「おい、なんで俺がピンクなんだ?」
裏社会の大物ジョーによって集められた6人の犯罪プロフェッショナル。強盗計画の情報がもれることを防ぐために、首謀者のジョーは男たちに色の名前を偽名としてつける。ベテランのMr.ホワイト、出所したばかりのサイコ男・Mr.ブロンド、肝の座った泥棒・Mr.オレンジ、独特な信念を持ったMr.ピンク、無口なMr.ブルーに饒舌なMr.ブラウン。なぜか「ピンク」とつけられた男は反論するが、頑固なジョーには一切受け入れられない。殺伐とした雰囲気の中、駄々をこね始めるMr.ピンクの姿が笑いを誘うユーモラスなシーンだ。
因みに、メンバーの中で最もサイコなMr.ブロンドを演じたマイケル・マドセンは当時を振り返り「俺はMr.ピンクをやりたかった。でもクエンティンは俺のMr.ピンクは気に入らず、ブロンドと決めていた」と語っている。もし配役が違えば全く違う名シーンも生まれていたのかもしれない。
「“Like a Virgin”の意味を教えてやろう。あれは巨根の男にやられる女の曲さ。曲全体が巨根の比喩なんだ」
仕事の前にダイナーの円卓に集まった6人。只ならぬ雰囲気の中、銀行強盗計画でも始まるのかと思いきや、なんと展開されるのはマドンナの名曲「Like a Virgin」に関する各々の解釈論。「歌全部が巨根の暗示だ」と言い張るMr.ブラウンに対して「いや、違う。傷つきやすい女の歌だ」と反論するMr.ブロンド。この後、怒涛の如く展開されるヴァイオレンスアクションとは裏腹に約7分間に渡り不毛な会話シーンが展開。
因みに、マドンナは「あの歌は巨根の話ではなく、純粋な愛の歌よ」というメッセージを書いたアルバムをタランティーノに贈ったと言われるエピソードも(Independennt 2022 Oc 7thの記事より)。映画史を変えた伝説のオープニングシーンを是非スクリーンで堪能してほしい。
「チップは払わねえ。こいつは俺の主義だ」
同じく冒頭のダイナーのシーンでのMr.ピンクのセリフ。食事代を支払う代わりに、男たちにウェートレスへのチップを出すように命じるジョー。だが、Mr.ピンクだけは「俺はチップは払わない主義だ」と支払いを拒否し、また男たちはああでもないこうでもないと議論を始める。何気ないセリフだが、いずれ彼らのそれぞれの信念がぶつかり合うことを示唆しているようにも思える。
因みにMr.ピンクを演じたスティーヴ・ブシェミは「自分はちゃんとチップを払う。グレートなティッパーだ。映画内の台詞はクエンティンの本当の哲学だ。あれが彼のチップを払うことに対する考えだ。彼とレストランに行くといつも大変だ」とインタビューで語っている。
「夢で撃ちやがれ。起きた時に俺に謝れよ」
持っていたアドレス帳を冗談でMr.ホワイトに取り上げられて怒るジョー。「ジョー、こいつを撃ってやろうか?」と怖いもの知らずのMr.ブロンドはベテランのホワイトに焚きつける。それに対してホワイトが放った余裕たっぷりの一言。たわいもない会話のシーンが一瞬で戦慄し、ユーモラスだった彼らのギャングとしての本性が露になるセリフだ。
「おまえにできるのは、早く死ねるように祈ることだけだな。そうはいかんが」
宝石強盗で客や店員に乱射して、ホワイトやピンクたちから“サイコ野郎”と言われていたMr.ブロンド。生け捕りにした警官を倉庫に連れてきてからは冷静に見えたブロンドだったが、他の仲間が外出すると本性を現す。ブロンドは、ラジオから流れる「スタック・イン・ザ・ミドル・ウィズ・ユー」に合わせて歌い踊りながら、警官の耳をカミソリで切り落とす。やはりマトモではないMr.ブロンドの残虐性が露になるセリフで、陽気な音楽から一転、突如始まる凄まじいバイオレンスシーンの緩急は今やタランティーノのトレードマークとなっている。
映画を愛し映画に愛された男、クエンティン・タランティーノ。そんな彼の原点にして伝説の幕開けとなった作品『レザボア・ドッグス』。ストーリーはいたってシンプル。宝石店強盗のために寄せ集められた6人のギャングたちの仕事が、無残な失敗に終わる。なぜか現場に警官が待ち受けていたのだ。派手な銃撃戦をかいくぐり、命からがら集合場所の倉庫に集まった男たちの間に緊張が走る。「裏切り者は誰だ?」生き残ったギャングたちひとりひとりの知られざる姿が、フラッシュバックでテンポよく明かされていく。そして物語は血で血を洗う惨劇へと突き進んでいくー。上記に紹介したセリフが出てくる場面以外にも痺れるシーンばかりの本作、ぜひこの機会に劇場で鑑賞してみてほしい。
『レザボア・ドッグス デジタルリマスター版』
2024年1月5日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
計画を遂行するためだけに集められた6人の男たち。狙いは宝飾店。準備も万全だった。しかし、襲撃と同時に彼らは罠にハメられていたことに気づく。男たちは集合場所にたどり着くが、ある疑いを捨てきれない。裏切者がいるのではないか? 男たちはぶつかり合い、やがて予想しなかった結末を迎える。
監督・脚本: クエンティン・タランティーノ
プロデューサー:ローレンス・ベンダー
製作総指揮:リチャード・N・グラッドスタイン、ロンナ・B・ウォーレス、モンテ・ヘルマン
共同プロデューサー:ハーヴェイ・カイテル
撮影監督:アンジェイ・セクラ
美術デザイン:デヴィッド・ワスコ
衣装デザイン:ベッツィ・ヘイマン
音楽監修:カリン・ラットマン
編集:サリー・メンケ
出演:ハーヴェイ・カイテル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、クリストファー・ペン、スティーヴ・ブシェミ、ローレンス・ティアニー、カーク・バルツ、エディ・バンカー、クエンティン・タランティーノ
1992|アメリカ|99分|スコープ|原題:RESERVOIR DOGS|字幕:齋藤敦子 キングレコード+ハピネット・メディアマーケティング共同提供|鈴正+フラッグ共同配給 PG-12
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