作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。なぜか遠い記憶の底から過去の映画の記憶が次々と蘇る、うたかたの日々…。

斉藤博昭
映画ライター。本年度からCCA(クリティックス・チョイス・アワード)に投票する会員になりました。11月はノミネートで悩む時間に。

前田かおり
映画ライター。ドラマ「個人の趣向」以来、大のリュ・スンリョン好き。今秋は「ムービング」もあり盆と正月が一度に来た気分。

土屋好生 オススメ作品
『リアリティ』

実際に起きた国家的機密漏洩事件の推移を
息つく間もない構成で描く心理サスペンス

画像1: 土屋好生 オススメ作品 『リアリティ』

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像4/音楽3

あらすじ・概要
スーパーの買い物帰りの25歳のアメリカ人女性リアリティ・ウィナーが、彼女の自宅で待ち受けたFBI捜査官の尋問を受けることに。容疑は国家機密の漏洩。リアリティはNSA(国家安全保障局)の契約社員だった。

この映画をひとことでいえば、無駄な枝葉をそぎ落としたような究極の心理サスペンス劇。いささか褒めすぎかもしれないが、とにかく全編スキのない構成で冒頭から終幕まで息つく暇も与えない。

もちろんここで描かれる題材が情報漏洩罪に問われた若いアメリカ人女性の逮捕劇という特殊な事情があるにせよ、リアルな筋運びは他の追随を許さない。がこの映画が圧倒的に優れているのはFBI(連邦捜査局)の尋問をリアルタイムで復元した脚本だろう。

画像2: 土屋好生 オススメ作品 『リアリティ』

そしてそれ以上に驚かされるのは、その脚本をもとに主人公を演じた女優シドニー・スウィーニーその人に違いない。特に余裕を見せる前半から緊張感も頂点に達するラストに至るまで、出ずっぱりのシドニーはまるで別人のように前半とは異質の表情を見せるのだ。

アメリカ大統領選への介入疑惑に関する報告書をメディアにリークした2017年のリアリティ・ウィナー事件を下敷きにしているとはいえ、国家機密漏洩事件を細部まで再現する新鋭ティナ・サッターの演出力には、ただただ脱帽!

公開中/トランスフォーマー配給

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斉藤博昭 オススメ作品
『ザ・キラー』

孤高の暗殺者の復讐劇が予想外のベクトルで爆走するデヴィッド・フィンチャー監督作

画像1: 斉藤博昭 オススメ作品 『ザ・キラー』

評価点:演出5/演技5/脚本5/映像5/音楽4

あらすじ・概要
パリでの仕事が思った通りになしとげられなかった“暗殺者”は隠れ家のあるドミニカへ戻る。しかし自宅では同居する女性が何者かに襲われ、重傷を負っていた。男は復讐を誓って仕事の仲介者の元へ向かう。

相変わらずカッコよすぎるデザインのオープニングで瞬殺的に陶酔させた直後、役名のない主人公(暗殺者)の仕事の現場にわれわれも一気に放り込まれる。

画像2: 斉藤博昭 オススメ作品 『ザ・キラー』

殺しの依頼を最高なプロセスでこなすため、周到な準備、ストイックな集中力、細部に至る異様なこだわりが、主人公のナレーションとともに描かれ、いったいどんな完璧な暗殺シーンが観られるのかとテンションが上昇。

今か、今かという“タメ”に悶絶し、解き放たれるように展開される実際のミッション、その後始末は、予想外のベクトルで爆走する。

そこから始まるメインストーリーでは、すっとばす部分は最低限のシーンで小刻みに挿入。一方でじっくり見せるべきパートはそのように演出され、メリハリが最高レベルの映画のテンポを実感。

M・ファスベンダーのゾクゾクするほどの不敵な表情、思わぬユーモアセンスなど見どころは多岐に渡るが、理想の仕事スタイルを独白しながら、常に不覚なアクシデントに襲われる主人公に、映画作家D・フィンチャーの素顔が重なり、胸が熱くなった。

Netflix映画『ザ・キラー』独占配信中

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前田かおり オススメ作品
『人生は、美しい』

余命宣言を受けた妻とその夫の旅を
まさかのミュージカル仕立てで描く

画像1: 前田かおり オススメ作品 『人生は、美しい』

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要
専業主婦のセヨンは夫ジンボンや子供たちに尽くす毎日。だが突如、余命宣告を受ける。絶望するも吹っ切れた彼女は初恋の相手との再会を願い、ジンボンに頼んで初恋の彼の行方を捜す旅に出るが。

余命わずかな妻から「初恋の人に会いたい」と言われた夫が、妻とその願いを叶える旅に出る。号泣シーン満載のロードムービーと思いきや、まさかのミュージカル仕立て!?

韓国で流行った懐かしのヒット曲が夫婦の心情を代弁し、2人の人生を彩る。曲を知らなくても、日本にもいそうな中年夫婦が軽やかに歌い踊る姿に引き込まれ、韓国横断の珍道中に釘付けになる。

画像2: 前田かおり オススメ作品 『人生は、美しい』

妻役のヨム・ジョンアはドラマ「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」では超セレブママ役で主演していたが、本作では死期が迫っているのに輝きを増していくヒロインをチャーミングに演じる。

一方、常に仏頂面の夫にはリュ・スンリョン。『エクストリーム・ジョブ』(2019)で抜群のコメディセンスを見せた彼が、本作では情熱的な若者だった頃からいつしか使えないダメ夫と化した姿などを絶妙に体現。

そんな平凡な夫婦の物語が共感を誘い、人生の尊さを痛感させる。オン・ソンウやシム・ダルギら注目の若手や、名脇役のヨム・ヘラン、キム・ソニョンも顔を出す。余韻が心地好い。

公開中/ツイン配給

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