早くも2023年が終わろうとしていますが、そろそろ映画界は賞レースのシーズン。その中で最も気になるのは、なんといっても96回目を迎える米アカデミー賞。2024年3月10日(現地時間)にドルビー・シアターで行われる授賞式に向って、いまどんな作品や映画人が有力視されているのか。先取りで調査してみましょう。まずはこの年末に日本公開される有力作品3本の紹介から。(文・米崎明宏/デジタル編集・スクリーン編集部)

『マエストロ:その音楽と愛と』

ブラッドリー・クーパーが描くマエストロ=バーンスタインと愛妻の物語

画像: 『マエストロ:その音楽と愛と』

オスカー主要部門で複数候補となるか?

アリー/スター誕生』(2018)のブラッドリー・クーパーが20世紀を代表する音楽家の一人、レナード・バーンスタインと彼の妻フェリシアの複雑な夫婦愛を描く監督作品。バーンスタインをクーパー自身が演じ、フェリシアには『プロミシング・ヤング・ウーマン』のキャリー・マリガンが扮している。

本作は先日行われたベネチア国際映画祭で初上映され好評を博し、来たるアカデミー賞でも作品賞、主演男優賞、主演女優賞など主要部門の有力候補と噂されている。

また製作にはスティーヴン・スピルバーグとマーティン・スコセッシというハリウッドの2大巨匠が当たっているのも注目。

クーパーの言葉によれば、彼は子供のころから指揮者に憧れを抱いており、レナード・バーンスタインはまさに英雄的存在。バーンスタインの研究を深く進めるうちに、彼の人生で最も興味深く、共感を覚えたのがフェリシアとの結婚だった。

バーンスタインの輝かしい音楽家人生を描きながら、彼のよく知られた性的志向にも触れ、にもかかわらず真の愛を貫いた夫婦愛に惹かれたクーパーは、6年間の準備期間中に夫妻の3人の子供たちの協力を得て、より真実に近い物語を掴むことに成功したという。

クーパー、マリガンを囲んで、『マジック・マイク』(2012)のマット・ボマー、『アステロイド・シティ』(2023)のマヤ・ホーク、『ドント・ルック・アップ』(2021)のサラ・シルヴァーマンらが共演。

ブラッドリー・クーパーの決心

画像: 撮影中のブラッドリー・クーパー(左)

撮影中のブラッドリー・クーパー(左)

元々はスティーヴン・スピルバーグ監督の企画としてレナード・バーンスタインの伝記映画が製作される予定で、まず主人公にクーパーが考慮された。

「スティーヴンから送られた脚本をすぐに読んで、彼に嵐のようなテキストメッセージを送りました。僕の頭の中にいろいろな考えが浮かんできたので。その後、彼が監督を降りると聞いて、後継者として名乗りを上げたんです。

『もし本当にあなたが監督しないなら、私がバーンスタインの調査をしてもいいでしょうか? 私が監督と主演をできないか考えたいんです』と聞きました」

これは『アリー/スター誕生』が公開される前の話で、映画のラッシュを見たスピルバーグはクーパーを後任者に選ぶことを決定したという。

レナード・バーンスタイン(1918–1990)とは?

画像: クーパーが熱演する名匠バーンスタイン

クーパーが熱演する名匠バーンスタイン

1918年マサチューセッツ州生まれ。ハーバード大学卒業後、カーティス音楽院でピアノ・指揮・作曲を学んだ。1943年にニューヨーク・フィルの副指揮者に任命される。その年、大指揮者ブルーノ・ワルターの代役でニューヨーク・フィルを指揮したことが大評判を呼び、一躍注目の新人に。

1951年にチリ出身の女優フェリシアと結婚。彼が作曲を担当し1957年に初演となった舞台「ウェスト・サイド・ストーリー」は大ヒットし、1961年の映画化も含めバーンスタインの名を世界に轟かせた。

その後も数々の伝説的コンサート、教育活動などによって20世紀を代表する指揮者・ピアニスト・作曲家の地位を不動のものとした。

CDや本でもバーンスタイン・ブーム?

