人類と人工知能AIの戦争が激化する近未来。元特殊部隊の兵士ジョシュアは、戦争の勝敗を決定するといわれるA.I.陣営の最終兵器を探し出すが、それは幼い少女の姿をした超進化型A.I.だった。はたしてジョシュアはこの少女を破壊することが出来るのか? 壮大かつ斬新な近未来世界の映像で魅了する『ザ・クリエイター/創造者』のギャレス・エドワーズ監督が来日。デビュー作『モンスターズ/地球外生命体』(2010)の後、『GODZILLA ゴジラ』(2014)、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)という超大作映画2作を監督した監督が、久々にオリジナル映画に復帰。超大作映画2本を監督したという経歴には似合わない(?)、穏やかな物腰と優しい笑顔、静かな語り口で、ひとつひとつ丁寧に質問に答えてくれた。(取材・文/平沢薫)

「どこに行って何を見ても"もしこれがロボットだったら?"と考えてしまった」

ーー舞台は今ではない近未来です。近未来世界を描くために、意識したことはありますか。

「重要なのは、観客が映画を見た時に、本当に未来に行ったように感じることだと思うんだ。だから、あえて、映画の中で建物やガジェットの機能の説明をしないようにした。なぜなら、実際に未来に行ったら、そこにあるいろんなものを見ても、それが何なのか分からないと思うから。それを見て、それが何なのかを自分で想像しなくちゃならない。観客をそういう状態にして、未来世界をリアルに感じてほしいと思ったんだ」

ーー近未来世界の武器などのガジェットのデザインも魅力的でした。デザインのコンセプトを教えてください。

「コンセプトは、日本のプロダクト・デザイン(家電製品や生活用品のデザイン)だよ。僕も美術のジェームズ・クラインも、それが大好きなんだ。特にSONYの1980年代から1990年代初頭の製品。それと任天堂のゲームや製品も。だから、デザイナーたちに説明する時には、この世界のようにみんながアップルの製品を持っている世界ではない別の世界、『SONYのウォークマンを基本に発達していった世界』があったとしたら、そこにどんなものがあるだろう、という発想で考えてほしいと説明したんだ。この映画のロボットやデバイス、シミュラント(AI搭載の擬似人間)のデザインは、日本製品のフォルム(形状)を基にして発想していったんだよ。

 それと、シミュラントのデザインについては面白いエピソードがあるんだ。シミュラントは、彼らを見た時にハグしたいという気持ちになることが重要だったんだけど、いろいろ試してみたら、そのために必要なのは、喉に皮膚の部分を残すことだと分かったんだ。顔の部分だけだと、それをどんなに精巧に創っても、仮面のように感じられて、ハグしたいとは感じられない。あれは大きな発見だったな」

画像: ギャレス・エドワーズ監督

ギャレス・エドワーズ監督

ーー映画は、近未来世界、特に自然と伝統と最先端技術が共存する"ニューアジア"の世界の風景も魅力的です。本作、一般的なSF映画のように先にコンセプトアート(イメージ画)を作るのではなく、実際に東南アジアの風景をロケ撮影して、それにSF要素を加えて創造されたと聞いています。この世界は、監督がロケ撮影をしながらイメージしたものなんでしょうか。

「そうだよ。脚本執筆中に、友人の『キングコング:髑髏島の巨神』の監督ジョーダン・ヴォート=ロバーツに誘われてベトナムに行ったんだけど、その時はもう、次の映画はロボットの映画にしようと決めていたから、どこに行って何を見ても"もしこれがロボットだったら?"と考えてしまったんだ。僧侶がお寺に入っていくのを見ても、"この僧侶がロボットだったら?"とその光景をイメージした。そして、そのアイデアに興奮したんだ。これはまだ映画で見たことがない組み合わせだと思ったから。誰かが先にやったら嫉妬してしまうと思って、すぐに映画を撮りたいと思ったよ。

 映画はパンデミックのせいで大部分をタイで撮影したけど、日本、インドネシア、ネパール、カンボジア、ベトナムでもいろんな風景を撮った。風景を撮る時のクルーは少人数で、録音技師もいなくて、僕を含めて5人だけ。少人数だから気楽にいろんなところに行けて、1日中自由に動けたんだ。それに撮影したものが映画に使われなくてもいい。撮りたいと思ったから、というだけの理由で撮っていいんだ。その自由さがとても良かった。

 この映画の近未来世界は、そうやって実際にある世界を撮って、それに25%の要素を加えて創ったから、世界がリアルで、ディティールが豊かなんだと思う」

「映画は子供のようなもの」

ーー脚本も監督ご自身が書いています。ほとんどの映画ではAIは悪役として描かれますが、本作は違います。このストーリーはどのようにして生まれたんでしょうか。

「ストーリー作りはとても自由だった。最初に企画を始めた時は、スタジオが決まってないし出資者もいなかったからね。アートワークも自分で集めたりしてた。ある程度、企画が進んでから、最初に今回の製作にも参加しているニュー・リージェンシーが声をかけてくれたんだけど、とても協力的で、僕に自信を与えてくれた。普通、スタジオと仕事をしていると、上層部から『そんなことをしたら映画が破綻するから止めろ』という指示がくるものなんだけど(笑)、それが一切なかったんだ。

 発想の原点は、アメリカ中西部を車で横断していた時に、突然、草原の真ん中に、日本のロゴが書かれた工場があるのを見つけた時に生まれた。ここでロボットが作られているんじゃないか、そのロボットが初めてに工場の外の世界を見たらどう思うだろう、と考えたんだ。

 もう一つ、最初にあったアイデアは、ある子供を殺すことで、人類全体を救うことができるとしたら、その子供を殺すことはできるのか、その時、その人物は悪人になるのか。そういうジレンマだ。そこでその物語を書き進めていたところに、僕が興味を持っていたAIという要素を持ち込んだら、ストーリーにいろんな可能性が出てきた。AIは愛することができるのか。それはそもそも人間が考えなくてはいけないことなのか、ってね。そうやってストーリーが出来ていったんだ。

 脚本を書くときに、真正面から愛や共存をテーマに掲げてしまうと、ヒドイ映画になってしまう。だから、何か自分が興味を惹かれるものから始めて書き進める。すると、少しずつテーマが見えてくる。映画は子供のようなもので、企画を進めていくのにつれて成長していって、"自分は大人になったらこうなりたい"と、僕に語りかけてくるんだ」

ーーこの近未来世界では、いろんな国のいろんな時代の音楽が流れているのも印象的です。

「特に1970年代の音楽は、この映画に大きな影響を与えてる。1970年代のドアーズのような音楽で、欧米の観客が聞いたことがない音楽を使いたいと思って、音楽スーパーバイザーに探してもらって、1970年代のインドネシアのバンド、ゴールデン・ウィングを見つけた。気に入ったから、映画で2曲使ってる。西洋と東洋の文化が融合したような音楽で、そこがこの映画と共通していると思う。この映画は日本映画の影響を受けているけど、その日本映画も西洋映画の影響を受けてる。音楽も映画も、お互いの文化をキャッチボールして、それで遊んで、影響を受け合いながら、均一化しない。それが健全な状態だと思う。そこから、より刺激的で創造的なものが生まれると思うんだ」

ーーちなみに監督自身はAIについてはどんなイメージを持っていますか?

「個人的には、今はまだAIが知覚や感情を持ってないといいな、と思ってる。だって今、僕たち人間は、AIを奴隷のように使って、人間のための単純労働に従事させてしまっているからね」

『ザ・クリエイター/創造者』
10月20日(金) より全国公開中                      
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2023 20th Century Studios 

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