フィンランドでロングランヒットを飛ばし、国民的な映画と言えるほどの熱烈な支持を受けたアクション『SISU/シス 不死身の男』が公開中だ。第二次世界大戦末期の北欧の荒野を舞台に、たったひとりでナチスに立ち向かった老兵が驚異的な激闘を演じる! “SISU(シス)”とは翻訳不能とされるフィンランドの言葉で、ざっくりいえば不屈の精神を指す。そんなシス魂を主人公の老兵に投影し、スリリングなバイオレンスを活写したのが、『ビッグゲーム 大統領と少年ハンター』などで知られる同国のヒットメーカー、ヤルマリ・ヘランダー監督。この苛烈な映画には、彼のどんな思いが込められているのか? オンラインで話を聞いた。(取材・文:相馬学/編集:SCREEN編集部)

“20年前はフィンランドでアクション映画が作れると誰も思ってもいなかった”

――『SISU~』の脚本はコロナ禍の下で書かれたとうかがっています。そもそも本作のアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか? パンデミックに屈しない不屈の精神も表われているように思いますが、どうでしょう?

「パンデミックとは何かしらの関連性はあると思う。もちろん、パンデミックは怖かったし、いろいろな恐ろしいことを想像してしまい、世の終わりのシナリオを勝手に思い描いていた時期だった。実は、パンデミックによって、僕が本当に作りたかった作品が作れなくなったんだ。でも今となってはそのことに、ある意味、感謝している。それがなければ、『SISU~』の脚本を書くために必要な憤りや恐怖が湧き起らなかったかもしれないからね。バカげてるように聞こえるかもしれないが、パンデミックによって一人の時間ができ、それまでできなかったことが、できたというのは僕だけではなく、多くの人から聞く。本作は間違いなくパンデミックに影響を受けていると思うよ」

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――極寒のラップランドで、しかもパンデミック下での撮影は苦労が多かったと思われますが、どんな困難があり、それをどう乗り越えたのでしょう?

「僕は過酷な環境で撮影することが多い。広大な風景の中で撮るのが好きだからだ。風景自体が魅力的だと、それだけでも十分に魅力的な作品になる。ただ、今回の撮影は木々のない平原が多く、強風にはいつも悩まされた。ゴーグルをつけていたスタッフも多かったし、バイク用のヘルメットをかぶっている者もいた。風の音がうるさいから、人と話している時など音をシャットアウトする必要だったし、砂も舞い上がって大変だったよ。だから風が一番苦労したかな。こればかりは、どうしようもない。乗り越えるには、ただ耐えるしかないんだ」

――まさにSISUの精神ですね。主人公が地雷原で戦う場面はアクションの見せ場のひとつですが、あのシーンではどんなことを心がけたのですか?

「何より大事だったのは、決して急いではいけないこと、時間をかけてあのシーンは撮るべきだと理解してもらうことだった。観客にも、あの恐怖感を感じ取ってもらわなければいけないからね。誰もが怯えているということ、あの場所がいかにおそろしいかを伝えなければならない。撮り終えて編集をしたとき時、ファーストカットの仕上がりがあまりにも美しくて驚いたよ。撮影の時の良い空気感がそのまま表れていたんだ」

――映画の製作中には予想されなかったかもしれませんが、ロシアのウクライナ侵攻後に放たれる戦争映画という点では作品の意味が違ってくるように思います。本作はもちろん娯楽映画ですが、作品の受け止められ方についてどうお考えですか?

「難しい質問だし、問われるのもわかるけれど、現実で起きている戦争と、このようなファンタジー映画を比べたくはないかな。でもヨーロッパで戦争が起きている最中に、このような映画は観たくないかもしれないという人もいた。とはいえ、フィンランドは隣国のロシアと長い歴史があり、今まで以上にSISUの精神を求めているから、いい影響を与えた可能性もあると思うけど、どうなのかな……。でも現実と映画は、まったく異なる2つの世界だから、やはり比較すべきではないね」

――バイオレンスの苛烈さや往年の映画へのオマージュはクエンティン・タランティーノ以後のアクションを連想させますが、この流れに影響を受けているのですか?

「タランティーノと僕の作品を比べる人は多くいて、彼のマネだと言われることもあるよ。でも僕は彼と同じことをやっているだけなんだ。つまり過去に観てきた映画に影響を受けているのさ。タランティーノがそういう作風の映画を作ったからと言って、彼がその権利を所有するわけではないしね。過去作からの影響の例をひとつ挙げると、黄色いフォントは、脚本を書いている時に観た『戦場にかける橋』に影響を受けている。オールド・スクールなタイトルの出し方が気に入ったんだ」

画像2: “20年前はフィンランドでアクション映画が作れると誰も思ってもいなかった”

――この映画を見た観客の反応で印象に残っているものを教えてください。

「昨秋のトロント国際映画祭でワールドプレミア上映を行なったときかな。ミッドナイト・マッドネス部門だった。主演のアアタミがナチス兵士の頭をナイフで刺した瞬間、つまり最初の暴力シーンで、観客が大声をあげて拍手を送り、それがずっと続いたんだ。あれには圧倒されたね。この作品がきっとうまくいくと確信した瞬間だった」

――アクション映画が大好きとのことですが、ベスト3を挙げるとすれば何になりますか?

「絞るのは難しいな。ざっと挙げるれば、『ターミネーター2』に『ランボー』『シュワルツェネッガー/プレデター』『トゥルーライズ』かな。どれも初めて見るような映像ばかりで、ワクワクしたからだ。今はどんな撮影も可能で、すべて見尽くした感じがするけれど、『ランボー』を初めて見たときも、『プレデター』を見たときも、すごく斬新だったんだ。特殊効果もプラクティカルだから、80~90年代の映画は特に好きだね」

――フィンランドの映画界について教えてください。北欧他国との合作を含め、近年は面白い作品がとても多いと感じていますが、現在のシーンをどうとらえていますか?

「今、フィンランドではクールなことが起きようとしていると思うので、プロデューサー、監督、脚本家が、もっと勇気を持って好きなこと、他とは違うことをしてくれるといいね。じつは、フィンランドで映画産業はまだそれほど大きなビジネスではない。でもこの数年で状況は大きく変わりつつある。僕が20年前にこの業界に入った時は、フィンランドでアクション映画が作れるなんて、誰も思ってもいなかった。“そんなのあり得ない”と僕も笑われていた。でもそれが可能になったんだ。だから着実に良い方向に進んでいると思うよ」

『SISU/シス 不死身の男』
全国公開中
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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