“「匂い」を感じる映画が好きですね。作品を見ていて『この感じ、知ってるな』って、どこか懐かしく感じることがあるんです。”
倉 悠貴
1999年12月19日生まれ。大阪府出身。2019年、俳優デビュー。『夏、至るころ』（2020）で映画初出演にして主演を飾る。
『スパゲティーコード・ラブ』（2021）『衝動』（2021）『窓辺にて』（2022）『禁じられた遊び』（2023）や、連続テレビ小説『おちょやん』（2021）など多数の映画とドラマに出演。
『こいびとのみつけかた』（10月27日公開）『コーポ・ア・コーポ』（11月17日公開）『市子』（12月8日公開）が控える。米ドラマ『Shogun』（2023）では、真田広之らと共演。
──人気ヤンキーコミックを実写化した「OUT」で、主人公の井口達也を演じられました。出演が決まった時は、どのように思われましたか？
原作が人気漫画なので、ファンの方をがっかりさせてはいけない、と責任を感じていました。
実際に漫画を読んで思ったのは、登場人物たちは闇の世界にいつ落ちてもおかしくない所にいますが、普通の青少年と同じように家族や友人を大切に思っていますし、義理に厚い部分が魅力的だということ。
この作品に、監督の品川ヒロシさん独特のヤンキー描写やアクション、ボケとツッコミといった要素が入ったら、映像としてきっと面白くなるだろうな、って思っていました。
──元・暴走族の達也を、どのような人物だと思われていますか。
“狂犬”と呼ばれるくらいなので、根っからのヤンキーではありますが、友人と家族思いで、守るべきものがちゃんとある人ですよね。
達也は少年院から出て更生中なので、大事な人が傷つけられても手を出してはいけないですし、色々なしがらみを抱えています。内に繊細さがある人だと思いますね。
──同じキャラクターを、水嶋ヒロさん、板垣瑞生さんも演じられています。
他の方も演じられたということでプレッシャーもありましたが、品川さんから『倉くんには倉くんの達也があるから、ちゃんと役を作ってくれると思ってる』と言われて、信頼してくださっているんだな、と感じていました。
僕、ヤンキー映画はイケイケな方が演じられるイメージを持っていたんです。でも僕自身はそういう性格じゃないし、憧れはありつつも、自分には縁がないと思っていたんですよね。
それでも僕を選んでくださったのは、達也の繊細な部分を見せることを期待してくださったのかな、と感じていますし、『OUT』の達也は、僕にしかできないものになっていると思っています。
──演技を振り返っていかがですか。
ヤンキーや喧嘩の経験がなくても、更生中の達也の感情は親身になって考えられると思ったので、仲間への思いや、譲れないものがあるという部分は、演じるうえで特に意識していましたね。
苦労したのはアクションです。レベルが高い動きを要求される現場で、撮影中に突然『ここでバク宙できる？』って聞かれたこともありました。実際に動きを見せてもらうんですが、自分にできるのか、毎回不安でしたね。でもやってみないと何も始まらないので、怪我に気を付けながら、自分ができる限界のラインを探りながらやっていました。
対峙したり怒ったりするシーンは、共演の方とにらみ合ったり、会話するなかで男らしい部分を引き出してもらったところがあって、“自分にもこういう一面があるんだな”と思いました。
演じられて嬉しかったのは、ケンカを始める時に『来いよ』と言うシーンです。『ドロップ』から引き継がれているシーンでもあるので、緊張しました。
──品川ヒロシ監督とのお仕事はいかがでしたか。
品川さんは、ご自分がやりたいことがしっかり基盤としてある方です。同時に柔軟性もあって、その場で生まれる演出が、アクション以外にもたくさんありました。とても頼れる存在で、現場のことも一番見えていらっしゃるので、“品川さんについていけば大丈夫”という安心感がありました。
達也を演じるには筋肉があったほうがいいということで、クランクイン前には毎日一緒にジムに行って、品川さんの筋トレメニューをこなしました。
家が近所なので送り迎えまでしてくださったんですよ。最初は怖いイメージもありましたが、実際はフレンドリーで優しい方です。
──筋トレで、満足のいく変化が得られましたか？
もっと時間が欲しかったな、というのが正直なところですが、“体づくりよりも大事なものがある”って勝手に解釈して、諦めていました（笑）。
──映画で、達也は暴走族“斬人”と交流することになります。登場人物たちの友情も見どころのひとつですね。
僕、『OUT』は達也と斬人の副総長、安倍要（水上恒司）のラブストーリーなんじゃないかな、と思っているんです。お互い表には出さないけど、無意識に相手を思い合っていて。本当に仲の良い親友って、逆に話さなかったりしますよね。そういう関係性なんじゃないかなと思います。
総長の丹沢敦司（醍醐虎汰朗）との危うい関係の中にある友情も『OUT』らしいですが、友情の深さでいうと、要と達也が一番だと思うんですよね。
──共演者には同世代の方が多いですね。
映画では争うこともありますが、友情がテーマの作品ですし、トゲトゲしているような方はいなかったです。醍醐くんと小柳心さん（田口勝役）は現場でもムードメーカーで、相談に乗ってもらうこともありました。
