『ふたりの人魚』(00)、『天安門、恋人たち』(06)、『スプリング・フィーバー』(09)など、映画史に残る数多くの名作を世に送りだしてきたロウ・イエ監督。
新作となる『サタデー・フィクション』の舞台は、太平洋戦争が勃発する直前の上海。世界各国の諜報員が暗躍していた時代に、人気女優とスパイの二つの顔を持つ主人公を中心に据え、当時上海の中心とされていた現存する劇場「蘭心大劇場」で巻き起こる愛と謀略の物語を美しいモノクロ映像で描き出す。
本作の物語を描こうと思ったきっかけを聞かれたロウ監督は「ホン・インの小説「上海の死」で描かれる女スパイの物語を脚色して作った映画なのですが、上海は私にとって非常に重要な場所なんですね。というのも、私は両親の仕事の関係で、劇場の楽屋で育ったと言ってもいいぐらいほぼ劇場で過ごしていました。実は劇中に登場する蘭心劇場もそのひとつで、幼い頃によく両親と訪れていた場所なんです」と語った。
本作には、主演を務めたコン・リー(『さらば、 わが愛/覇王別姫』 )をはじめ、マーク・チャオ(『モンガに散る(艋舺)』 )、パスカル・グレゴリー(『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』 )、トム・ヴラシア(「ストレンジャー・シングス 未知の世界』」)など世界各国の俳優が出演していることも話題に。オダギリと中島をキャスティングした理由についてロウ監督は「キャスティングでまず最初に思い浮かんだのはオダギリさんでした。ただ、オダギリさん演じる古谷三郎は原作とはかなり違うんです。彼と一緒に、本作における古谷三郎という人物を作り上げていきました。そして中島さんですが、本作にバイオレンスな要素を足したかったので、そういうキャラクターを演じていただくために中島さんにオファーしました。中島さんとの初対面がリモートだったのですが、文学青年のような雰囲気だったので、暴力的な役には合わないかもと思ったんですね(笑)。でも、彼が『できます』と言ってくれたので、お願いすることにしました」と明かした。
監督の言葉を受けて中島は「ロウ・イエ監督のファンだったので、『できます』と言うしかなかったんです(笑)」と返し、会場の笑いを誘った。
続けて、撮影中のエピソードを聞かれたオダギリは「コン・リーさんと初めてお会いした時は緊張したのですが、とてもフレンドリーで優しい方で、誰に対しても同じように接していました。なので現場でもスタッフやキャストのみなさんから好かれていた印象が強いですね。あと、劇中に催眠術を受けるシーンがあるのですが、最初にキャストのみんなで集まったのは催眠術についての講義でした。先生が実際に催眠術をかけるのを『本当かな?』みたいな感じで怪しく見ていたのですが(笑)、みんなも同じように見ていたので、それがきっかけで仲良くなれたのかもしれません」とコメントし、会場は和やかなムードに。
そのあと中島は「最近日本の作品でもガンアクションに挑戦しているのですが、『サタデー・フィクション』の現場の火薬の量と全然違うんです。本作では射撃の名手という設定の役を演じたのですが、実は毎回拳銃の発砲音に驚いていました(笑)」と撮影秘話を明かした。
また、ロウ・イエ監督の撮影スタイルについてオダギリは「5、6台のカメラを置いて、長回しで撮影するスタイルだったんですが、だからこそ緊張感が常に保たれていましたし、リアルを追求することができ、シーンにもそれが反映されていると思います」と撮影を振り返った。
最後は監督から締めの言葉を頼まれたオダギリが「モノクロの映画を映画館で観られるというのはリッチな体験だと思いますし、音楽もほとんど流れないという、すごく洗練された映画になっています。ぜひ多くの人に劇場で鑑賞していただきたい作品です」と挨拶し、舞台挨拶は終了。登壇者たちが退場する際には、客席から大きな拍手が送られた。
映画『サタデー・フィクション』は全国順次公開中。
取材・文/奥村百恵
『サタデー・フィクション』
監督:ロウ・イエ
出演:コン・リー、マーク・チャオ、パスカル・グレゴリー、トム・ヴラシア
ホァン・シャンリー、中島歩、ワン・チュアンジュン、
チャン・ソンウェン/オダギリジョー