画像: ヤニック・ネゼ=セガン『マエストロ:その音楽と愛と(オリジナル・サウンドトラック)』

ヤニック・ネゼ=セガン『マエストロ:その音楽と愛と(オリジナル・サウンドトラック)』

レナード・バーンスタインのCDと関連書籍も、現在話題を呼んでいる。『マエストロ:その音楽と愛と』のオリジナル・サントラが12月1日にドイツ・グラモフォンよりリリースされる。

これに先駆けブラッドリー・クーパー指揮による「マーラー:交響曲第2番ハ短調≪復活≫から第5楽章」が先行配信中だ。

また映画の原作ではないが、バーンスタインと2人の日本人の長年に渡る信頼関係を扱った本「親愛なるレニー~レナード・バーンスタインと戦後日本の物語」(吉原真里・著/アルテスパブリッシング刊)も今、話題。巨匠の知られざるエピソードが満載で、映画を見るときに役立つ副読本になりそうだ。

『マエストロ:その音楽と愛と』
2023年12月8日(金)公開
アメリカ/2023/2時間9分
監督・出演:ブラッドリー・クーパー
出演:キャリー・マリガン、マット・ボマー、 マヤ・ホーク、サラ・シルヴァーマン

Netflix 映画『マエストロ:その音楽と愛と』12 月20 日(水)より独占配信

国際長編映画賞部門を賑わせる注目の2作品

『PERFECT DAYS』

ヴィム・ヴェンダース監督の話題の新作が日本代表に

画像1: 『PERFECT DAYS』

『ベルリン・天使の詩』(1987)などで知られるドイツの名匠、ヴィム・ヴェンダースが東京・渋谷を舞台に一人の公衆トイレ清掃員の日々を描いた最新作。

先日のカンヌ国際映画祭では主人公・平山を演じる役所広司が最優秀男優賞を受賞し話題を呼んだ。本作は次期アカデミー賞の国際長編映画部門で日本代表に選出され、有力候補の一つと目されている。

画像2: 『PERFECT DAYS』

東京の下町の古いアパートで一人暮らしをする平山(役所)は、渋谷で公衆トイレの清掃員として毎日を規則正しく送っている。

晴れの日も雨の日もただ黙々とトイレをきれいに磨いていく日々を彼なりに楽しんでいるかのような平山は、ちょっといい加減な同僚の若者タカシ、ホームレスの男、銭湯で出会う老人、古本屋の女主人、居酒屋の店主、飲み屋のママといった面々に囲まれている。

そんな彼の生活に思いがけない出来事が起きる。それは平山の“繰り返される今”を小さく揺らしていくのだった。

ロケーションは渋谷、浅草などで行われ、脚本はヴェンダースと高崎卓馬の共同、撮影を『わたしは生きていける』(2013)のフランツ・ラスティグが担当している。

画像3: 『PERFECT DAYS』

メモ
映画に登場する平山が清掃する奇抜な公衆トイレたち。これらは渋谷区にある公共トイレを、隈研吾、安藤忠雄といった世界的な建築家やクリエイターたちが各々の視点でリニューアルするというプロジェクトでできたもので、現在17か所が完成している。

『PERFECT DAYS』
2023年12月22日(金)公開
日本/2023/2時間4分/配給:ビターズ・エンド
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司、田中泯、中野有紗、柄本時生、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和

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『ポトフ 美食家と料理人』

トラン・アン・ユン監督のグルメ映画がフランス代表に

画像1: 『ポトフ 美食家と料理人』

『青いパパイヤの香り』(1993)などで知られるベトナム出身のトラン・アン・ユン監督が、料理への情熱で結ばれたフランスの美食家と料理人の愛と人生を数々の料理を通して描き、第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞。

続いて次期アカデミー賞で国際長編映画部門のフランス代表に選出され、こちらも有力候補の評判が高い。

出演は『真実』(2019)のジュリエット・ビノシュ、『ピアニスト』(2001)のブノワ・マジメルら。

画像2: 『ポトフ 美食家と料理人』

19世紀末のフランス。森のシャトーで暮らす究極の美食家ドダン(マジメル)と彼が閃いたメニューを完璧に再現する料理人ウージェニー(ビノシュ)。2人は深い愛と信頼で結ばれていたが、プロに徹するウージェニーはドダンの求婚を断り続けている。

ある時、ユーラシア皇太子の晩餐会に招かれ、出された料理に辟易したドダンは、逆に皇太子を招き、最もシンプルな料理ポトフでもてなそうと考えるが、その矢先ウージェニーに異変が……。

画像3: 『ポトフ 美食家と料理人』

画面に映し出されるグルメの料理監修をミシュラン三ツ星シェフのピエール・ガニェールが担当し、皇太子お抱えシェフの役で出演も果たしている。

メモ
目で見るだけでも美味しい料理の数々が登場する本作を作り上げたトラン・アン・ユン監督は、ガストロノミーについての映画を作りたいと考えていた。それは「他の芸術とは異なる感覚=味覚に焦点を当てた芸術」と称している。調理の過程だけでも芸術的!

『ポトフ 美食家と料理人』
2023年12月15日(金)公開
フランス/2023/2時間16分/配給:ギャガ
監督:トラン・アン・ユン
出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル、エマニュエル・サランジェ

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