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脚本家組合ストの終結が即、俳優組合にも波及するとは限らない?
2023年5月2日から始まった全米脚本家組合(WGA)のストライキが、9月27日に終結した。WGAは、大手映画会社などから構成されている映画テレビ製作者同盟(AMPTP)と協議を重ねてきたが、9月25日未明、双方が合意に達し、4か月半以上に及ぶストライキにようやく終止符が打たれた。
WGA、AMPTP間の最終的な交渉で決まった条件としては、
- 脚本家に対する報酬額を値上げする
- 配信作品については配信会社はWGAに対して各作品の視聴数を明らかにする
- TV番組のために雇用される脚本家の最低人数を保証する
- 脚本の製作にあたって人工知能(AI)を使用する場合は、雇用する脚本家にその旨をあらかじめ提示する
などがある。最後の項のAIについては、そのテクノロジーが日進月歩であるため、WGA、AMPTP双方とも不利な条件を制定したくないということで、交渉が難航したそうである。
WGAのストライキが終結したことで、WGAに後追いするかたちで7月24日に始まった全米俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキも解決へのプロセスが早まるのではないかという見方もあるようだが、WGAがAMPTPから取り付けた条件自体、手放しで喜ぶべきものでもないという意見もある。
例えば、WGAのストライキが終結した翌日の9月28日付のロサンゼルス・タイムズ紙の論説欄に投稿した俳優のネルソン・チェンは、WGAが同意した条件がかなり妥協しているものだと論じる。
配信作品に関する契約では「配信会社はWGAに対し、Netflixのオリジナルシリーズのような高い予算で製作された作品の国内及び海外での視聴時間の情報を共有する」としているが、WGAが当初要求したように、視聴時間に基づいてresidualsと呼ばれる再使用料が脚本家たちに支払われるとはされていない。
チェンは「これでは視聴時間のデータを取得しても何の得にもならない。また契約では多く視聴された作品の脚本家にはボーナスが支払われるとあるが、それも一定の視聴数をクリアしなければならず、それに達しない作品の脚本家たちにはびた一文も支払われない」と指摘する。
一方、SAG-AFTRAは、最低報酬基準を引き上げ、労働条件を改善すると同時に、配信作品の収益の2%の分配金を要求しているそうで、チェンは、今年の8月にプロバスケットボール協会(NBA)に対して選手たちが取り付けた、NBAが得る収益の49%~51%の分配金を選手たちに支払うという契約と比較。
「我々は収益の51%を要求しているわけではない。我々が要求しているのは2%だ。WGAはそれさえ獲得できなかった。我々にはWGAより良い条件で交渉する時間の余地がある」と、WGAのような妥協を許すべきでないと主張。
SAG-AFTRAのストライキは、組合が提供する健康保険に加入するために必要とされる2万6470ドルの年収さえ得られない自分のような無名俳優が、人並みに生活できる収入が得られることをゴールにして闘うべきだと結論づけている。
ストの期間中、広報活動に参加したスターたちもいたが……
SAG-AFTRAは、7月にストライキに入って以来、まだ1度もAMPTPと正式な交渉をしておらず、WGAのストライキが終結したことで近いうちに協議の場が設けられることが予想されている。
その一方で、SAG-AFTRAは7月28日の協議で、AMPTPに加盟していない独立系プロダクション会社の作品の製作や完成作の広報活動などに、組合員たちが参加することを許可する仮協定を締結。製作や広報活動に参加してこられなかった俳優たちが活動を開始した。
例えば、マイケル・マン監督の新作『Ferrari』は大手映画会社による製作ではないため、仮協定の対象となり、同作がヴェネツィア国際映画祭でワールド・プレミア上映された際は、マンと共に出演者のアダム・ドライヴァーやパトリック・デンプシーらがプロモーションのために上映に出席した。
同様にヴェネツィア国際映画祭に出席していたのは、ジェシカ・チャステインとピーター・サースガード。2人は、『或る終焉』(2015)などの作品で知られるメキシコ出身の監督ミシェル・フランコの新作『Memory』に出演しており、同作のプロモーションのために、同映画祭やトロント国際映画祭に出席した。
チャステインは、仮協定についてX(旧ツイッター)で
「独立系プロデューサーたちの大部分が進んで仮協定を結んでくれたら、私たちの契約条件が非現実的で法外だというAMPTPの主張が間違っていることを証明することになる。それと同時に、仮協定はストライキの間、働けなくて苦しんでいる映画製作クルーに仕事の機会を提供する。」
「こうすることによって、ストライキの対象となっている会社に圧力をかけながらストライキの課題を前に進めていくことができる。他のやり方ではこうはいかない」
とつぶやき、仮協定を大いに評価するスタンスを取っている。
製作がストップしている作品、公開日延期をアナウンスした新作群
独立系プロダクション会社の作品とは対照的に、大手映画会社製作の作品は、製作が中断。
企画中だった作品は、WGAのストライキが終結したことで脚本家の作業は再開できるだろうが、キャスティングなど俳優が関わる作業は停止中。
撮影中だった作品は撮影が停止したままだし、完成済みの作品は出演俳優たちがプロモーション活動に参加出来ないので公開延期を余儀なくされている。
撮影が中断している作品には、「スパイダーマン」シリーズを手がけてきたジョン・ワッツが監督しブラッド・ピットやジョージ・クルーニーなどが出演している『Wolves』、「アバター」シリーズの3、4作目、「デッドプール」の3作目、そして1作目の公開から35年後に製作されている「ビートルジュース」の続編などがある。
ティモシー・シャラメ主演でジェームズ・マンゴールドが監督するボブ・ディランの伝記映画”『A Complete Unknown』やピクサー・アニメーションの『インサイド・ヘッド』の続編などは、製作準備中の段階で進行が停止している。
TVドラマや配信作品も同様で、「ストレンジャー・シングス」や「アメリカン・ホラー・ストーリー」、「イエローストーン」など人気シリーズの新シーズンの製作は停止中で、いつもなら夏休み明けの9月~10月に続々と新シーズンのエピソードが放送されるのだが、今年はリアリティTV番組の放送ばかりが目立っている状態である。
前述したように、俳優による大手映画会社のプロモーション活動もストライキの対象なので、大手映画会社がキャストのプロモーション活動が必須だと考えている作品などは、公開が延期されている。
ほんの一例だが、2023年9月15日に公開が予定されていたゼンデイヤ主演、『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督のロマンティックコメディ『Challengers』は2024年4月26日に、11月3日の公開が予定されていた『デューン 砂の惑星PART2』は2024年3月15日に、12月20日に公開が予定されていた『ゴーストバスターズ/アフターライフ』の続編(タイトル未定)は2024年3月29日にと、それぞれ公開日が延期された。
話題作の公開日に変更があると、他社作品の公開にも影響が出ることがあるので、今年の秋から来年の春にかけては、興行界も公開時期調整に忙しくなるのではないだろうか。
10月2日の時点ではSAG-AFTRAのストライキ終結がいつになるのか、まだまだ不透明な状況だが、映画界で働く人たちのためにも、映画ファンのためにも、1日でも早く契約同意に漕ぎ着けてもらいたいものである。