皆さん個性があって魅力的なので、撮影中は“うわ、こんなキャラクターは出来ないなぁ”とか“このアクションは自分には無理だ”って、よく嫉妬していました。
──そうなのですね。倉さんはデビューされてからこれまで、順調に俳優としてのキャリアを積まれているように見えます。
客観的に見ると順調なのかもしれません。でも僕自身はそんな実感はなくて。周りの俳優さんと比べてしまったり、自分の成長もなかなか実感しづらいから“これで大丈夫なのかな”って、常々思っています。
こうしてお仕事を頂けるのは、出会いがあってこそだと思うんです。一緒にお仕事をした監督の作品にまた呼んでいただいたり、縁がどんどん繋がってここまで来ているので、すべての作品が自分にとって出会いと経験になっていると思います。
あえて転機を挙げるならば、ドラマ『Shogun』（2023・米）の撮影で10か月くらい海外に滞在していたのですが、人種を越えてお芝居ができたことは、大きな経験になりました。
──「Shogun」の撮影を通じて、どのようなことを得られましたか。
海外に行くことが初めてだったのですが、言葉が通じない環境で生活することで、言葉の大切さがよく分かりました。
逆に、人に何かを伝える時に“言葉は本質じゃない”と考えるきっかけにもなりました。言葉が通じない分、ジェスチャーや表情で自分の考えを人に伝えることもあったのですが、それはお芝居にも通じることだと思っています。
あとは、海外の作品にも目に向けるようになって、自分の興味が広がりましたね。
──最近、興味を持った作品はありますか？
今日ちょうどフェデリコ・フェリーニの『道』がDVDで届いたので、家に帰ったら見ようと思っています。僕は『8 1/2』が好きなんですけど、知り合いの演出家の方に『「道」も見た方がいいよ』っておすすめされて、その場でポチっちゃいました。
見る作品に境界線は引きたくないので、興味が持てなくても見てみよう、というスタンスでいます。
──では、どのような作品に心を動かされることが多いですか。
“匂い”を感じる映画が好きですね。映画は視覚と聴覚で楽しむものですが、それ以外の感覚に訴えられるというか、作品を見ていて「この感じ、知ってるな」って、どこか懐かしく感じることがあるんです。それは視聴者に寄り添うというよりは、リアリティがある、ということだと思います。
前に出演した『夏、至るころ』（2020）もそういう作品で、撮影中に監督の池田エライザさんから『音と匂いを感じて』って言われていたんです。そこから匂いを意識するようになりました。
──演技をするうえで、心がけられていることを教えてください。
“役を生きる”ということですね。今の、その時の自分にしかできないことがきっとあって。演じる人物がキャラクターっぽくならないように、地に足がついたリアルさというか、見てくれる人に“この人、この後どうなったのかな”って想像されるような演技を心がけています。
僕は演じる中で徐々にその人物を見つけていくこともあって。今回の『OUT』も、達也という人物を理解して現場に臨むわけですが、達也として生きる中で、より彼の考え方が僕自身に寄り添って、理解が深まるような感覚がありました。
ある瞬間から“役を掴めた”と手応えを感じるようなことはなくて、周囲に『達也っぽい顔になってきたね』って言われて、実感するような感じです。
──倉さんは多くの作品に出演されているので、役から役への切り替えが大変ではありませんか？
自分ではうまく切り替えられているのか、よく分からないんですよね。でも人間は多面性がある生き物ですし、もし切り替えられていない部分があったとしても、逆に面白いんじゃないかな、って思っています。
『OUT』2023年11月17日（金）公開
『ドロップ』（2009）『漫才ギャング』（2011）などの品川ヒロシ監督が、累計発行部数650万部を超える人気コミック「OUT」を映画化。監督に加えて脚本も務め、自身の親友であり『ドロップ』にも登場する不良中学生・井口達也のその後と破天荒な青春を描く。
狛江で暴走族の特攻隊長を務め、少年院から出所した達也。地元から離れた西千葉で更生生活を始めるが、ひょんなことから暴走族“斬人”の副総長・安倍要と出会う。喧嘩したら一発アウトの達也は、斬人との関わりを避けようとするが、半グレ集団“爆羅漢”との激しい抗争に巻き込まれていく。
主人公の達也を『窓辺にて』（2022）の倉 悠貴が演じるほか、醍醐虎汰朗、与田祐希（乃木坂46）、水上恒司、與那城 奨（JO1）、大平祥生（JO1）、金城碧海（JO1）、杉本哲太、渡辺満里奈らが出演。
さらにじろう（シソンヌ）、大悟（千鳥）、庄司智春（品川庄司）と、品川監督ならではのキャストが脇を固めている。
井口達也（倉 悠貴）
“狛江の狂犬”と呼ばれた伝説の不良。少年院から出所し、おじちゃん、おばちゃんが営む西千葉の焼肉屋で働き始める。暴走族・斬人の安倍要と出会い、思わぬ抗争に巻き込まれる。
『OUT』
2023年11月17日（金）公開
日本／2023／2時間9分／配給： KADOKAWA
監督・脚本／品川ヒロシ
出演：倉 悠貴、醍醐虎汰朗、与田祐希（乃木坂46）、水上恒司、與那城 奨（JO1）、大平祥生（JO1）、金城碧海（JO1）、杉本哲太、渡辺満里奈
