど使わなかったんだけど。
リーン監督のインド系の奥様（レイラ・マトカル）が「サリーの着方を教えてあげる」って言って、控室になっているバスへ行って、そこで長い一枚の切れになっているサリーをぐるっと巻いて着せてくれたんです。すごく素敵な方でした。知的で美しくて優しい人でした。リーン監督がプロポーズした理由は凄くわかります。
リーン監督には「映画を拝見してます。大好きで、素晴らしいです。」ってお話ししました。
ーー今作は東京や神戸、姫路城など日本各地でロケ撮影していますね。
姫路城に行くときは、ホテルの近くからヘリコプターで行くのよ。（笑）
ヘリで空き地に降りたのを覚えています。今作以前のシリーズ4作品すべてが大ヒットしているから、何と言っても世界一お金持ちのプロダクションですもの。
ーー当時ならではの描写としてニンジャも出てきますね。
ニンジャの団体（スタントの方々）がイギリスでの撮影に来ていましたよ。
私はあんまりセットでの一緒の撮影がなくて、ニンジャの人たちとは、数回お茶の時間などに会ったぐらいですかね。やたら人懐っこい良い人たちだったんです。
ーー今作といえばトヨタ2000GTも外せません。映画を見ると、若林さんご自身が運転しているように見えますが、実際はいかがでしたか？
当時、免許は持っていなくて仮免だけでした。仮免取った途端に、「仮免取れたからすぐに免許取れるだろう！」と思って、カローラを買っちゃったんですよ。買ったのに、結局免許を取れずに終わっちゃったんです。だから運転のできる付き人にカローラを運転して頂きました。私の弟みたいに一緒に育った4～5歳下の子でね。車を貸してほしいというからカローラを貸したら、「こすっちゃった！」とか色々言ってましたね。（笑）
話を戻して、今作でトヨタ2000GTを運転してくれたのは福沢諭吉の孫の幸雄くんです。自動車レーサーで、カッコいい人だったんです。顔立ちが外国人ぽくてね。彼は、六本木のイタリア料理屋の息子と仲良くて。一緒にボーリングによく来ていたんですよ。私は東宝のボーリングの選手だったから、ボーリング場で会うと挨拶してね。向こうは「おねえちゃま」って声かけてくれるんです。可愛かったですよ。今作撮影中は会ってないけど、あとから、実は彼がトヨタ2000GTの運転をしていたと聞きました。
私が乗って、トヨタ2000GTが発進するシーンでは、綱を車体につけて引っ張ってました。そのあとは、幸雄くんがウィッグをつけて運転したんじゃないかな。
撮影後、トヨタ2000GTをくれる、って言われたの。私、もらっとけばよかったのかもしれないけど、運転できないし、置き場もないから要らないって言ったのよ。だけど、後からすっごい値が上がったんでしょう。貰ってオークションに出せば高く売れたのかもしれないけど、私、あんまり欲張りじゃないからね。
聞き手 PROFILE
海野航平
普段は会社勤めの映画諜報員。小学生のときにNINTENDO64「ゴールデンアイ」をプレイしたのをキッカケに007シリーズの虜になる。お気に入りの映画は『女王陛下の007』『リビング・デイライツ』『カジノ・ロワイヤル』。好きな原作は『007は二度死ぬ』。若林氏と10年来の交流があることから今回インタビュアーを務めた。
第3回へつづく！
「BOND60 007 4Kレストア」
第1弾 9月22日(金)から上映中
007/ゴールデンアイ GoldenEye｜1995年｜130分｜ピアース・ブロスナン
007は二度死ぬ You Only Live Twice｜1967年｜117分｜ショーン・コネリー
007/私を愛したスパイ The Spy Who Loved Me｜1977年｜125分｜ロジャー・ムーア
007/ロシアより愛をこめて From Russia with Love｜1963年｜115分｜ショーン・コネリー
女王陛下の007 On Her Majesty's Secret Service 1969年｜142分｜ジョージ・レーゼンビー
第2弾 11月17日(金)～
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ No Time to Die｜2021年｜163分｜ダニエル・クレイグ
007/スカイフォール Skyfall｜2012年｜144分｜ダニエル・クレイグ
007/リビング・デイライツ The Living Daylights｜1987年｜131分｜ティモシー・ダルトン
007/サンダーボール作戦 Thunderball｜1965年｜130分｜ショーン・コネリー
007/ドクター・ノオ Dr. No｜1962年｜110分｜ショーン・コネリー
※上映には4K DCPを使用いたしますが劇場の上映環境に応じ2Ｋで映写される場合がございます。
※一部作品はネイティブ４Kにつきレストア映像ではありません
※『スカイフォール』『ノー・タイム・トゥ・ダイ』はレストア版ではありません。元来4Kでございます。
※作品の並び順は上映順ではありません。上映順は劇場ごと異なります。
©2023 Danjaq, LLC and Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. 60th Anniversary Logo, and related James Bond Trademarks are trademarks of Danjaq, LLC. All Rights Reserved.
